表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第五部 五章「変わらぬ想い」
149/280

「激情の華」

 アリトドは深く、思いつめた表情で通路を歩む。

 ソファレから聞いた情報。十二の王でありあそこまで言い張ったのだ。兎の耳も侮れない。

 しかし、その情報が確かとして、それを教えたソファレの意図が読めないのもまた事実。


「……確かに。セントゥールを焼いたアイツを許すわけには。……それに――」


 他に嫌悪が向く。

 その思考が働いたと同時だ。


「――あら? アリトド様ではありませんか」


 と。癇に障る声にアリトドの目が正面を向く。

 自分とは違い、王の間に向かおうとするのは魔王の一角ではない。

 それ以外に悠々とこの場へ訪れる者など数える程度。そしてその中でも最も危険視する存在。

 ――魔女だ。

 以前。【厄災の姫】の情報を提供して以来。魔女の少女は腹立たしい笑みを浮かべている。

 ……そして。ちょうどアリトドが嫌悪を向けた相手がその魔女だった。


「なんの用だ? この悪女が……っ」


「まあ? いったいなんの事でしょうか?」


 魔女は小首を傾け、不思議そうにする。

 その態度にアリトドの感情が揺さぶられた。


「とぼけるなっ! ……セントゥールが死んだ。お前があのような事を言い出さなければ、セントゥールは盾の国に行くことなどなかったっ。全部お前のせいではないか! 忌々しい魔女め!!」


 諸悪の根源。そう言いたいアリトド。

 魔女の行動は大きかった。ただ情報を提供しただけだが、それは一体の魔王を動かし……。その結果焼き殺された。

 思い出した様子の魔女は手を叩く。


「ああっ。その話ですか。……そうですね。まさか私もあのような事になるとは思っておらず。すべては皆様の為ですのに。セントゥール様に関してはお悔やみ申し上げますわ」


 と。心が痛み目元を拭う。

 しかし、魔女にとって、その様な事は些細な事でしかない。

 すべては魔王を利用し【厄星】を使って盾の国を落とす事が目的だった彼女にとって、一体の魔王などたかが駒としか思っておらず。この悲しむ様などただの猿芝居にすぎない。

 それを察したアリトドにとって、高まり続ける憤怒を抑える事ができるはずもなく……。


「貴様は我々をいいように使おうとしているだけだろうが! ……魔女如きがっ、我ら魔王を!」


「そんなに怒らないでいただきたいですわ、アリトド様。……それと」


 猿芝居をしながら魔女は堪えた笑みを浮かべていた。

 それが、すんと止み。レースの奥から赤い瞳をアリトドにへと鋭く向けた。

 たった、それだけでアリトドは言葉を慎み、異常な威圧に身を強張らせてしまう。


「私は確かに魔女如きですが……、――アリトド様よりは力は上かと?」


 侮辱の発言がアリトドの殺意に火をつけたのは容易な事だった。

 アリトドの怒号と同時に、彼女の背から植物の蔦が伸び、それは束となって魔女を容赦なく叩き潰す。

 周囲に魔王がいればおそらく止められていただろう。この場でよかったとすら思える。

 ……しかし、直後アリトドは目を疑う光景を目の当たりにする。

 魔女は一歩たりとも動いておらず、叩きつけた蔦は虚しく床を叩いたのみだ。

 まるで、魔女に当たらぬ様にずらした位置で。


「……馬鹿なっ。何故!?」


「驚かれる事はありませんわ。アリトド様は少し私を威嚇攻撃されただけですものね? 当たらぬ様に配慮までして」


 アリトドは頭の中でその言葉を否定する。

 確実に殺すつもりでいた。にも関わらずずれてしまっていた。

 的がずれたのではなく、攻撃がずれていたという不可思議なもの。


「嫌われて残念ですわ。……まあ、私も忙しいのでこの辺で」


 魔女は先に用があるのか、アリトドを無視して通り過ぎてゆく。

 いったい何の用がまだあるというのか。


「……言っておくが、イブリースは【厄災の姫】から手を引くことを宣言したぞ? またそういう話なら無駄足だったな」


 魔女は足を止める。

 

「あら、そうなのですか? じゃあ帰るしかないかしら? それではアリトド様。教えていただき、ありがとうございます。今後も仲良くいたしましょう」


 魔女は振り向いて笑みを見せる。

 瞬きの一瞬で姿を消し、魔女の気配は感じられなくなった。

 だが、アリトドに溜まった憤怒は簡単に晴れるものでもなく…………


   ◆


「あ~~~~~~っ、クソ! なんで俺が蟲の駆除しなきゃなんねーんだよ!? 俺此処に何しに来た!!?」


 粗方、蟲を一掃した後、ニーズヘッグは溜まった鬱憤を吐き出す。

 蟲をどれだけ相手にしたか。数を数えることすら一桁の時に諦めてしまっている。

 燃やしても燃やしても次から湧いて出てくる。大量のそれらを相手するなど、本来ならやる方が面倒でしかなく。何故この場にいるのかすら忘れかけていたところだ。


「……え~っと、確か魔草を取りにきたんだったよな? …………燃えて……ないよな?」


 周囲を見渡すと見事な焼け野原だ。

 元々荒野なため植物に期待もできないが、ニーズヘッグは中心を目指してそれを捜す。

 珍しくなければ一つや二つ、燃えた所で代りを捜せばよいだけである。

 

「だりぃ……。早く姫君ハグして姫君愛でたいぃ……。それくらいは許してくれっだろ、姫君ぃ~っ」


 すぐにでも縋りつきたい思いだ。

 頭の中ではどう満足いくまで愛でようかと考えてこの場を耐える。

 想像すればするほど愛らしい姿が目に浮かび、やる気が出てくるものだ。

 

「だよなだよな! 待ってろよ姫君ぃ。愛しの俺様がすぐ終わらせて帰っからよぉ」







 テンションが限界突破した。

 そう、気が高まったのと同時に、足場を揺れが襲う。

 気づいたのは、その元凶が姿を現し、背後を覆った時だった。それが手遅れであると気づいたのも、同時。

 振り返った時には、荒野の背景は一変し緑にへと包まれていた。

 その中心には天に向かうかの如く咲く大輪。異常な成長速度と領域の浸食。見下ろす大輪には、目を疑いたくなる存在がいた。

 緑の浸食者。華の王。八番席魔王――【猛華のアリトド】。

 

「……ま……じ? いくらなんでもタイミング良すぎじゃないか?」


 引きつった苦笑で、ニーズヘッグは呟く。

 見下す様に、アリトドは炎蛇へ蔑んだ目を向ける。


「久しいな……炎の蛇」


「よ……よぉ。昔はぁ……その、世話になった」


「……」


「な、なんだったらすぐどっか行くからよっ。……俺べつに、お前に用があったわけじゃ」


 穏便に、この場から立ち去ろうとする。

 しかし、後退った足元で、咲いた牙をむき出しにする草花がケタケタと耳障りな笑い声を出す。

 通常のアリトドなら、その巨大な大輪と同化している事などない。彼女がその姿でいるという事は、既に臨戦態勢である事になる。

 心当たりは幾つかある。

 まず、セントゥールの縄張りであるこの地に無断で立ち入り、数多の蟲を焼いている事。

 そして……


「本当にいたとはな……」


「……なんの事だよ?」


「よくも貴様……。貴様がセントゥールを燃やしたっ。会ってしまったからには、覚悟くらいできておろうな!!」


 その怒号は突風の様に威圧を飛ばしニーズヘッグを圧倒させてしまう。

 やはり、一番アリトドが見逃さない理由はそこにあった。

 魔界に来てから警戒はしていたが、まさか向こうから現れるなど想定しておらず、この危機的状況には逃げ出したい気分にもなる。

 だが、今逃げたとて見つかったからにはそれも簡単ではない。


「許せるわけ、なかろうっ。お前も……、あの魔女もっ。そして、あの厄災の小娘もだ! お前を殺し、厄災の娘も殺して……全て終わらせてやる! そうでもせねば、私の気が治まらないのだぁああ!!」


「……正直、お前とは戦いたくなかったよ。一度、俺はお前に救われてるからな。…………だが、姫君にまで手を出すってんなら、黙って見過ごすわけにはいかねぇよなっ」


 後退る足は踏みとどめ、ニーズヘッグは羽衣を揺らめかせて身構えた。

 足場の草花を燃やし、それは自身の存在主張を訴える。

 完全な敵対行為。アリトドにこの意志を向けるのは、これで二度目だ。

 昔のように、子供の思考のまま我武者羅に挑もうとしているのではない。

 ()()なモノのために。果たすべき約束のために。

 蛇は炎を纏い、魔王にへと炎を向ける。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ