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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第六部 一章「闇の声」
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「星への嫌悪」

『ぁあ……っ、あぁあああっ』


 少女の泣声がエリーの聴覚を貫く。

 またしても光景が変わり、今度は少し狭く、暗い空間にいた。

 酷く泣く少女は母親に大事そうに抱えられている。母親も落ち着かせようと、少々焦った様子でいた。


『エリシア。……大丈夫、大丈夫だからっ』


 何度もそう言って安心感を与える。

 その近くには、一人の青年に取り押さえられた不気味な老婆が床に横たわって、険しい顔を少女に向けている。


『呪いの星っ。終焉をもたらす厄災の子供……っ。いずれその星は世界を終わらせる災厄を起こす! 忌むべき存在! 消さねば……、消さねばぁ!! 呪いの黒星を!!』


『おとなしくするんだ! 王妃様の前だぞ!!』


 取り乱した様子の老婆は体と声に力を入れ、少女を忌み嫌う。

 この場に立ち会った老婆は占星術を生業としており、少女の呪いの解決に役立てばとこの場に招かれていた。

 しかし、結果は見ての通りだ。

 何を観てしまったのか、老婆は普段抱かないであろう使命感ある殺意を抱き、手にする銀のナイフを少女に突き立てようとした。

 なんとかそれを食い止めたのは、今も老婆を押さえる青年のおかげである。

 まだ若い青年は、意外なまでの力を押さえつけるのに手一杯だ。


『王妃様っ。姫様は無事ですか? 何処かお怪我は……!?』


『ええ、大丈夫よ……。仕事中に無理を言ってごめんなさいね』


 青年は城で呪いの解除を研究する者だった。

 顔はよく見えないが、元は穏やかそうな性格にも思える。

 それに、少女に敵意などない珍しい存在でもあった。

 ようやく力尽きてきたのか、老婆はぐったりと息を荒げてしまう。弱まった隙に、青年は老婆のナイフを奪う。

 

『……っ、この者はどうしますか?』


 青年はナイフを握りしめている。老婆に嫌悪を向けている様。それは答えしだいで老婆を殺す様にも見えた。

 母親は苦い表情で、首をゆっくりと横に振る。


『殺しはしないであげて。……私が彼女を呼んでしまったのが原因なのだから』


『では、記憶の方をどうにかいたしましょうか……?』


『……』


 母親は返答に時間をかけた。

 やむを得ず。渋々とした様子で、微かに頷いたようにも見える。

 その様はうっすらと靄の様に闇がかかり、視界が暗転してしまった。






 これまでに、幾らかの過去が視界にへと訪れた。

 どれもこれも、自分という過去の少女を蔑む者たちの姿がある。

 目に見えるだけでなく、陰で噂するようにする者も。

 それが、自分に向けられていたものだったのだと、事実を突きつけられる。

 中には殺害しようとした者の姿も。

 ……だが、エリーは深い絶望を刻み込まれた、というよりは、呆然と光景を眺め、聞いていただけに留まっていた。

 以前のヴァイスレットの時よりも、妙に落ち着いてしまっている。

 ヴァイスレットの経験があってこそか、エリーはこの過去に対応できているのか。本人にはそういった感覚はない。

 ただ、受け止めるしかない状況なのだろう。

 どんな悲惨なものでも、逃げる事が出来ずに受け止めるのみを強いられている。

 エリーは暗転した空間で、忘れた記憶を胸にそっとしまい込む。


「……なんでだろう。自分の事なのに……、忘れていた事なのに……。どうして、こんなに心に穴が開いたような気持になるんだろう?」


 他人事ではないのに、不思議と他人事にすらも感じてしまう。

 見えていた少女は、紛れもなく過去の自分だというのに、それを他人と見てしまう感覚がわずかにもあった。

 忘れていた姿とはいえ、その自分とは全く違う様子が自分と思えないのかもしれない。

 しかし、どう思っても結局は自分である。

 

『今日、姫様の世話役をしていた子が、次の日にはやめてしまったそうよ? 3日ももたなかったわね』

『陛下たちに悪気があるとは思えないけど。やっぱり、このままじゃ……』

『しっ! 他の人に聞かれたらなんて言われるか……っ』

『とにかく、この話はやめにしましょう。……いいわね?』



『……まったく。陛下たちは何を考えているのかっ。いずれ他国の怒りをかうぞ!』

『落ち着いてください大臣殿。城内で声が大きいです……っ』

『兵風情が。……しかし、どうしたものか。やはり元凶をどうにかせねばならんな』

『……っ!? ま、まさか……、陛下たちを裏切り、姫様を……!?』

『私自ら姫を殺すわけないだろう。……最も警戒の目を向けているのはレガルだ。ならば、レガルと内通し……暗殺者を忍び込ませる。後は野蛮なそいつらが解決してくれるだろう。呪いの解除など、待っているだけで寿命が縮むっ』


 暗い周囲では、おぼろげな人影が何度も通り過ぎてゆく。

 恐れを抱きながら、何処かへ逃げ出そうと勤しむ姿や、よくない事を目論んでいる暗躍の影。

 交差するそれらは過去に聞いたものなのか、それとも憶測が生み出した幻想だったのか。

 今のエリーに、その真実を知るすべはない。だが、前者なのではという思いが勝ってはいた。

 自分を親しく思う人物など、数人程度でしかなく。声の持ち主はどれもそれから外れてしまっている。

 そんな蔑みの声に耳を塞ぐ事すら忘れるほど呆けていれば、聞き慣れた声が我を呼び覚ます。


『……何処にいるんだ。…………厄災の――』


 その声は周囲と同じ朧気であるも、何処か歪であり違和感すら感じられる。

 だが、その声に意識は引き寄せられエリーは反応して探す。


「……クロト、さん?」


 離れてからどれだけ時間が経っただろうか。

 長く会っていない気すらあり、クロトの声には敏感になってしまったのか、エリーは何度でも周囲を見渡す。

 空間は冷たい暗闇で、朧げな人影の群れにエリーは立っていた。

 一人はぐれてしまったかの様。エリーは人影の群れの中にあると思われるクロトの姿を探す。

 星の瞳を彷徨わせ、一秒でも早く魔銃使いの姿を視界におさめたかった。

 しばらく探すも姿は見えず、諦めかけた時、カチャリと、銃を構えた音が鮮明に響く。

 刹那。人混みは静止し、静寂にエリーは汗を浮かべる。

 音は背後から聞こえた。クロトなら振り向くべきなのだろうが、その気にはなれない。

 明らかに後ろにいると思われるクロトの存在。しかし、構えられた銃はエリーの頭に突き付ける形にある。

 それを察して、エリーは息を飲む。

 この場で【厄災の姫】に嫌悪を向ける者がいるとすれば、それは()もまた、その内の一人である。

 

『――お前のせいで』


 以前にも聞いたことのあるセリフ。

 他の声よりも、クロトから発せられたものは重みが違ってしまう。

 【厄災の姫】を責めた言葉。それはクロトに負担をかけてしまっているという事。エリーはその言葉を深く受け止め、静かに深呼吸をすると同時に、目を伏せる。

 直後、銃声が暗闇で響く。

 

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