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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第五部 一章 「鬼の居る間」
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「晴れのち岩」

「……んんっ」


 夜明けが訪れる。

 夜中にレガルの港街に着いたクロトたちが最初に取った行動は宿を探す事。

 ベッドで寝転ぶエリーの隣では、起床の時間に眉を歪め、起きることに不満と唸るクロトだ。

 エリーも眠気が薄れてきた。体を伸ばして起こそうとするとクロトがそれを阻み、引き戻される。

 

「…………クロトさん。朝ですよ……?」


「ん~……っ、あと…………5分……」


 この様に抱き枕にされるのはいつ以来か。

 ネアとも船を降りてからすぐに別れ、今はクロトとエリー二人のみ。

 ならば好都合と言わんばかりに、クロトは安眠抱き枕という名のエリーを独占。溜まっていた安眠を満喫しようとしている。

 先ほど、5分とは言ったが、おそらくもっとかかる事だろう。

 エリーも渋々、無理にでもその時間に付き合おうと二度寝する事に。

 

 しかし、日光だけでなくクロトの安眠を妨害する存在が……。


 クロトの内では、妙に唸る声が……。

 思わずクロトは自身の精神世界で、ピクリと眉を反応させた。

 その声はまるでこちらに何かを訴えているかの様。


『……ああ、マジでやべぇってぇ。やっぱこのままじゃ……。でもなぁ~、ああああ……っ』


 あまりにも鬱陶し事この上ない。

 クロトの短期が爆発することに時間はかからなかった。


「――やかましいぞクソ蛇!! 俺はまだ眠いんだ、寝かせろ!!」


『お前姫君直に抱いて寝てるくせに文句言うなよ、羨ましすぎて爆ぜてください!!』


 暴言にニーズヘッグは羨ましさに反発。

 それも涙目とクロトの嫌悪感を平然と買う。

 

『そんな事よりクロトっ。マジでフレズベルグ探してくれって。友人として不安しかねーよ。……特に今後のためにも』


 寝転がってクロトは眠気を帯びながら不愉快と睨みつつ応答。


「ああ? ……ああ、お前は潰され宣言されてたな。一回頭潰されればマシな脳みそになんじゃねぇか?」


 ……と。他人の不幸を笑う。

 悪魔のニーズヘッグでもクロトの性格の悪さには頭を悩まされる。

 

『お前なぁ……。俺とお前って体共有してんの。俺が潰される(イコール)お前も潰されるって意味だぞ? ……まあ、俺が表に出てりゃお前は意識閉ざすけど』


「はぁ……。どうせお前を出す気もねーし、なんかどうでもいい」


『やめてください我が主っ。フレズベルグって意外に泣き虫なとこもあって、まあ、そこも可愛いんだけど……、でも明らかに可哀そうだって!』


「この前殺し合いしてたくせによく言えるな……。俺は寝る」


 他人がどうなろうとクロトの知った事ではない。それがクロトだ。

 例え探したとしても、現時点の話の中ではクロトに利益がなく、余計に探す気など起きない。

 再び眠ろうとするクロトだが、サッとニーズヘッグが囁くように耳打ち。



『――いいのかクロト? その気になればアイツら俺らの事【不死殺しの弾】で殺しにくるぞ?』



 

 ――バッ!

 現実で、クロトは飛び起きる。

 それもちょうど宣言通り5分後にだ。

 眠気など消え失せ、瞬時に頭を働かせた。

 

「……めんどくせぇ。そういえばアイツらからその危険物を回収してなかったな」


『そうです我が主! もしフレズベルグもその気になれば、あれやこの手で仕掛けてくるぞ? 馬鹿のクソガキはともかく、フレズベルグは頭働きますから。最悪姫君連れ出されるからなっ? 俺ら悪魔なめないでほしいです』


「…………お前は馬鹿だが、確かにアレを持たれたまま放置は少し厄介だな」


『朝っぱらから普通に蔑みにきてさすが我が主。そこんとこの頭の回転はピカイチです』


「うるさいっ」


「……クロトさん? 珍しいですね、もう起きられたんですか?」


「お前は俺をいつまでも寝てる奴だとでも思ってるのか……?」


 実体験しているからこその言葉だったのだが、クロトにはそれほどの自覚がないらしい。

 すっかり目が冴えクロトはすぐに宿を出る準備をする。

 つられてエリーも二度寝の途中だったため、眠気はあるも置いて行かれぬよう行動。

 すぐに二人は宿を後にした。







 ――さて。どうしたものか……。


 探し出す事を第一に考えるが、イロハを探すとなると難儀な事だ。

 港町を出て、まずは最寄りの山をなんとなく進む。

 常人とは違い、イロハには翼がある。その行動範囲はそれだけで絶大。海など山など、その翼があれば余裕で超えられる。そのため高い位置から探すのが効率が良いと体が動いた。

 なんせ人間が空を飛ぶのだ。目立つものがある。

 そうイロハを思い返し、解析すればクロトにあるのは厄介と嫌悪感だ。

 

「……面倒だ。やめるか」


『諦め早いって我が主!?』


 谷沿いの山道を進む途中、クロトはピタッと足を止めた。

 ぼやけばニーズヘッグから言葉を投げられる。

 

「探したいならお前だけで探してろ……」


『お前体貸してくれねーくせに何言ってんの!? 探せれるなら真っ先に探しに行ってますー!』


「…………お前も面倒だな」


『好きでこんな状況じゃないんっすけど!!? ……まあ、あれが。一回休みながら考えようぜ。…………姫君がまだ眠たそうだ』


 思い出した様子でクロトは後ろを振り返る。

 なんとか付いてきていたエリーは少し後ろでちょうどあくびをしていた。

 頭の4割ほどがまだ眠ってでもいるのか、知らぬ間に寝落ちしてしまうやもしれない。


「面倒な奴は増える一方じゃねぇか……。いつまで寝てんだクソガキぃ! ちゃんと起きろ!」


『……お前が姫君を無理矢理たたき起こしたんだろ』


 人を勝手に抱き枕とし、あまつさえエリーはクロトの起床時間を無理に合わせている。

 今回はクロトがいつもと違いすぐに起床したため、タイミングが合わずこの様だ。

 歩くペースは変わらずとも、エリーは「ごめんなさいぃ……」と小さく謝りながら寄ってくる。

 

「まったくこれだからガキは……」


「ふにゅ~……っ」


 エリーの柔らかな頬をクロトは摘み、むにっと引いた。

 普段、エリーと二人っきりの時ならいつまでも起きようとしないのはクロトだ。

 完全なブーメランとしか思えず、ニーズヘッグもつっこみ疲れてしまう。

 自分こそ普段の行いを振り返ってみろと、泣ける思いの炎蛇。

 

「……起きたか?」


「んん~っ、クロトひゃん、ほっぺが痛いれふぅ……」


「起きないお前が悪いっ」


『……俺もうなんてつっこめばいいのっ? ウチの主は酷すぎだろ』


 今までネアがいたせいか、エリーに対するあたりのきつさが露骨になってきた。まるで今まで溜まっていた分をここぞとばかりに……。

 伸ばした頬をクロトはパッと手放す。

 若干赤らんだ頬をエリーは痛そうに擦り、ちゃんと頭を起こそうと目も擦った。

 

「ふぅ……。でもクロトさん、どうやってイロハさんを探すんですか?」


 一応内容は頭に入っているらしい。

 こういった時にネアがいれば良案を出してもくるのだが、いない者を頼る事はできない。連絡手段はあるが、仕事の邪魔と切られる事だろう。

 クロトはこの問題を考える。

 

『……とりあえず、この国にはいるんじゃねーのか? それも、あんまり遠くには行ってないはずだ』


 イロハを……。というよりはフレズベルグを探す事を最初に提案したニーズヘッグがそう言いだす。

 根拠があるのかと思えたが、尋ねるよりも先に納得した。

 イロハとフレズベルグには共通の目的がある。それは当初イロハが魔女に与えられた役目、エリーの監視と同行だ。

 フレズベルグもその役目にはニーズヘッグの件で果たそうと動いていた。イロハの行動指示が今フレズベルグにあるのなら、確実にレガルに居る事は確か。そして酷く遠くには行っていない事だ。

 こちらを見失えば、あちらにとっては大きな損害でもある。

 

「そういえば、イロハにはこっちを探す事ができるんだったか……? アイツの魔銃と俺のは共鳴して居場所を伝えてるらしいからな」


『ああ、なんかそういうのあったっぽいな。おそらく俺とフレズベルグだからかもな。俺たちは長い付き合いだし、互いの魔力を察知する事に長けている』


「となると……、逆にこっちから探すのも可能か?」


『それなりに近くならわかるだろうが……、今は感じねぇな。範囲外ってとこか。やけくそで出てったからフレズベルグもこっちを探してる可能性はある。……ただ見かけても範囲外を保ってくる事もある。こっちから見つけて捕まえるのが得策だ』


「……結局ふりだしか。いっその事クソガキを餌におびき寄せるか」


『こえー事言うのな……』


「お前ほどではない」


 エリーが危険になればイロハやフレズベルグも黙ってはいない。エリーの死はこちらもあちらも面倒な事になるからだ。

 軽く縄で縛りあげて木か崖に吊るすなど、エリーに向き直り考えると……。クロトは「ん?」と、頭の中がそれ一択となる。

 突然、エリーの頭上に黒い影が覆いかぶさる。やっと眠気のさめたエリーはその事に未だ気づいていない。

 しだいに影は大きく広がり、クロトは頭上を見上げた。


「…………ッ!!?」


 思わず間を開けてから驚愕に目を見開く。

 澄み渡った青の空を隠すようにこちらに近づく物体。それは――巨大な岩だ。

 岩は二人の事など知りもせず、その重量と勢いで地にへと打ち付けられる。

 

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