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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第五部 六章「友人A」
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「不変の仲」

「――しゃーす。邪魔すっぞぉ!」


 鉄の柵門を蹴破り堂々と屋敷内に侵入。

 なんの予報もなく訪れたその無作法な訪問に、門の内側にいた見張り役の魔族たちが呆気に取られる。

 すぐにそれが侵入者であるという事は理解できるも、頭が追いつかずに、遅れてから慌てて「誰だ!?」と怒鳴りだす。

 仮にも魔界貴族の屋敷内。警備はとりあえず武装しており、一般的な魔族なら身を退くところだ。

 しかし、侵入したのはただの魔族ではない。


「……お、おいっ」

「その羽衣……っ。まさか……っ」

「――【炎蛇のニーズヘッグ】!!?」


 誰もがニーズヘッグの纏う羽衣を見ただけで、そうだと、事実を頭に衝撃の如き突きつけられる。

 乱暴な第一印象を送ったニーズヘッグは、次に意地の悪い笑みを浮かべ、


「大正解。……っつーわけでぇ」


 ――パンッ! と、手を合わせた。

 反動で手が離れる時、火花が散り、それはしだいに炎にへと変わる。

 炎は更に形を変え、大蛇を生み出した。


「派手にいくから、死にたくなきゃ必死になって逃げろ~♪」


 そう言って、幾つもの炎の蛇を野に放つ。

 地を走り、蛇は燃え盛る身で暴れまわった。

 その様子は、街の方からでも確認できるほど、夜闇を赤くさせている。




「……ニーズヘッグさん、本当に大丈夫でしょうか?


「平気よ平気~。こういうの魔界じゃよくある事だし」


「は……はあ……」




 エリーの不安が的中している様子で、屋敷は派手に炎が暴れている。

 炎蛇に恐れをなし、逃げ惑うなど大混乱を巻き起こしていた。

 

「……やばい。久々の威厳感に圧倒される奴ら見てると、思わず楽しくなっちまうっ」


 強者の悪魔ゆえの満足感か。

 ここしばらくのニーズヘッグの扱いといえば、可愛げのない主に罵られ、扱いの酷さに苦悩させられ、ウサギには多々嫌がらせを受けさせられ……。

 などなど、大悪魔としての威厳がガタ落ちしているのではとすら思える日々。

 これでも名のある大悪魔です。と、心で言い聞かせて耐えてきたものだ。

 そして久方ぶりに感じる優越感に浸ってしまいそうだ。

 興奮してその力を更に知らしめたくなる。


「ほれほれ~、頑張れ頑張れ~♪ ……そうだ、俺は帰ってきた! 炎蛇様の帰還だぞ雑魚ども! もっとひれ伏せ、はっはっはー!!」





「……今ニーズヘッグさんが良くない事してる気が」


「そんなのいつもの事よエリーちゃん。今更一つや二つ増えた所で、こっちに害がなきゃなんでもいいっていうか~」


「…………そんなぁ」





「――べぇっくしょい!!」


 これでもかと威張り散らしていたニーズヘッグは、混乱に紛れてくしゃみをする。

 まるで誰かに噂されている気分ついでに、何か大事なものが削がれている感覚にぞわっと寒気までも押し寄せてくる。

 それがきっかけとなったのか、ニーズヘッグは本来の目的を思い出す。


「……やべぇ。遊びすぎた。とっととマカツ草を持って帰らねぇと……」


 ハッとしてニーズヘッグは混乱を利用して建物の中にへと向かう。

 その時、突如風向きが変わった。

 それは急速に集結し、上空より一気に地上に向け風が落とされた。

 風は渦を巻き、炎を取り込んで炎の渦にへと変化。周囲の魔族たちを巻き込んで更に大荒れにへとなっていった。

 

「……うわ~。こんな事できるの一つしか心当たりねぇ」


 自分も暴れておいてなんだが、更にそれを悪化させた存在には思わず「やりすぎでは?」と呟きたくなる。

 風を地に叩きつけたのは、炎をはねのける風を周囲に纏わせる者。翼を持つ白き魔鳥。

 ――【極彩巨鳥のフレズベルグ】だ。

 彼も同じように、その姿を現してニーズヘッグの前にへと立つ。

 互いに目が合うと、フレズベルグは目を細めて不機嫌そうだ。


「……ふん。やはり貴様だったかニーズヘッグ。何をこの様な場所で遊んでいる?」


「遊んで…………たが、一応用事があってきてんだよ。……つーか会えて嬉しいぞフレズベルグ。クソガキとは魔界に来た時にはぐれちまったからな。心配してたんだぞ?」


「…………心配?」


「当たり前だろ?」


 いったい何が不服と疑心を抱いているのか。

 ニーズヘッグは「ん?」と首を傾ける。

 そんな心当たりなさげな様子に、フレズベルグは呆れてため息。ニーズヘッグなど気にせず屋敷にへと進んだ。






「おーい、フレズベルグぅ。なに怒ってんだよぉ~?」


 屋敷の通路を歩きながら、ニーズヘッグは何度も声をかける。

 明らかにフレズベルグは不機嫌であると、ニーズヘッグは察した。

 ただし、何に対して機嫌を損ねているのかという事が気がかりで仕方ない。

 親友が無視の一点張りを通して聞く耳もたずだ。

 つまり、ニーズヘッグは自分でその原因を探さねばならない。

 

「……あれか? なかなか会えなくてすねてんのか?」


「……」


「違うか。……じゃあ、余計な事で遊んじまってた俺に呆れてた……っていうのは言うまでもないか。それじゃないな」


「……」


「ん~、……っあ! もしかして、この前の船の事……まだ根に持ってるか?」


 ――ピタ……。

 突然、フレズベルグは足を止めた。

 

 ――あ。それか……。


 ようやく原因がわかった。

 フレズベルグに以前、船で絶交宣言をされたという事を今になって思い出す。

 未だにそれを根の持っているのか、フレズベルグはツンとしてニーズヘッグとあまり言葉を交わそうとしない。

 

「悪かったってぇ。でもあの方が相手の意表を突けていいだろぉ? ……というか、俺じゃなくてマジで言い出してたのはクロトと電気女だし、……俺は便乗しちまったっていうか~、ノリっていうか~」


「……」


「~っ。……謝るだけじゃ……ダメか? 俺にどうしてほしいんだよ?」


「……」


「要件は聞いてやるって。……久々に会って、樹海では俺もとち狂ってお前にはさんざん迷惑かけたしな」


「…………っ」


 くるっと、フレズベルグは振り返ると、ニーズヘッグに寄りかかる。

 うつむいたまま、ニーズヘッグの胸に拳を何度もぶつけた。

 少し痛い程度。何か言いた気なのはわかるが、それが口出せない様子にも見える。

 

 ――ああ、はいはい。……久々にやっちまったパターンか。

 

 むくれているフレズベルグの頭をニーズヘッグは撫でる。

 

「……マジで絶交じゃないっていうのは、わかってるよ。咄嗟に言っちまったやつだろ? 気にしてねぇから、そうすねんなって」


「…………~っ」


「俺も気に障る事して悪かったからさ。どっちもおあいこって事で、……な?」


「……が……」


「……ん?」



「――()()()()で済むわけなかろうがぁああああぁああ!!!」



 フレズベルグの怒涛の拳がニーズヘッグの顎を直撃。

 殴り飛ばされたニーズヘッグは床に倒れ、痛む顎を押さえながら「何故!?」と言わんばかりの驚きっぷり。


「船の一件は、まあ、それでいい! だが、お前のは再会してからの分もふまえて最悪の極みだったぞ、この愚かなクソ蛇ぃ! いくら会心したと言ってもやはりそこら辺は拭えんよ、ボケェ!」


「……ま……まだその事引きずってんのか。それに関しては……マジですまん。だから絶交とかそうそっけない態度すんなよフレズベルグぅ。俺お前がいないと寂しくて死んじまうぅ~。蛇は寂しいと死んじまうんだぞ?」


「どの口が言う!? ……はあ。なんかアホらしくなってきた。頭痛もするではないか」


「調子が戻ってきてなによりだ……。そんで? 絶交の件はどうなんだフレちゃんよぉ? 本意じゃなかったなら、今のうちに言っとけ」


「……不愉快な。…………馬鹿者め。本気にするでない」


「つーと?」


「……っ。絶交は…………しないっ」


「だよな! さすがフレズベルグ。俺の【友人A】はお前だけだっての」


 照れくさそうにするフレズベルグ。それにニーズヘッグは歓喜とべったりと引っ付く。


 こうしていれば、ニーズヘッグの内面は以前のままだ。

 自由奔放で子供っぽさが抜けない、いつでも手を引いてくれる……。決して見捨てたりなどしない、会ったばかりのあの時と変わりはしない。


 あの力に溺れた炎蛇は元に戻り、再び気軽に友と呼べるようになっていた。

 

 ――姫。……感謝する。


「そういえば、フレズベルグもひょっとしてマカツ草が目当てか? 俺と一緒で」


「……まあ、起こさないわけにもいかないからな。お前は意外だがな」


「これでも姫君と約束してっからよ。名残惜しいが、クロト起こさねーと姫君可哀そうだろ?」


「……とりあえず。余計な事をしてないかどうか後で問いただす事にしておこう」


「やだな~、フレちゃん。まるで俺が姫君に迷惑かけるような事をしでかすとでも思ってるのか?」


「お前だから心配なのだよ……」


 離れている間のその辺の不安を思い返せば、いらぬ疲れがどっと押し寄せてくるというもの。

 相も変わらずその性癖には自覚がないらしく、後にエリーには謝罪の一つでも入れねばと思うほどである。

 





「――はい! お邪魔しますっと!」


 奥にあった部屋の扉をニーズヘッグは堂々と蹴破る。

 無駄に広く、豪華な装飾で飾られ、自画像なのか豚魔族の壁画が飾られているなど。フレズベルグは部屋を見たとたん顔色を悪くさせて「ドン引きなのだが?」と言い出す。

 部屋の中心には、なんとか見栄えだけでもと着飾った汚い豚の魔族が狼狽し、その身に臭そうな脂汗を溢れさせていた。

 

「な、なな、なあ!? なんだ貴様ら!?」


「うわ~、すんげー油だしてやがんの。さぞ威勢よく燃えそうだ」


「やめないかフレズベルグ。こんな豚を焼いても異臭しか残らん。私の鼻を殺す気か?」


 一瞬、寛大かと思いきや一気に蔑んでくる毒舌にはさすがのフレズベルグである。

 「ひぃ~っ」と、悪寒に肝を冷やしながら愕然とする豚は、次に侵入者たる悪魔二体の容姿に目を見開く。

 

「そ、その羽衣……、そしてその翼っ。貴様ら、まさかあの名のある大悪魔【炎蛇のニーズヘッグ】と、【極彩巨鳥のフレズベルグ】か!?」


「おうおう。さすが俺の相棒。こんなきったねー豚にもわかるくらいの有名とはな~。可愛い奴め~」


 愛用の皮衣にニーズヘッグはこれでもかと頬ずりして褒めたたえる。

 その隣ではフレズベルグが更に不快と気を害してしまっていた。


「こんな醜い愚か者に知られても迷惑だ。目だけでも抉っておくか? 私の翼が穢れる様で胸糞が悪い」


「はいはいフレちゃん。そう怒んなって」


「き、貴様ら……っ。確か魔界を出て行ったのではないのか!? 何故戻ってワシの所に……!?」


「ああ? 戻ってきちゃ悪いのかよ豚野郎? 里帰りもダメなわけ? お前何様だよ? 燃やすぞ?」


「……そういうお前も落ち着け。お前が集めているマカツ草を渡してもらおうか。……我らはそれがどうしても必要で」


 要件を口にすると、炎と風が同時に現れる。

 熱風が豚からにじみ出る脂汗を煽り、その威圧だけで言葉すら失って身をガタガタと震わすのみ。


「もちろん、御代は――」



「「――お前の命でどうだ?」」


 

 豚に突き付けられたのは、命かマカツ草かという選択。

 その選択のどちらを選ぶかなど、命惜しさの弱気者ではわかり切った事であった。

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