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四話 覚悟の代償

 

 住居の地下にある秘密基地を完成させたことで、レッドが王都に向かう準備をしているとモモカが話かけてきた。


「だから、まだやる事があるでしょ。王都に行く前にカソッタ村の周辺の安全を確認しなきゃダメじゃない」


 モモカが諭すように話しかけると、それを遮るようにブルーが話し始めた。


「そうだな。それにちゃんと通信が繋がるかもチェックしないとな。よし行くぞレッド」


 二人は逃げる様に基地から出発した。数日前から森の木々に中継器を付けていて、二人はそれが機能するかどうかを確認するために出ていくと、残されたモモカがひとり愚痴っていた。


「もう、こんな時だけ仲がいいんだから。はぁ、また留守番か」




 レッドとブルーは村周辺をぐるりと周って安全を確認すると今度は北にある王都の方向へ向かって行った。通常であれば王都へ行くにはカソッタ村から北に向かい、平原に出て道なりに進む。しかし中継器を隠さなければならないので王都への道から東側にある深い森の中を進んでいた。そしてカソッタ村と王都のほぼ中間地点にたどり着いた。


「いざという時は変身して、この獣道を通ることになるからな。道はなるべく覚えていろよ、レッド」


 ブルーはそう言うと今度はカソッタ村に通信を入れた。


「こちらブルー。博士聞こえますか?」


「うむ、しっかりと聞こえるぞ。これで通信テストは全て終わりじゃな。ご苦労じゃった。一旦戻ってきてくるんじゃ」


「博士、了解しまし―」

「待て、ブルーだれか戦っているぞ」


 レッドが指さした方向を見ると、やや離れた場所で鎧を着た三人の戦士がゴブリン男の群れと戦っていた。それを確認するやいなやレッドは変身して飛び出していった。


「おいレッド。ちっ、博士、これから救援に向かいます」

「うむ、気を付けるのじゃぞ。ちょうどいい、通信はそのままにしておくのじゃ」


 ブルーは通信を終えると変身してレッドを追いかけて行った。





 草原で戦う三人の戦士は追い込まれていた。六体のゴブリン男に囲まれていたからだ。さらに後方には六体よりも巨体のゴブリン男が控えていた。


「こりゃまずい事になったな」

「軽口をたたいている場合ですか、レイン様!」

「ああ、すまんすまん。しかしこれではジリ貧だ。どうするかな」


 三人は回避に専念することでなんとか持ちこたえていたが、絶え間ない攻撃に疲労が貯まっていき、遂に攻撃を受けてしまった。


「大丈夫か?アレックス」

「ええ、なんとか」


 その時であった。後方に控えていた巨体のゴブリン男がうなり声をあげた。他のゴブリン男はそれを聞いて攻撃を中止して東の方角を向いている。


「いったいどうしたんだ」


 レインも東に目を向けると砂埃をまき散らせながら、ものすごい速さでなにかが近づいてきているのを確認した。レインが凝視していると負傷したアレックスを支えながらもうひとりの戦士が急かすように声をかける。


「ゴブリン男の気がそれています、今のうちに脱出しましょう」


 三人は急いでその場から離れた始めたが、ゴブリン男たちはそれを気にすることはなかった。そしてレッドとブルーが到着するとゴブリン男はすぐさま戦闘態勢に入った。


「ゴブリン男が六体にでかいのが一体か。ブルー、先に三体倒した方がでかいのと戦うってことでいいよな?」

「フッ、油断するなよ」


 二人は会話を終えると攻撃を開始した。レッドは以前に倒した経験からか躊躇なく懐に飛び込むと、右拳を腹に突き刺す。ゴブリン男がくの字に折れ曲がるのを確認することなく二体目、三体目と攻撃を続けると、あっという間に三体が地面に倒れ込んだ。


「よし、これで残るは……」


 巨体のゴブリンの方を向くと、既に三体のゴブリン男を倒したブルーが駆けて行くのが見えた。


「先を越されたか」


 くやしがるレッドの目に次々と立ち上がるゴブリン男たちの姿が映った。ブルーが倒した三体も含めて全ての個体が立ちあがるとレッドに襲い掛かってきた。


「こいつら、前に倒した奴よりも強い。ブルー!気をつけろ」


 襲い掛かるゴブリン男を全て一撃で倒していくレッド。しかしゴブリン男はすぐに立ち上がって戦闘に復帰するため、膠着状態になっていた。


「やるしか……ないのか」


 レッドは覚悟を決めて左足を強く踏み込むと渾身の力で左鉤付(かぎつ)きを放つ。拳が右腹部を捉えると腹が裂けゴブリン男の上半身が飛んでいった。


「ああ、あああ……」


 残った下半身を見て動揺するレッドであったが、五体のゴブリン男の攻撃は続く。心を整理する間もなくレッドは戦い続けていた。



 一方、巨体ゴブリン男と対峙していたブルーは持ち前のスピードで翻弄して攻撃を当ててはいたものの、目立ったダメージを与える事ができずにいた。二メートルを超すであろう体格から繰り出される攻撃は当たらずともブルーに恐怖を与えて、踏み込みを甘くさせていた。


 意を決して飛び込むブルー。左右に飛び回ってけん制し、砂埃を発生させて姿を隠すと、高く飛んで巨体ゴブリン男の目を狙うように左右の足で連続攻撃を繰り出した。巨体ゴブリン男は腕で顔面を隠すように防御して振り払う。同時にブルーも腕を蹴って大きく後方に回転しながら跳躍すると、そこを狙って巨体ゴブリン男が突進してきた。


「チャンス!」


 相手の突進力を利用してカウンターを浴びせようとブルーは態勢を低くして跳躍の準備をして待ち構えていた。しかし飛ぶことはできなかった。なんとレッドに飛ばされた上半身だけのゴブリン男がブルーの両足を強く掴んでいたからだ。そこに巨体ゴブリン男が前方から走ってきて渾身の前蹴りを繰り出した。


「オマエ、ジャマ。レッド倒ス」


 内臓の飛び出たゴブリン男を見たブルーはひるんで一瞬反応が遅れてしまい、蹴りを食らい大きく吹き飛んだ。


「ぐはぁっ」


 ブルーはなんとか腕でガードしたもののダメージは凄まじく吐血した。再び走り寄ってくる巨体ゴブリン男が蹴りを繰り出そうとしたその時であった。他の敵を全て倒したレッドが横から攻撃して巨体ゴブリン男をふっ飛ばした。


「はぁ、はぁ、レッド助かったぜ……」

「ブルー、協力して一気に倒すぞ」


 ブルーはレッドの落ち着いた声に驚いた様子であったが、自身も余裕がなかったためだろうか素直に頷くと散開した。レッドとブルーは前後に挟み撃ちの態勢をとると距離を詰める。


「レッド倒ス!」


 巨体ゴブリン男はそう叫び、ブルーのことが見えていないかのようにレッドに向かっていく。それを見てブルーは後方から近寄ると、勢いそのままに空高くジャンプして後頭部を両足で攻撃する。攻撃を受けた巨体ゴブリン男の頭が下がる。そこにはレッドの右拳が待ち構えていた。両側から攻撃されて頭は潰れ、やがて動かなくなった。



 全ての敵を倒したことを確認した二人は、東の森へ戻りカソッタ村の拠点へと帰っていった。そしてそれを見つめる人影三つ。レッドとブルーに命を救われた三人の戦士が離れた場所から状況を見守っていたのだった。


「彼らはいったい……」






 往きとは反対に静かに村に向かうレッドとブルー。通信を聞いていたモモカと博士もかける言葉が出てこない。静寂を破るように涙をこぼしながらレッドが呟いた。


「分かっていたはずなのに……、覚悟していたはずなのに……」


 ブルーも脳裏に引き裂かれたゴブリン男を思い出したのだろうか、神妙な面持ちである。思い出すだけで吐きそうになる残酷な光景だ。何か言わなければレッドが消えてしまいそうな、そんな危機感を感じたのかブルーは必死に言葉を絞り出した。


「俺たちは覚悟を決めたはずだろ、ここに戻ってくると決めた時に」

「分かってる、分かってるけど……」


 気持ちの置き所がないまま、二人は静かに基地に戻っていった。


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