三話 魔性の女に気を付けろ
村の空き家はタムレンジャーの居住地となり、その地下は秘密基地となった。後からやってきたモモカと博士も加わり地下の改造は着々と進められている。作業が一段落して居住部分で休憩しているとカイとゴスルが訪問してきた。
お世話になったお礼として、兄弟の母マーヤからの差し入れを渡しに来たのだ。レッドたちと話していると奥の部屋からモモカが顔を出し笑顔で話しかけた。
「カイ君とゴスル君?二人から聞いているわ。差し入れありがとう。これからよろしくね」
兄弟の顔はすぐに真っ赤になった。
「へえ~ゴスル君は11歳か。大人っぽいね。私は五年前はまだまだ子供だったな~」
モモカに手伝いを褒められていると兄弟は照れてしまい出て行った。
「兄ちゃん、顔真っ赤っか」
「カイもじゃん」
村に妙齢の女性はおらず、また都会的ですこし年上のお姉さんに緊張してしまったのだ。
「髪の毛短いのもいいね」
「それに親しみやすかったよな~。前にきた旅芸人は綺麗だったけどちょっと近寄りがたかったし」
「なあ兄ちゃん、これから丘の花畑にいこうぜ、モモカさんに花束をあげるんだ」
そうして兄弟は、そのまま花畑にむかうのであった。
タムレンジャーの拠点では
「あ~あ、惚れられちゃったかな~。私って罪な女ね」
モモカが両手を顔に当てながら嬉しそうにつぶやいている。レッドとブルーが困惑しながら視線を寄せる、それに気づいたモモカ。
「ん?なに」
機嫌よく聞いてくる。触らぬ神に祟りなし。
「なんでもないよ」
そう答えて二人は黙々と引越作業をつづけた。
カイとゴスルは丘に着いて綺麗な花がたくさん生えている花畑を見て喜んだ。
「これならモモカさんに喜んでもらえるね」
ふたりが花を摘んでいると妙な匂いがしてきた。
「カイ、なんかやばい。いったん戻ろう」
ゴスルがカイを見ると既にうつろな目をしていた。カイを抱えて立ち去ろうとしたがゴスルも意識が朦朧としてくる。二人の視線の先には巨大な人食い花が咲いていた。人食い花は兄弟を見つけると大量の花粉を飛ばして催眠状態にしたのだ。
さらに人食い花は飛ばした花粉を吸いこんで戻すと、花粉から情報を得たのか、花びら、蔓、葉を変形させて人の形を作り、蔓を使ってまるで手招きしているかのように動かし始めた。モモカに手招きされている、そう錯覚した兄弟はゆっくりと人食い花の方へ近づいていくのであった。
「さて、と」
引越作業も終わりに近づくとモモカは、周辺の調査をしてくると二人に言って拠点をでた。村人から村の名所として紹介された丘の上まで登るとカイとゴスルが巨大な花に近づいているのに気づいた。
「カイ君、ゴスル君」
モモカは大きな声を出して二人を止めようとするも反応がない。強引にやめさせようと近づくと、人食い花が大量の花粉をまき散らして攻撃してきた。
「これはちょっとまずいかも」
そういってモモカは胸のあたりで両腕を交差させた。
「クロースフラッシュ」
「タムレンジャーローズ」
人食い花に対して半身に構えると、前方にある右ひざを上げ伸ばした右手で人食い花を指さして何かのポーズを取った。ノリノリである。まだ人食い花の花粉攻撃は続いていた。
「おおっと、いけないいけない」
変身したローズが回し蹴りを繰り出すと、風が発生して催眠花粉を吹き飛ばした。ローズは回し蹴りを繰り返しながら接近すると、人食い花は今度は蔓をムチのようにしならせて攻撃してきた。
「遅い!」
ローズは素早くよけると、拳を突き出した。しかし人食い花は葉を盾のように使って防御する。
それならばと握りしめた拳を開き、手刀で葉を、蔓を、全てを切り刻んだ。
勝利したローズは変身を解き、レッドとブルーを呼んで兄弟を家まで送ってもらった。人食い花から救ったことを報告してマーヤに感謝され世間話をしていると兄弟が起きてきた。
マーヤがお礼を言うように促すが、兄弟はモモカの顔を見るなり奥に隠れてしまった。
「あんたら何隠れてるんだい、出てらっしゃいよ」
「モモカさんの顔を見るとさっきのことを思い出して怖くなっちゃって……、ご、ごめんなさい、モモカさんありがとうございました」
兄弟は逃げる様に奥の部屋に隠れてしまった。モモカは暫し呆然としていた。
「私の綺麗な隣のお姉さんのイメージが~」
頭を抱えて情けない声を出すモモカを見たレッドとブルーは顔を見合わせ大きな声で笑ったのだった。