第一部 ★序章
――全部、嘘であってほしい。
そう願うモノがいた。
残酷な現状。悲劇的な末路。その全てを否定しようとしたのはとても小さなモノ。
ただただ泣き、これ以上にない自身の不幸を悪い夢だと、嘘であれと喚いた。
年端もいかぬモノは不幸の星のもとに産まれた。
生を宿した時から呪われていたそれは世界にとってただの驚異でしかなかった。
いずれ世界全てを崩壊させると予言され、そのモノの周囲から見る目はとても冷たいものでしかなかったという。
疎まれ、恐怖され、死すら望まれるほど。
逆にこのモノを求めたのは異形の者たちだった。
人とは違う、闇に生きる魔の者にとってその身はこれ以上ない贄として扱われ、噂では強大な力を約束されたとも言われている。
どちらにしても、そのモノに救いというものはない。
生まれてからずっとそう扱われてきたモノは、その現実を今否定している。
いや。今もかもしれない。
自身のその運命を認めずにいる。
この世界が憎いだろう。生きることが辛いだろう。自身を責める周りが許せないだろう。
心に負った傷は産まれてからずっと積もらせ限界を迎えている。
――だが。そんなことは俺には関係なかった。
例えそれがどう思おうと、なにも響いてこない。
辛さも悲しみも、全部が透明になってすり抜けていくほど、聞く耳をこちらは持ち合わせてなどいなかった。
もしあるとするなら、それは不快でしかなかった。
現状を受け入れず否定するのみの愚者としか思えぬモノ。
すぐ泣く奴は嫌いだ。鬱陶しい。
泣き叫んでこの現状を変えられるわけもない。
そんなことができればなんと馬鹿げた世か。
「こんなの、全部、嘘……。私、なにもしてないのに……」
なにもしていない。
なにもしなくても存在そのものに問題があるのだ。
「なんで……っ。どうして、みんな、私のことを殺そうとするの……?」
殺す理由など簡単だ。
このモノが生きていれば不都合でしかないからだ。
誰にとっても、世界ですらも。
――ああ……。本当に鬱陶しい。
なんの躊躇いもなくその手に持っていた物を向けた。
たった一つ。引き金を引くだけで当たれば生き物を殺すことのできる物。
泣きじゃくっていたモノは、ふとこちらを見上げてきた。
悲痛に涙を流し続けるモノの目と一時的に合う。
そのモノの瞳はとても特徴的だった。
この世の物とは思えない瞳。蒼く、そして夜空に煌めく星を宿した瞳。
呪われた星を宿したモノの、証だ。
――そして、俺はこのモノがどうしても、――必要だった。
ただ自分のためだけに。
これにどう思われようが構わない。
憎まれ嫌悪されようが他者にそんなふうに思われても今更でしかない。
自身の歩んできた道を心底で振り返って見ずとも一目瞭然でしかないのだから。
すでに歩んできた道は赤く屍を幾つも転がしている。
――それが俺の、生き方だ……。