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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第四部 六章「団欒六重奏」
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「躍動の蛇」

 毒沼の影響により、クロトが正常に戻ったのは夜明けから6時間後。ちょうど昼頃の事だ。

 すっかり体調を万全にさせ、今では何事もなかったかのようにある。エリーも同時刻頃には自分で立ち歩くようになっていた。

 旅立つ前。彼らの食事はとにかく栄養のある食材。農家自慢の野菜などがメインとなる。

 備え付け程度だが肉も……。


「……」


 イロハが慣れないフォークを手にし、皿の上に乗せられた調理済みの肉を突く。

 

「なにしてんだよ……」


 不思議そうに、クロトは呆れ面。

 声をかけられればイロハはクロトを見た後、すぐに皿に向き直り、眉をゆがめる。


「なんかねぇ、これ食べちゃダメなの……?」


「いきなりなに言いだすのよ。せっかく出してもらってる食事なのに、まるで毒でも入っているかの様な言い方は」


 更にネアまでも塩対応。

 イロハが何故そんな事を言い出したのか。

 そんな事を言われれば、目の前の料理を警戒してしまうではないか。

 ちなみに、同じ料理をエリーはすでに口にしている。

 

「美味しいですよ、イロハさん」


 警戒する事はないと、エリーもイロハに促す。

 エリーが言うのならと、イロハは食べようかと手を進めるが……。


「……~っ。やっぱなんかダメっぽい。姫ちゃん、いる?」


「え? イロハさん、お肉嫌いなんですか?」


 意外と、差し出された皿をエリーは受け取る。一人では食べきれないため、クロトやネアにも分け与える。

 

「好き嫌いとか、料理と食材に失礼よ。……こんなに美味しいのに」


 ネアも肉を食する。続いてクロトも。

 特に危険な要素などなく、まずくもない。いったい何処にイロハが避けたくなる要素があったのか、逆に気になるところだ。

 イロハはこれまででも特にといった食べ物の好みの差などなかった。

 同じものを食してきた中で、このように避けはじめたのは初めて。

 肉なども嫌いな様子はなかった。

 まるで自分がハブられていると思ったのか、イロハは困った様子でその理由を打ち明ける。


「……なんかね。それ食べようとするとフレズベルグが嫌がるんだよ?」


「フレズベルグが?」


 クロトは後に「あ~、なるほど……」と納得した。同じくネアも。

 フレズベルグが何故止めに入ったのか……。その理由は肉の種類にあった。

 イロハが迷っていた肉は鶏肉である。フレズベルグは魔鳥。共食いを毛嫌いしたのか、イロハを止めたのだ。実際、イロハの中ではフレズベルグが無言と焦った様子で嫌がり、首を横に振っていたとか……。

 それはイロハに妙な不信感を与えてしまっていた。

 

「まあ、アンタがそれでいいならいいけどね。……それにしても、悪魔のくせして細かいんだから」


『ハアッ!? 異端者、お前には血も涙もないのか野蛮人、愚か者!! 直に味わうわけでなくとも、尊き鳥の肉を食すなど…………。考えただけでゾッとするっ』


「……とりあえず、さっきのは食べちゃダメなの? フレズベルグぅ」


『――当たり前だ愚か者!!!』


 イロハは強く言い聞かされる。

 そんな様子を眺める三人からすれば、イロハがただ独り言を言っている様。

 誰と話しているのかと、周囲からも妙な目を向けられてしまうもの。

 

「……わかっちゃいたけど、アンタたちの中の奴の声って表に出ないかぎり聞こえないもんなのね。なんだか変人見てる気分だわ」


「それは俺にも言っているのか?」


 同類と見なされるのは癪に障るものがある。

 確かに、同じ魔銃使いで不死身で悪魔と肉体共有してはいるが、イロハと何もかもが同類だと思われたくない。

 

『……フレズベルグ、鳥の事になるとうるせぇとこあるからな。俺も昔焼き鳥にしたとこ目撃されたら、アイツぶちきれてよぉ。岩山ぶっ潰した事あったな。あの時は死ぬかと思ったぜ』


「知らん。死んでなくて残念だったな」


『……うわ、辛辣ぅ』


 かといって、クロトにもニーズヘッグの声が聞こえてくる。

 小言で返してしまい、ふとエリーの視線が向く。


「……なんだよクソガキ。じろじろ見るな」


「い、いえ……。クロトさんもニーズヘッグさんとお話ですか?」


 その時。クロトの頭にニーズヘッグの生き生きとした声が炸裂する。


『ああ、姫君。今日も可愛いよなぁ。マジ愛でたくなるよ、愛してる! そうなんだよ、俺愛想よく話してやってんのにコイツ冷たいんだぜ? 絶対零度なんだぜ? 俺悲しくて泣いちゃうぅ~。姫君慰めてぇ~』


 図体のでかい大人の形相をした悪魔が、なにを子供の様に甘えた声を出すのか。

 むしろ、みっともなく泣いていろ。と、言いたいクロトだ。

 この炎蛇。心変わりが斜めを通り越して直角である。

 もっと時間を置いてからまともに会話すると思えていたが、数日前の事などなかった様子だ。間を開けずに馴れ馴れしい事この上ない。

 解せぬ思考にクロトの頭が痛む。


「……うざい」


「だ、大丈夫ですかクロトさんっ。顔色が悪いような……。まだ気分が悪いんですか?」


「クソ蛇が鬱陶しいんだよ……っ。なんでこんなガキに欲情してんだか……」


「……? よくわかりませんが、クロトさんはニーズヘッグさんとお話できるんですよね?」


「お前もどうせ聞こえてんじゃねーのかよっ」


 エリーはよくそういう症状を見せる。

 表に出ていなくとも、ニーズヘッグやフレズベルグの声が漏れているやもしれない。


『あ、そっか! つーことは、姫君と会話できる、姫君と語り合える、姫君の好感度上げれるって事か!』


 期待に金の瞳が輝く。

 だが……


「すみません。全然聞こえないのですよね」


 きっぱりとエリーは言う。

 ニーズヘッグの高まった期待感は、身を崩すと同時に急降下。

 半べそをかきながら、ニーズヘッグは地を叩き続ける。


『なんでだよ姫君ぃ~!!』


 そんな炎蛇はさておき。


「あんだけ聞こえてたんじゃねーのかよ?」


「私にもわからないんですけど……。でも、今は全然聞こえませんよ?」


 エリーは早々嘘はつかない。おそらく事実なのだろう。

 それはそれでと、クロトは嘆くニーズヘッグを見て、鼻で笑っておく。

 

「まあ、100%聞こえるってわけでもないでしょ? それでいいじゃない。幽霊とかそういったのとは違って、アンタたちって一心同体みたいなもんで、ややこしいくっつきかたしてるから。……あんな悪魔どもの声が四六時中聞こえてくるなんて、私は絶対にやだもの」


 ネアは喜ばしいと、二体の悪魔に対して批判的だ。

 

『うっせぇ、電気女』

『愚かな異端者が』


 知らないところで、二体の悪魔はボソッと愚痴をこぼす。

 これは言うべきか言わないべきか……。クロトとイロハはネアに向けられた悪魔の言葉を料理と一緒に飲み込む。






「そういえば、アンタたちってこれから何処に向かうつもりなの?」


 村を出てしばらく。ネアはふとクロトに問いかける。

 

「……さあな。あの魔女も今は何処にいるかわからねぇし……。適当に行くだけだ」


 これまでの道のり。ヴァイスレットからはとにかく王都を離れるため舟で移動。その後は樹海に迷い込み、人里を目指して行動をしていた。

 今は盾の国の北側。中央と東寄りになる。

 

「まあ、ぐるっと周るなら次はレガルかしら……? 中央は今何もないし」


「それは不安しかないんだが?」


 ネアが提案した東の国――精聖の国レガルは、精霊や精霊使いが多く存在する国である。

 以前にも話した事を思い出す。

 レガルは中央大国であるクレイディアント崩壊直後襲撃してきた国だ。

 今はまだエリーという【厄災の姫】の正確な安否が確認されていない。

 盾の国ではヴァイスレット王が他国に誤魔化しを入れたが、レガルの恐ろしい所は精霊による情報だ。

 微精霊から精霊へ。噂話を好む彼らの情報は、数多の精霊使いからレガル王にまでも届く。

 生存がレガル王に届けば、最悪精霊使いの軍を動かされる。

 クロトはその事を懸念していた。

 しかし、ネアは落ち着いた様子で返答。


「たぶん大丈夫だと思うわよ?」


「……根拠は?」


「まず、レイスの言っていた十三魔王の件……覚えてる?」


 レイスは樹海にあった屋敷にいた上位ゴーストだ。

 覚えているとクロトは首肯。


「話が本当なら、精霊たちは九番席魔王【霊王のオリジン】に属している。だから、エリーちゃんには関わらないように動くはずよ。勝手な行動は、魔王への裏切りになるものね。オリジンは約束事とかに厳しいから……。もし、精霊が原因でエリーちゃんの事をレガル王たちに知らせて干渉しようとすれば…………オリジンをレガルは敵に回す事になる。下手な行動はできないってこと」


「…………なるほど。確かにレガルは行ってなかったからな。そこに奴がいる可能性も高い」


「レガルは魔道具に必要な素材が豊富ですもんね。魔女が好みやすい国でもあるわ」


 直後、クロトが次に向かう場所が決まった。

 それは精聖の国レガルだ。

 ただし、用心のため王都などは避けねばならない。

 そう決め、再び一行の旅は始まる。

 二人の魔銃使い。呪われた姫。半魔。……そして、新たに付き添う二体の悪魔と共に。

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