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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第六部 四章 「愛情と言う名の鎖」
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「知識に埋もれた一つの星」

 小馬鹿にし、それなりに笑い終わればクロトは本を閉じ、「よっ」と言って立ち上がる。

 

「アンタには難しそうだしな。俺より年上なのに」


 嫌味の様に、意地悪な顔でエリーの知能の低さを笑う。

 これは普段でも見ているが、小さいとなるとどうしても可愛さが勝るものだ。悔しくもなく、事実だと言い返せない。

 分厚い本を適当な場所に置くと、同類の厚さをした本がぎっしりと詰まった本棚を見上げた。

 エリーもその本を眺める。……が。やはりタイトルも全て難しそうでしかない。

 此処にきて、エリーは自分は本が苦手なのだと思い知らされた。もう見ているだけで頭痛が……。


「……俺は一通り見終わったんだが、アンタでも読めそうなのってあるか?」


「すいません……。私、こんなに本がいっぱいあるのをあまり見た事がないので……」


 ヴァイスレットの一室でも似たようなものはあったが、あまり気にはしていなかった。

 いざ意識をそれらに向けるとなると、手強いものを見上げている気分になる。


「……? って事は、アイルカーヌの学院関係とは無関係か。こんな場所にいるんだから、王都の学院の知り合いかと思ったが、アンタみたいな変な目をしたの、やっぱ知らねーし」


「……がくいん?」


「アンタ、アイルカーヌの住人ですらねーのか? アイルカーヌで学院を知らねー奴なんていねーってのに」


 決まったのか、棚にあった本を一冊取る。

 これまた分厚い本を開くと、一つの建造物が描かれており、細かな文字がページを占領している。

 大きな建物だ。しかし、城とは違う。屋敷とも違う。


「アイルカーヌ王都にある、北の国最大の学院だ」


「……そう、ですか。その……がくいんって、なんですか?」


「学院すら知らねーのか……。見た目に寄らず、結構貧相な場所の育ちなのか?」


 容姿は良いが、あまりの無知にクロトの頭が下がる。

 落胆の様子には再度申し訳なる思いだ。


「これ以上は完全に悪口になるな……。学院っていうのは、いわば学校だよ。何処の国にもあると思うぞ?」


「……学校。何をする所なんですか?」


「要は勉強だな。国によって分野が違ったりするが、例えばレガルは精霊学が一般的だし、サキアヌは魔素を多用しない歯車を基本とした化学分野だし、クレイディアントとヴァイスレットの学問は幅広い平等的な分野で、あんま尖ったもんは聞かないな。そんで、アイルカーヌは魔科学分野に特化してるよ。魔素を扱った研究が多くて、それを人が扱えるように研究、製造。一般的な魔道具とかの多くも、アイルカーヌやレガルの技術でできてるんだぜ」


「は、はあ……」


「つまりは、学院ってのは大勢の人が学び、教養し、新たな知識の可能性を広げる場所だ」


「うーん。勉強する……場所ですか。クロトさんも行かれているんですか?」


 これだけ一般を熟知しているのだ。クロトの知識は、そういった施設で育っているのやもしれない。

 それは知識量の差も出るというものだ。

 そう納得しようとするも、クロトは意外と首を横に振った。


「いや。俺は学院には通ってねーよ。数週間程度、親の付き添いで行ったくらいだ」


「そうなんですか? でも、クロトさんはいろんなことを知ってますし……」


「そりゃあ、父さんがそれなりの研究員でもあるし。家にはこれ以上の書物があるからな。歴史に研究書籍。図鑑や学院にあるようなもんもある。わざわざ通っている必要もないってわけ」


「……お父さん」


 母親は先ほど見かけた。父親の姿はまだ見ていない。

 確かクロトの父親は……クロトが幼い頃に亡くなったはずである。そう記憶しており、エリーは言葉を詰まらせる。

 あまり過去やクロトの周囲の事を探るのは、かえってクロトに負担をかけてしまうかもしれない。

 言葉に迷うも、クロトは話を続ける。


「父さんは前に死んだよ。……王都に向かう途中、賊に襲われてな」


 事情を語られ、エリーはクロトの顔を注意深く様子をうかがう。 

 親の死に悲しんでいないか。今でも辛い思いをしていないか。表情を確認するが、そういったものはあまり見られない。

 

「すいません。……お父さんがいなくなって、寂しくないんですか?」

 

 表情を曇らせていないのが不思議なくらいだ。

 尋ねてみると、


「そんなもん、寂しいに決まってるじゃんか。実の親なんだから、当たり前だろ?」


 と。極普通の返答をする。

 

「父さんはさ、すごかったんだ。だから俺も、父さんみたいになるって、決めてた。父さんができなかった研究を俺が継いで、可能にする。それに、いつまでも父さんが死んだ事を悩んでても、しょうがねーだろ? 俺が後ろ向きじゃ、母さんが不安になる。俺は、父さんの分も頑張らないといけないんだ」


 これが、クロトの言葉とは思えない。まるで、全くの別人だ。

 クロトなら、他人の想いを引き継ごうとなどしない。誰かのために努力しようとはしない。

 この少年は、魔銃使いの基本を裏返したような存在だ。

 無関心は関心に。誰かのために必死と頑張っている。

 クロトと思えない言動。だが、その必死と他者を想う気持ちには、何処となく安堵が込みあがってくる。


「お母さん想いなんですね」


 クロトは母親を想っている。

 その意思には賞賛すべきものがあった。

 少女の微笑みに、クロトは褒められた事に顔がわずかに赤らみ、ふてくされた様にそっぽを向く。


「当たり前だってのっ。それとも、意外にアンタはそんなんで親には無関心なわけ?」


「そ、そんな事は……。私も、愛してくれたお二人には感謝しかありません。こんな私を愛してくださったんですから」


「よくわかんねーが、アンタって自分をマイナス思考で見てんのか? あんま自分を低く見てると、上を向けなくなるぞ?」


「が、頑張りますっ」


 意気込みを入れ、エリーは強気と本棚を見上げた。


「そうですよねっ。私も頑張っていろんなことを覚えないと」


「意気込みはいいが、突っ走りすぎんなよ? 身が持たなくなるからな」


「は、はい!」


 入った力を半分ほど抜き、気を楽にして再度向き直る。

 まずは手頃なものが良いだろう。薄いもので、読みやすそうなもの。

 順に探して、星の瞳が一点で止まる。

 無意識に手を伸ばしたのは、分厚い本に紛れた薄い一冊。

 手に取ったそれは論文をまとめた本でも、学問に精通するものでもない。

 ただの絵本だ。


「……これ」


 何処か見覚えのある絵本。

 本全体は青黒く、表紙に白く星が描かれたもの。

 過去の自分の記憶で、少女が眺めていた絵本と酷似している。

 タイトルは――【ねがうほし】。


「ん? ああ、懐かしいな。そんなところにあったのか」


「クロトさん、この本を知っているんですか?」


「知ってるもなにも、自分の家にある本くらい覚えてるよ。……結構有名な絵本でさ、全国的に知られてるやつ。でも、国によって絵柄が違ったりしてさ。でも内容は一緒のはずだぞ」


 酷似している理由。若干の違いは絵柄の問題である。

 しかし、中身は一緒で、全国的に広く知られている有名な絵本らしい。

 エリーはまだこの本の内容を知らない。


「よかったら読んでみるか? わかんねーとこは俺も読んでやるからさ」


 再び床に座り込む。長く閉ざされていた絵本を開くと、軋むような若干嫌な音が出迎えた。

 最初は黒一色のページ。次のページから、物語は始まった。

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