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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第五部 三章 「獣道」
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「兎行進」

 ぷにぷに……。


「……あ、あのぉ」


 さわさわ……。


「……~っ。ニーズヘッグさぁん」


 顔を赤らめ、弱々しくも声をはる。

 きゅ~っと肩を縮こませて、プルプルと身震い。

 頭部から生えた兎の垂れ耳の片方が、時折ぴくんと跳ねる。

 エリーがそうしてしまう理由は、反対側の垂れ耳にあった。

 隣で垂れ耳を手にし、指先でふさふさ、すりすりと撫でるのは、心地よさそうに笑みで表情を緩ませるニーズヘッグだ。

 

「はぁ~、さすが姫君。獣どもの耳でも、これは癖になるな~。……あと数年はこうしていたい」


「ひみゅ~……っ。そ……そんな、触らないで……くださいぃ」


 耳を指で触れられるたびに、全身に走る感覚。魔界の木の実による副作用とはいえ、本物の如く生えた耳は元からあったかのように体と一体化している。

 そのせいか、触れられる感覚がよく伝わってくる。

 特に。こういった事は獣の類ではよく見られる光景である。

 

「獣どもって耳とか弱いって聞くんだが……、こうなるんだなぁ。姫君、可愛いなぁ。食っちまいたくなる」


「や……やめて、くださいぃ。なんだか……変な感じに、なっちゃいますぅ」


「やべぇ……。姫君見てると……マジで俺も興奮してきた」


 息を荒げて恍惚をするニーズヘッグに危機感すら覚える。

 エリーは首を強く振り、炎蛇の手から耳を振りほどき、バッと逃げ出した。

 まるで兎の様にだ。


「……っ。も、もう! やめてくださいって言ってるじゃないですか!? すごくぞわぞわして……っ、変になっちゃいそうでしたよ!」


「ちょっとした発情期みたいな感じでよかったぞ。眼福だった」


 名残惜しさもあるが、ニーズヘッグはグッと親指を立てる。

 エリーは頬を膨らませ、ぷいっとそっぽを向く。

 そんな素振りすらニーズヘッグにとっては愛おしいのだろう。

 和む目でエリーを眺めてくる。

 

「さてっとぉ。そろそろ探索開始しねぇとな。姫君のその姿も一時的なもんだし、長続きはしねぇ。クロトを起こすためのもんも必要だしな。……それにしても、早くここら辺から離れた方がよさそうだ」


 暗い森に、ニーズヘッグは警戒の目を向ける。


「森といえば、最悪八番席の領域かもしれねぇ……。残念な事に、土地勘のある俺でも現在地が確認できなければどうしようもねぇ。……さっきのウサギ野郎、やっぱりとっちめとけばよかったか」


「乱暴はダメですよ? ……八番席……と言われても、私はよくわかりませんが。此処は危ない所なんですか?」


 現状。確認できている危険は、獣に襲われるか、罠にかかるかだ。

 確かに危険はあるだろうが、ニーズヘッグの言う危険はその上を行くものと思える。

 あの大悪魔である炎蛇が警戒心をむき出しにしているのだから。


「とりあえず、今会いたくない魔王ベスト一位だな」


「ま、魔王さんなんですか!?」


「さん付けとは、殺されそうになったっていうのに姫君は……。そうそう、八番席魔王――【猛華のアリトド】。今アイツと接触するのは最悪だろうなぁ。…………俺、クソ蟲焼いちまったし」


 小言でニーズヘッグは少々青い顔で苦笑いをする。

 

「不本意だが、確かにあんときはクソ野郎にムカついたのは事実だしぃ~。仕方なく同意したが、……こうなると厄介だな。おそらく情報は魔王側に筒抜け。クロノスなら100%気付いてる。……あっちはいい。ハーデスが生者の他者に干渉する可能性もゼロに近い。……ドラゴニカは……、あれも干渉はロクにしねぇか。ロードは論外。セーレも基本姿は出さない。やっぱり一番面倒なのはアリトドか。……ぜってぇ怒ってるって、あの短気野郎。セントゥールの事になると特に。……会ったら絶対殺しにかかってくるな、これは」


 更にぶつぶつと呟く。

 

「……あの、ニーズヘッグさん? クロトさんはどうやって起こすんですか?」


「ん? ああ、そうだな。確か人間が魔素に耐性を持つためには、マカツ草が必要なんだ」


「マカツ草?」


「それで作る薬を飲めば、魔界で数日間は過ごせるはずだ。……できれば調合済みを入手したいんだがな。俺に調合技術はねーし。まあ、マカツ草を見つけて別の奴に作らせるってのもある。……そこらの魔界住人が済む村がいいか」


「……難しそうですか?」


「マカツ草自体は普通に見かけるから問題はない。難しい点は、厄介な奴に見つからずに進み、クロトを起こして魔界から出る。……ってとこか。…………ていうか、なんか忘れてるような」


 ふと、ニーズヘッグは考える。

 すると、エリーがポンと手を叩いた。


「そうです! イロハさんがいません! 探さないと」


「そう! フレズベルグもあんときいたはずだよな!! …………やべぇ」


 思い出した後のニーズヘッグの表情は、とても悪かった。

 なんとか苦笑を保つも、一瞬だろうと忘れていた事に気まずさと悪気を感じていた。

 

「まあ、向こうもおそらく俺と同じようにしているはずだ。飛べてもクソガキは人間らしいからな。魔素に耐性があるとは思えない。……その内合流できるだろう。アイツも俺と同じで、結構な有名悪魔だからな」


「……そうですか。……会えるといいですね」


 そう穏やかに願うエリー。

 その見えぬところで、ニーズヘッグは会う事を少々躊躇ってしまう思いでもあった。

 原因は、表で最後に会った時の言葉だ。

 思い出すたびに、思わず親友に会いたくないと申し訳なく思ってしまうのだ。

 今はそれを忘れようと、前向きに探索に戻ろうとする。


「じゃ、じゃあ行こうか姫君っ。……ん?」


 気を取り直そうとするも、ニーズヘッグは金の瞳を丸くさせて、身を少々横に傾ける。

 視線はエリーの奥を見ており、エリーもまたその方角にへと目を向けた。

 思わず、垂れ耳が軽く跳ねる。

 その耳のせいか、音がいつもよりもよく聞こえてくる気がした。

 視線の奥。木々の隙間からこちらに向かってくる無数の足音と、何かしらを奏でるメロディー。

 音楽はこの空間に似合わない、とても賑やかである楽し気なもの。

 音が近づくと、その正体が肉眼で確認できるようになった。

 

「……ウ、ウサギ……さん?」


 エリーはそうつぶやく。

 音を奏でるのはウサギだ。それも数が多い。

 二足歩行の上半身スーツを着飾るウサギたち。数は見えるだけでも二十は超えている。

 それぞれウサギたちは様々な楽器を利用し、賑やかに音を奏でながら行進していた。

 一見無害に見える光景。しかし、更に近づいた時、ウサギたちは急に歩速を早めたのだ。


「姫君っ」


 音楽の流れはそのまま。途端に速度を上げたウサギたちの行進。その波が押し寄せエリーとニーズヘッグに押し寄せてくる。

 ニーズヘッグは波に衝突する寸前、エリーを連れて一気に木の上にへと回避。真上から長々と続く行進を眺め、それが完全に通り過ぎるのには時間がかかった。

 ようやく音楽が遠ざかり、いったいなんだったのかとニーズヘッグは呆れた目で見送る。


「……マジでなんなんだよ。この辺ウサ公多くねぇか? ……って事は、幸い十二の領域か? なら俺としては安心なんだが……。なあ、姫君?」


 ニーズヘッグはやけに静かであるエリーを見る。

 すると、ふさふさの耳がピンと立って視界に飛び込んできた。

 抱き上げてみると、愛らしく垂れ下がっていた耳は天を向いたもの。触り心地は柔らかくあるも、違和感があり、首が傾いた。

 目の前にいるのはウサギだ。それも全身毛深く真っ白な色合いで、ニーズヘッグがその全身を確認しきったところで、ウサギは手に持っていた玩具に近い小さなラッパをパフっと鳴らす。


「…………あ~、姫君更に毛深くなっちまって……って、違うわ!!!!」


 抱えていたウサギをニーズヘッグは叫ぶと共に投げ捨てる。

 

   ◆


「あ、あのぉ……っ」


 ニーズヘッグがウサギを掴まされた後。共にいたはずのエリーはウサギの行進に巻き込まれ目を回していた。

 波に流されるがまま、そのふさふさしたものに抜け出せず。混乱のままたどり着いたのは、もはや先ほどまでいた森ではなかった。

 行進から放り出され、ようやく視界がハッキリしたところで、周囲を見渡す。

 壁は固い土でできた様子。まるで洞穴だ。

 それを住み心地がよさそうに部屋としての形に整え、ちゃんと灯りが灯っている。

 何処かの誰かの住処なのか。周囲を確認すると、前方で行進していた一部のウサギたちがパタパタと駆け出し整列。

 左右に分かれて真ん中を向き、全員がラッパを構えパーッパラっと鳴らした。


「人の世も金次第。魔界の世でも金の力は偉大なり~」


 それを合図に、奥から何者かが名言の様なものを口にして出てくる。


「は~あ~~~い♪ 可愛いウサギの集い場へようこそ~~♪」


 バッとファーセンスを広げ、そう歓迎したのは真っ白なドレスを着こなす女性。

 最初は形相から人間と思いかけたが、帽子からはエリーと同じ、垂れた空色のウサギの耳が伸びていた。

 ポカンとするエリーに女性はウサギたちの間を通り歩み寄ると、目の前でしゃがんで見下ろす。


「初めましてぇ。可愛らしい子ウサギはん。ウチ、十二の王に属するこの辺のウサギ商人のまとめ役――ソフラ・ハスブリム言うの」


「……え、……え~っと。初めまし、て?」


 困惑しつつも、エリーは挨拶には応えて頭をわずかに下げる。

 扇子で仰ぎながら、ソフラというウサギの魔族は隙間から細めた目の笑みを向けてきた。


「ほんま。……()()()()よねぇ。――()()()()

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