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六話 狼少女クルル

 

 激戦から一夜明けたが、モモカは起きてこなかった。常人よりも優れた回復力をもつ彼らではあるが、狼男から受けたダメージがなかなか回復しないのだろう。モモカの起床を待っていたレッドとブルーであったが、宿に追加料金を払うとしびれを切らして出て行った。


 昨日に続いて街を散策していたが、やがて城門の近くまでやってきた。城門近くは前日同様に人通りが多く賑わっていたが、レッドはその中でがっくりと肩を落として座り込んでいる老婆が見つけると、すぐさま駆け寄って声を掛けに行った。


「レッドのああいうところ、すごいよな」


 ブルーが感心しているのか、羨んでいるのか。そんな表情をしているとレッドが戻ってきた。


「ちょっと街の外に行こうぜ」


 レッドの言葉を聞くとブルーは何も聞かずに立ち上がった。



 二人は王都から西にある草原を歩いていると、レッドが話し始めた。


「あの婆さん、旦那さんが病気になって薬草をとりに行こうとしたんだってさ。でも危険だからって門番に止められちまって。で、護衛を頼む金もないっていうからさ。いいよな?」


 レッドの問いかけに呆れたようにブルーは答えた。


「今更聞くのかよ。まあでもいいんじゃないの?俺たちヒーローやりに来たんだし。それに王都周辺も調査しないといけないしさ」

「きゃー、さすがブルーさん、かっこいー」

「はいはい」


 二人は目印の小屋を発見した。


「ええと、ここから北西に三百メートルくらい進むぞ」


 そして目的地の大きな池に到着すると付近に生えている薬草を摘んで王都に向かった。


「帰りはまっすぐ行こうぜ、もう道は分かってるし」


 行きとは違う道を進んでいると花畑を見つけた。そしてその中心には頭巾をかぶった少女が一人で座り込んでいた。二人は大きな瞳をした少女を見つめると違和感を感じたのか怪訝(けげん)な表情を浮かべた。


「あの子はあの小屋に住んでいるのか?いやしかし、こんな所でひとりだなんて」

「ブルー、悪いけどこれ婆さんに渡してくれないか、なにか気になるんだ」

「……ああ、なにかあったらすぐに連絡しろよ。俺もすぐ戻ってくる、モモカを連れてな」

「頼む」


 ブルーは会話を終えるとすぐに駆け出していく。そしてレッドが少女に声をかけよう近づくと少女が叫んだ。


「来ないで!……お願いだから来ないで」


 その時強風が吹き荒れ、少女の頭巾が飛んでいき隠されていたものが露わになった。少女の耳は見えない程に小さくなり、頭の上には狼の耳が生えていた。


「私、怪物になってる。きっとみんな殺しちゃう。だから来ないで」


 レッドは少女の涙の訴えに動揺してその場を動けなくなったが、なんとか会話をすることができた。


 少女の名前はクルル。クルルは朝早く目覚めると頭に狼の耳が生えていることにすぐに気づいた。お尻に付けた尻尾も外れない。自分の耳がどんどん小さくなり、頭の耳は大きくなるばかり。そうして自分が怪物に近づいていると感じたクルルは住んでいるスラムの抜け道から城塞を抜けて誰にも迷惑をかけないようにここに来たという。


 少女の覚悟を知って涙ぐんでいるとブルーがモモカを連れて戻ってきた。レッドが二人に説明すると博士に頼ろうという結論になった。


「……と、いう訳なんです」

「ううむ」


 博士は状況を聞いて考え込んでいたが、一瞬間をあけてから話し始めた。


「儂らの基地に連れてくるんじゃ、ここでは魔力を通さない。皆もここでは変身できないであろう?ただし……」


 変身できないのは地下基地は魔力を吸収する素材でできているからである。博士は言い淀んだが、何を考えているのかは三人にもすぐに分かった。自分たちの秘密がばれてしまうのだ。それを知りつつも迷いはなかった。


「博士、さっきレッドとも話したんですが俺たちはここにヒーローやりに来たんです。保身のために困っている少女を放ってはおくなどできません。それにきっとこの子なら……」


 大丈夫だ、とでもいうようにレッドとモモカを見つめると二人も頷いていた。それから三人はクルルを説得してカソッタ村の基地に向かうことになった。道中モモカが積極的に話しかけているためか、クルルも徐々に打ち解けてきていた。尻尾は老婆が焼却炉に捨てているところを見て、そこから取ったのだということも分かった。


「そっか~クルルちゃん十一歳か~。私のことお姉ちゃんって呼んでもいいよ?」


 残念ながらそこまでの間柄ではない。それとなく断られてしまった。道を離れて歩くこと数時間、一行はカソッタ村近くの森に入っていった。森を進んで村が見えてくるとクルルの様子が一変し、左手で手刀を放ち隣を歩いていたモモカを攻撃したが、モモカは素早く後方に飛んで避けた。


「やっぱり、そうだったのね」

「ほう、今のを躱すか。そうでなくてはな。ハーハッハッ。こんなところに隠れ家があったとはな、ブシャーン様にいい土産話ができた」

「ブシャーン?」

「貴様らには関係ない話だ。これから死んでいく貴様らにはな!」


 前方を歩いていたレッドとブルーも低い声に驚いて振り向くと、モモカとクルルが対峙していたモモカを見つめる。


「二人とも変身するわよ」


 モモカの言葉を合図に三人は腕を交差させる。


「「「クロスフラッシュ」」」


 クルルの体を支配した狼男が変身の瞬間を狙ってモモカに接近してきた。しかし光から巨大な力を感じて飛び込むことはなかった。


「なんと恐ろしい力だ、うかつに近寄れん。しかしこれだけの力があってあの程度とは……。ッ!奴らはまだ力を制御出来ていないということか。それならば勝てるはずだ!」


 狼男は変身したレッドが着地する瞬間を狙って攻撃を仕掛けてきた。クルルの体とは思えない素早さに驚いたレッドであったが、素早く反応してカウンターを繰り出した。しかし目の前にあるクルルの顔を見て躊躇すると、そのまま狼男の攻撃を受けて吹き飛ばされてしまう。ブルー、ローズも同様に狼男の強烈な攻撃を食らってしまった。


 タムレンジャーの動きの鈍さを見た狼男は両腕を抱え込んで思わず身震いした。


「美しい。なんと美しいことか。愛!これが愛というものか。」


 狼男はそういって笑い始めると、いつの間にか伸びている爪でクルルの両腕を傷つけながら悶えていた。腕はえぐられ、血が滲み始めた。


「あんた、ほんと最っ低ーの奴ね」


 倒れながら放つローズの言葉に、狼男は冷徹な表情になり背を向けたまま顔だけを振り向いた。


「そういえば貴様には借りがあったな、貴様から殺してやろう」


 狼男は一気に距離をつめてくる。ローズは必死に逃げようとしたが体が動かず、思わず目をつむってしまった。


「「モモカ!」」


 レッドとブルーも狼男に迫ったが追いつける距離ではない。


 死を覚悟したローズであったが、その時はなかなか訪れなかった。ローズは目を開けると目の前には震えている狼男の腕があった。


「お、ねえ、ちゃん、逃、げて」

「クルル、あなた意識が」


 言い終える前にローズは後ろに倒れ込むように回転してその場を離れると、それと同時に狼男の拳が空を切った。


「こ、んな餓、鬼が、俺のし、はい、を逃れるなど」

「クルル、しっかり」

「クルル」


 三人が声をかけると狼男が苦しみ始めた。クルルと狼男、ふたりの意識がせめぎあっているのだろうか。その間に三人はアイコンタクトを交わしていると、再びクルルの意識が現れた。


「おねえちゃん、私を殺して」

「クルル、待っててね。今助けてあげるからね」


 クルルの言葉に驚いた様子のローズであったが、クルルの言葉を発した瞬間に背後に迫り羽交い絞めにした。正面には既に拳を引いて待ち構えているレッドの姿があった。


「クルル、ごめん」


 ボキボキと骨が折れる音がする。レッドは罪悪感に苛まれているのか一瞬動揺が見えたが、すぐに気持ちを持ちなおしてブルーと共にクルルの体を拘束すると、そのまま基地へ向けて出発した。


 拘束したクルルを持ちあげて運んでいると目を覚ましたのか。声が聞こえてきた。クルルではない、狼男の声だ。タムレンジャーに緊張が走る。


「ふん、案ずるな。俺の負けだ。俺の意識もきっと消えてしまうのだろう」


 狼男の言葉に驚く三人。狼男は構わず話を続ける。


「だが、覚えておくがいい。俺を倒したのは貴様らの実力ではない。偶然が重なり奇跡が起きたのだと。今の貴様らは弱い、だからもっとだ、もっと強くなるがいい、ブシャーン様のために」


 狼男は再び意識を失い、二度と現れる事はなかった。タムレンジャーはクルルを密かに基地の中に運び込むと、改めて拘束しなおしてまずは腹部の治療を行うことになった。



 そして時がたち、無事に治療を終えたクルルは博士と共に三人の前に姿を現すと、モモカが抱き着いてきた。レッドとブルーも優しく微笑んでいる。


「手術は終了じゃ、凄まじい回復力じゃしすぐに動き回れるようになるじゃろう。今すぐにとはいかんが、いずれ外にも出れるようにしてやるわい」


「ありがとう、おじいちゃん大好き」


 モモカの通訳を聞いて、今度はクルルが博士に抱き着いた。クルルはお腹の痛みと嬉しさで、泣きながら笑っている。そしてそれを見て微笑む三人は不思議な達成感に包まれていた。


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