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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第四部 六章「団欒六重奏」
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「魔銃使いの悩み:前編」

 クロトは悩んでいた。

 それはもう、エリーという厄介な存在を押し付けられ苦悩した時と同じほど。

 いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。

 何故ならエリーの事は今でも厄介者として思っているが、自分の事もあると、心のどこかで吹っ切れてしまっているからだ。自分の命も関わっているのだ。仕方のない所もある。

 ……それでも早くこの関係を断ち切りたいのもある。

 だが、今回の悩みはどうだ? 

 自分の事でもないし、好きで受け入れているわけでもない。

 切り離せるなら今すぐ離したいが、それができれば苦労などない。

 何故なら今クロトが悩んでいるのは……。


『お願いします!! この通りですから!!!!』

「――お前うるせぇええぇええええ!!!!」


 大の大人の形相をした悪魔が、潔く(?)、みっともなく(?)、不快感しかない土下座をしている。

 そして、自分にしかこの懇願する声は聞こえない。

 一方的なダイレクトアタックがどれだけ忌々しいか。そして鬱陶しい。

 これが今のクロトの()()()()()()という迷惑な存在の悩みだ。


 そもそも。この炎蛇が今何故ここまで騒いでいるのか。

 その理由は、今より少し前にさかのぼる。


   ◆


 まず、村を出た一行が向かったのは盾の国の更に北だ。南の大国の北部は元中央大国であるクレイディアント。その跡地だ。

 今となってはほとんどがヴァイスレットの領地にへとなっており、しばらくは北へ向かい、そして元中央大国から東に位置する東の大国であるレガルに向かうという算段。

 足が基本の旅のため、さほど不都合な事はない。

 だが、少し不愉快な事はあった。


『マジかぁ……。徒歩かよ』


 この方針に不満を抱く者がいたからだ。

 それはクロトの中にいるニーズヘッグだ。


『いや、いつもの事とか、一応知ってはいるが。……でもなぁ、クロト。姫君労わってやれよぉ。マジで可哀想じゃね? お前幼女の体力のなさとか知ってる? 知らねーだろ! 姫君今までよく文句言わずにいたな。良心の塊か!!』


 と。エリーの事を気遣ってか、こういった言い分を聞かされ続けている道中。

 聞こえてはいるが、常に無視をして対応。この存在と語る事などなく、なんなら他者への労わる行為など「何故?」の一言で返してやりたい所存。それがクロトだ。

 優しいか優しくないかなら、断然優しくない。それもクロトであり、そう接してきていると本人は言い張っている。

 余計な甘さなど必要もなく、今ではエリーも問題なくこの方針についていけれている。

 いったい、どの辺に不満があるのか。それはただのエリーを異様な好感を抱いているニーズヘッグの考えだけでしかない。はっきり言って、論外だ。と、クロトは不愉快に苛立ちながら先を進んでいた。


「……ク、クロトさん。なんだか少し早くないですか?」


 いつの間にか、歩いていたつもりが早歩きになってしまっていたらしい。

 後ろを振り向けば、他の三人と距離が遠くあった。

 常人なら気付かず同行人を置き去りにする所を止められたのだから、一言謝って待つのだろう。

 だが、その立場にあったのはクロトだ。声かけは不快な注意と捉え、苛立っていたクロトの癇に障った。

 ため込んだ怒気をその時放つ。


「アアッ!? うっせぇクソガキ!! お前らが遅いだけだろうが!!!」


 と。この発言だ。

 もちろん、この対応にニーズヘッグは「うわ……」と白けてしまう。

 

「ハアッ!? クロトのくせしてエリーちゃんになんて事言ってんのよ!! ――しばくっ」


「ダメですネアさん! ごめんなさいクロトさん!! 皆さん私が遅いから合わせてくださってるだけなんです! 頑張りますっ、私頑張りますからぁああ!!」


 エリーは拳を作るネアにしがみついて殴ろうとする事を阻止。近くにはイロハもいるのだが、前回の件で更にネアへの恐怖心が悪化してしまったのか、止めるどころか逃げる様に少し離れてしまっている。

 更にクロトはその距離感を保ちながら前を行く。仕方なく、この距離感には触れない方が得策だ。クロトだけでなく、ネアまでもが動いてしまう。 

 

「……クロトさん、なんだか機嫌が悪い様な」


 それは薄々感づいてはいた。

 ネアも同じである。


「あれじゃないの? ほら、アイツってあの悪魔と肉体共有してるから、気に障る事されてるとか……。というか、あんな形で人間と悪魔が一緒なんて。人体にも影響はでそうだけど」


「そうなんですか? ……でも、困りましたね。ニーズヘッグさん、せっかく危なくなくなったのに。イロハさんは大丈夫なんですか?」


「ん? 全然、ボク大丈夫だよ? でもボクあの蛇嫌いだな」


「そ、そうですか……」


「うん」


「私も好きではないわね。なんせ野郎なんで、論外だわ」


 ネアはそうだろう。イロハもやはり樹海や夜の事を気にしている。とにかく、ニーズヘッグが一番この同行者の中で信頼が欠けている事だろう。

 第一印象が悪かったこと。そこから信頼を勝ち取るのは難しくある。だが、エリーとしてはなんとか関係を良くしたいと思っている。

 未だに苛々と先を進むクロト。その後姿を追っていると……。


「……? ネアさん。アレ、なんですか?」


 ふと、エリーは尋ねる。

 すぐさま反応してネアはその正体に目を向ける。

 しばらく続いていた野原の道。その途中に小さな看板が茂みに隠れながら立っていた。

 クロトはそれに気付かず先に行ったが、エリーたちは一度足を止めてその看板を見る。

 手入れがされておらず、茂みにもある事から気づきにくいものだ。

 

「……なんて書いてありますか?」


「え~っと……。なになに?」


 しばらく、ネアは黙々とそれを読む。

 すると、一瞬心惹かれたのか、ネアの瞳が輝いた。

 

「――ねぇ! クロトぉ!」


 そして、ネアは距離がすっかり離れてしまったクロトにへと声をかける。

 しかし、より離れてしまったせいか、それとも聞こえないふりをしているのか……。

 ネアもそれなりに大きな声で呼んだのだが、無視され、振り向きも止まろうともしない。

 瞬時に、ネアの足元に紫電がチリッと走り……


「――呼んでんでしょうが!!」


 一瞬にしてネアはクロトに追いつくと問答無用で頭を殴りつける。

 本当に聞こえていなかったのか、その奇襲にすら気づけず。直撃をくらったクロトは、頭を抱えながら地で激痛に堪え、悶えていた。

 殴っただけでなく、ネアはそんなクロトを引きずってエリーたちの所にまで戻ってくる。

 

「ふっっっざけんなよテメェ!! 急に何しやがる!!?」


「呼んだのに気づかないアンタが悪い!!」


『いや理不尽!』


 世の中の不可抗力すら、その対象が男性なら完全否定するネアがそこにはいる。思わずニーズヘッグですら理不尽を口にするほどだ。

 おそらく、「聞こえなかった」と言えば「離れすぎてるアンタが悪い」と言い返してくるに違いない。

 

「それより、良さそうなの見つけたの! ちょっとこれ見なさいよ!」


 憤怒から、今度は期待に胸ふくらまし弾んだ声で看板を指さす。

 ここで逆らえば更なる拳もあり得る。痛みがひいたところで、クロトは渋々看板にへと目を向ける。


「…………お前、こんなので俺を殴ってまで呼び止めたのかよ?」


「こんなのってなによ! いいじゃない。私たちって一度こういう場所でしっかり心と体を癒す必要あるわ!」


 何にネアがそこまで惹かれたのか。

 看板に書かれていたのは、とある宣伝だ。

 簡易な地図。そして、どうもこの近辺には天然の温泉があるらしい。

 効能は多々記載されている。歩き旅な一同にとっては、一度は寄っても文句が出ないものだ。 

 しかし、クロトは不満そうだ。


「だいたいその看板、どう見ても古そうじゃねぇか……。今でもあるかなんてわかんねぇし、寄り道するくらいなら先に進む」


「あんたって娯楽とかに興味ない奴よねぇ……。確かに古そうだけど、建築物と言うより自然に沸いたものでしょ? 相当な自然災害なければ大丈夫よ。ちょっと調べてあげる」


 一寸の不安からネアは素早く通信機の薄板を取り出す。

 

「……あ。もしもし? そうそう、先日はヴァイスレットの件どうも。それで一つ聞きたいことがあって。ヴァイスレットの北側なんだけど、天然温泉があるらしいのよね。それの看板見つけたんだけど、今でもちゃんとある? なにせ看板が古臭いから。…………ふん。じゃあ問題ないわね。どうも~♪」


 機嫌良くネアは通話を切る。

 その反応から察しはついた。

 

「この前ヴァイスレットの修復作業に協力してくれた業者がね、数日前に立ち寄った様よ。この辺で悪天候とか災害聞いてないし、決まりよね?」


「……なんでそうなるんだよ」


「アンタも苛々してるみたいだし、温泉の効能にはリラックス効果もあるのよ? この際ただなんだし、ちょっとはケアしとかないと」


「んな気遣いいらねぇっての」


「気遣い? ははっ、冗談。アンタよりも私はエリーちゃんを労わってるだけ~。エリーちゃん、お姉さんと温泉で旅の疲れを癒しましょうね~♪」


「お、温泉……? よくわかりませんが、皆さんが行かれるなら」


 戸惑いながらエリーは頷く。イロハもエリーと同じ意見。最後に残った不満しかないクロト。

 その提案を断ろうとすれば、ネアは無理矢理か、脅迫するが如く拳を唸らせている。

 不満以外何を言い出せばいいかも見当つかず。そこは黙って同意する事を強いられる。


「よ~し、決まりね♪ それじゃあ、レッツおんせ~ん♪」

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