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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第六部 二章 「今と過去の星」
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「最初の黒星」

 エリーは、ふと上を見上げた。

 頭に響くような第三者である少女の声を探す様に、部屋中を見渡す。

 魔銃使いも同様、上を見上げていた。

 しかし、声はするも姿が見えない。

 実際この場にはいないのか、魔女の声は不思議と響くもの。


『本当に偉いわクロト。あれから更に強く成長してくれて、私は嬉しいわ』


 褒める言葉に、魔銃使いは苛立ちを舌打ちで表現した。

 

『御託はいい……。とっとと俺の呪いを解けっ。今すぐだ!』


 クロトの望みはエリーと繋がっている呪いを解く事だ。エリーもそれを知っている。

 この場での呪いとはその事だろう。

 だが、今でもその呪いは続いている。なら、この場でそれが解除されることはなかったのだろう。

 すぐに魔女は不思議そうに返答した。


『あら。何を言っているのクロト? ――貴方の()()はこれからなのよ?』


 ……と。案の定、解除しないと遠まわしに言った。

 

『ハアッ!? どういう事だよ!』


 魔銃使いにとって、これは約束を違えられたような感覚なのだろう。

 この場に来れば、呪いは解けるという算段が崩される。 

 魔女は、少々小馬鹿にしたように、くすくすと笑いだし続ける。


『私にはその子が必要なの。今貴方の目の前にいる子がね』


 疑問を浮かべ、魔銃使いは再度少女に目を向ける。

 現状など全く届いていない少女は、ただ頭を抱えて母の死を受け入れられず、身をガタガタと震わせている。

 この会話すら聞こえていないだろう。


『その子を貴方にお願いしたいの。……あ。殺しちゃダメよ? そんな事したら自滅すると思っておきなさい』

 

『……何が、言いたいっ』


 魔銃を握る手に手からは入る。

 爆発しそうな怒りをなんとか堪える魔銃使い。普段の短気なら、すぐに耐えきれなくなるのも時間の問題だ。


『だから。貴方にはその子を守ってほしいの。頑張っている貴方なら、きっとできるわ』


 期待感あふれる言葉を送る魔女。

 それに魔銃使いは構えていた魔銃を振るう。


『――ふざけるな!!』


 当然の反応。クロトは誰かを守るという事を嫌っている。

 呪いも解除されず、更なる魔女からの要求に応じる。それに怒り散らした。

 提案を曲げることなく、魔女は更に言い聞かせる。


『それが貴方の役目よ、クロト。時が来るまでその子を守り通したら、貴方の望み通り呪いを解いてあげる』


『なんで俺が……っ、こんなガキを……!』


 忌々しく、魔銃使いは少女を睨みつける。

 それには恨みすら感じられた。

 憎悪で今にも殺してしまいそうな様子に緊張が走る。

 

『今すぐ出てこいっ。でないと……、このガキを殺す!!』


 少女の死は魔女にとって不利益ならと、感情任せに魔銃使いは手を出そうとする。 

 指先が触れようとした瞬間。少女がビクリと反応し…………







 いったい何が起きたのか、エリーにはわからなかった。

 空間を揺るがす大規模なノイズ。刹那の一瞬に起きた途端、少女を中心に虚空は亀裂を走らせ、見えない衝撃が魔銃使いを弾き飛ばした。

 

『――ッ!?』


 壁に身を打ちつけられた魔銃使いが床に這いつくばる。


『なん……だっ!? 何が起きたっ』


 魔銃使いは、まるで少女に拒絶されたようにもあった。

 錯乱していた少女は、途端に勢いを増して泣き出していた。

 歯止めの聞かなくなった感情を溢れさせ、拭っても足りないほどの涙がこぼれてゆく。

 

『……ついに姿を現すのね。……災厄の星』


 魔女は嬉しそうに呟く。

 この時を待っていたと、そう言っているようだ。 

 そんな考えなどしっかりエリーの頭には入らない。最も目を引くのは少女だ。

 その溢れ続ける感情は、涙と言葉になって表に出る。

 

『……こんなの……嘘。全部……嘘ぉっ』


 少女は、否定した。

 否定し続けて。


『やだぁ!!! みんな……っ、みんな、嘘ばっかり!!』


 否定しか、できなくて。


『――嘘つき!! なんで、……なんで、みんな、私に嘘ばっかりなの!? 私、何もしてない! 何も悪い事してない!! なのにぃ……っ、なんでぇっ』


 否定することで、自分の無実を証明したくて。


『みんな酷い! みんなが私を悪く見る! みんなの方が……怖いのに、……私ばっかり』


 他者の自分を見る目がずっと嫌で。多くの者が自分を蔑んで、忌み嫌って。

 そんな世界が嫌いで。


『……っ、いらない。……こんな、嘘ばっかり、いらないっ』


 積もり積もった恐怖と憎悪で、世界を否定して。

 ……だから、こう思ってしまったんだ。




『――――全部いらない!! こんな嘘全部……いらない!!!』




 世界を…………、壊してしまいたくなった。


 これが、少し前の自分が放った言葉だと、認めるのには時間がかかった。 

 単なる、少女の思ってしまった事。

 全てに嫌気がさして。否定したくなって。何もかもが嘘であると願って……。

 その時、少女は願ってしまったのだろう。

 あの時。エリーがヴァイスレットで願いを告げてしまった、黒星にへと。

 空間が軋み、亀裂からは外の炎が漏れ出して部屋を覆ってゆく。

 咄嗟の混乱紛れに周囲の魔道装置は稼働を開始し唸りだす。

 

『そう……。それが私の望む貴方の願い。こんな世界なんて、いらないわよね』


 囁く魔女は少女の悲劇の願いを肯定する。


『ほら、クロト。早くしないと貴方もその子の力に壊されてしまうわよ? 外はもうすごい事になってるんだから』


『……魔女っ。貴様!!』


『また会いましょう、クロト。……私の愛おしい子』


『――くそ!』


 炎など気にも留めず、魔銃使いは駆け出す。

 唯一の魔女の手がかりである少女を見失わないため、その身を掴み取ろうとした。

 が、結果は届かなかった。

 それから一月後。魔銃使いと少女は再会を果たす。

 今まで見てきた少女の過去を忘れた、今の自分と……。

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