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八話 戦う理由

 

「レイン様、彼らと思わしき人物を発見しました」


 レインと呼ばれた青年は振り向きもせずに、窓の外を見ながら返事をする。


「ああ、そうか。それじゃあ例の場所に連れて来てくれるかい?くれぐれも穏便にね」


 部下が部屋を出るのを見届けると、レインは椅子に座ってボトルを取りだした。


「彼らの協力があれば……」


 レインは何を思うのか、ただただ遠くを見つめていた。







 王都の宿に泊まったレッドとブルーは、朝の陽ざしを浴びて目覚めた。階段を下りるとそこには彼らを待ち構えていた男たちがいた。


「レッドさんとブルーさんですね?我々の主がお会いしたいと申しています。ご同行いただきたい」

「いったいどちら様ですか?」


 男たちが申し訳なさそうに、ここでは話せないと言うとレッドが同行すると言い出した。ブルーもやや間があって了承すると、小声で基地に連絡しながら男たちについて行った。


 男たちは平民街に行くと、地下道を通り目的地に到着した。


「彼らをお連れしました」


 男たちは中に入らず、二人に入るように促した。ブルーは警戒した表情になったが一歩踏み出す、レッドは既に扉を開けて中に入っていた。


 部屋の中央にテーブルと椅子がある簡素な部屋だ。テーブルの向かいには既にレインが座っており、その後ろに二人の男が立っていた。


「座ってくれたまえ」


 二人が椅子に座ると、レインはすぐさま話し始めた。


「単刀直入にいこうか。君たちの力を貸してほしい」


 レッドとブルーはお互いを見合ったがレインは話を続ける。


「私たちのことを覚えてないかな?王都の南でゴブリン男共に襲われていた私たちを君たちは助けてくれたんだ」


 それを聞いてレッドは思わず声を上げた。


「ああ、あの時の」

「実は我々はその後もあの場から離れて君たちのことを見ていたんだ。それに王都で他の怪人と戦っている者を見た人たちもいる。それも君たちだろう?君たちはいったい何者なんだ?」


 二人はゴクリと唾を飲みこむ。


「いや、すまない。君たちを問い詰めたいわけじゃないんだ。そうだな、これは公平じゃないな、よし」


 レインは勢いよく立ち上がった。


「私の名はレイン・カオー・アクエルア。この国の第二王子だ」


 レインは右手を胸に当てながら頭を下げる。レッドが所作の美しさに見惚れて驚いていると、それを見たレインが考え込んでいた。


「その顔どこかで見たような……。そうだ、タムラス様だ」


 咳き込むレッド、ブルーの表情は変わらないが冷や汗をかいている。


「ん?君たちまさか本当に?」


 レインがレッドの顔を覗き込むと、レッドは慌てて否定したがかなり挙動不審である。そしてそれまで話しをしていないブルーの口が開いた。レッドに任したらなにを話すか分かったもんじゃない、そんなことを考えたのだろう。


「ええ、私たちはタムラスの息子です」






「えええええええ?」


 ブルーの言葉に一番驚いたのは、カソッタ村の秘密基地で通信を聞いていたクルルであった。クルルは思わずモモカの方に顔を向ける。


「ん?そうよ、私も同じ。あいつらとはまあ、異母兄弟ってやつね」


 重大な秘密をお菓子を(かじ)りながら何気なく話すモモカ。いつの間にそんなに仲良くなったのだろうか。


「私が一番最初で、その後でブルー、一日違いでレッドが生まれたの。そのせいか昔は結構喧嘩してたのよね」

「私にそんなこと話してもよかったんですか?」

「だいじょぶ、だいじょぶ」


 それでもなぜか不安が表情に出ているクルルだが、なにかを閃いたようだ。


「そっかぁ、それでこのお家には見たこともないものが沢山あったんだ、そっかぁ」

「まあ、それは別に色々あるんだけどね~」


 一人納得しているクルルには、モモカの言葉が頭に入っていないようだ。






 レインたちに秘密を話したブルーは今後の対策に役立つかもしれないと考えて、これまでに倒した怪人たちの情報を話していた。話が一段落するとレインから質問があった。これまでどこにいたのか、そしてこれからどうするのかと。


 ブルーは自分たち五人の他に誰もいない事は分かっていたが、周囲を警戒するように確認すると話し始めた。


「これは父から聞いた話なんですが、王都を離れて辺境で住んでいた父はそこでも命を狙われていたと言っていました。怪人に操られた人間に……。父は怪人とは戦いましたが、人間と戦うことはできなかったと。そのため幼い私たちを連れてさらに遠くへ逃げました。その途中私たちをかばった時の傷が原因で後に父は亡くなりました。父を狙った敵がいつまた襲ってくるかわかりません。だから私たちは正体を隠して行動しているんです、人間と怪人両方から」


「ではなぜ、今になって戻ってきたのか」


 レインが神妙な面持ちで問う。


「父は勇者として力を私たちに託して死んでいきました。最近になってようやく力を扱えるようになったので、父の意志を継いで秘密裏に怪人と戦っているのです。そして王宮に潜む者を駆逐しない限り危険が付きまとうからです」


 ブルーは左手首を右手で掴むと、そこをじっと見つめた。


「そうか、タムラス様を疎ましく思っている連中がいるのは私も知っていた。だがそこまでとは……。君たちの協力があってもなくても、王宮の調査は私の方で進めておこう」

「いや、協力させてください」


 レッドが強い口調で言い放つ。


「ブルー、俺たちには仲間が必要だ。共に戦ってくれる仲間が」

「……ああ、そうだな。俺たちこのままじゃダメだよな。レインさん、俺も協力させてください」

「モモカもいいよな?」


 レッドが通信で聞いているであろうモモカに問うと、呆れたような返事が返ってきた。


「今更いいも悪いもないでしょ、まあでも私も賛成。今の時点でぎりぎりだしね」

「モモカ?今のはテレパシーかい?」


 威勢よくモモカに話しかけたレッドであったが急におどおどしてしまった。


「ええと、モモカっていうのはもう一人の仲間で、テレパシーっていうか似たものっていうか」

「タムラス様関連のものかな、よしアレン、あれを」

「ハッ」


 アレンと呼ばれた男は胸元から何かを取りだすと一歩前にでて、鳥の模様が描かれたワッペンを三つレインの前に置いた。


「これは形式的なものだが、私が隊長を務める対魔王軍の特務隊の認識票みたいなものだ、君たちは私の部下ではないが、これがあれば特務隊の皆が協力してくれるだろう」


 レッドとブルーはワッペンを受け取ったが、聞き捨てならない言葉に思わず立ち上がった。


「魔王だって!」

「落ち着きたまえ、これは政治だよ。対ゴブリン部隊や対怪人部隊では予算がおりないからな、魔王の名を使わせてもらったのさ」

「な、なるほど」


 突如として部屋の外が騒がしくなった。


「アレックス」


 レインが右手をあげながら声をかけるとアレックスと呼ばれた男は扉に向かい、やがて戻ってくるとレインに耳打ちした。


「どうやらゴブリン男の群れがキリエド村に迫っているようだ。我々の出番だ」


 レインは立ち上がると二人の方に振り返った。


「君たちも来てくれるかい?」


 レッドとブルーは黙って頷くとレインの後ろを追いかけていった。






 一行はキリエド村に着いた。村人は騒々しく動いていたがゴブリン男の群れはまだ来ていない。レインは大きな声で隊員に声をかける。


「各自、決められた配置につけ。新人は小さい奴を狙え!でかい奴には必ず二人以上であたれ!」


 レッドとブルーも前に出て戦いに向かおうとすると、レインに止められた。


「君たちはここで待機していてくれ。報告通りの数なら我々だけでなんとかなるはずだ」


 レッドが食い下がるが、レインもひかない。


「今、王都周辺では怪人たちがどんどん現れている。この程度で負けるわけにはいかない。特務隊も強くならなければならないんだ、我々が危なくなったら頼むよ」


 特務隊も自分たちと同じなんだ、そう感じた二人は納得した様子であったが、変身して待機する事にしたようだ。


「「クロスフラッシュ」」


 後方からの光に驚く特務隊に対してレインが叫ぶ。


「勇者の子孫が共に戦ってくれる、我らの力を見せるのだ」

「「おおおお」」


 左右の指揮官として配置についたアレンとアレックスがレインの掛け声に応えると、続けて隊員たちからも雄たけびが聞こえてきた。レッドとブルーは驚きながらも高揚して震えていた。


「す、すごい」

「さあ、戦いの始まりだ」


 前方にゴブリン男の群れが見えてきた。




 戦いは特務隊の圧勝に終わった。時折危ない小隊もいたが、レッドとブルーが的確にフォローすると一人も欠けることはなかった。戦いが終わると隊員どうしがハイタッチしたり、抱き合って喜んでいた。レッドとブルーもそれに混ざっている。キリエド村の代表たちがやってくると涙を流して感謝を述べた。レッドとブルーの目にも涙が浮かんでいた。そんな二人を見てレインが静かに語り始めた。


「戦いは辛い、だから俺たちは抱き合って喜ぶんだ。失いたくないものがある、だからみんな喜んでくれるんだ。こんなにうれしい事はない」


 これまでタムレンジャーは正体がばれないように秘密裏に戦ってきた。誰にも感謝されず、認められず、何のために戦っているのかを見失いつつあった。傷つきながら戦い、倒した怪人の死体を見て、彼らは何を思っていたのだろうか。確かに覚悟を決めて日本を旅立った。しかし若い彼らにとってそれはとてもつらい経験だったに違いない。


 レッドとブルーの前に幼い少年がやってきた。


「おにいちゃん、守ってくれてありがとう」


 小さな花を差し出して感謝を述べる少年を見て、二人は周囲を気にすることなく泣きじゃくるのだった。


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