その87 少女と約束を交わしました
「やはりな...。その女は魔族だ」
ハンスは自分の槍を取りに行くと、槍を握りニアに突き付けた。槍を突き付けられた二アは先程以上に怯えて震えている。
そんな二アが見ていられなくなり、俺はハンスからニアを庇う様に覆い被さった。
「退け! 魔族は殺さなければいけないんだ!」
ハンスの目は血走っている。弟を殺したのは異世界人だが、それをさせた元凶の魔族に対しても深い恨みを持っているのかも知れない。
「魔族とか人間とか俺には分かりませんけど、こんなに小さな二アを殺すことが正しい事だと、俺には思えません!」
ニアの服の隙間から少し背中が見えると、その背中には痛々しい程の傷痕が残っていた。
一体どれだけ酷いことをされたらこんなことになるのか。これ程の仕打ちを受ける様なことを二アがしたとは、とても思えない。
「お前は魔族のことを知らないだけなんだ! その娘が成長すれば多くの人間を殺す! そうなってからでは遅いんだ! グレン。バウアー手伝ってくれ」
ハンスに言われ、グレンとバウアーも武器を構えながら俺達に近付いて来る。魔族を殺すという点では3人の意見は一致している様だった。
「二ア。君に約束して欲しいことがあるんだ」
「や、約束?」
二アは震えながら返事をした。怯えたその声は小さく、集中していないと聞き取れないくらいの声だった。
「この先、絶対に人間を殺さないと約束してくれ。約束をしてくれるなら、この先どんなことがあっても俺が君を守るから」
二アが人間に危害を加えないのであれば、ハンス達が二アの命を奪う必要はなくなる筈だ。
魔族だからという理由だけで二アが命を奪われるなど、俺には絶対に認めれない。
「や、約束します。私は人間を殺すなんてこと、したくはありません...」
「そうか...分かった。ハンスさん。二アは人を殺さないと約束してくれました。だからハンスさん達もニアに手を出すのは止めて下さい」
「約束だと? 魔族の約束など信じられる筈がないだろう! 早くそこを退け! 退かないのならばお前も怪我をすることになるぞ」
「俺はニアに守ると約束をしました。ハンスさん達が二アを傷付けると言うのなら、俺はハンスさん達の敵になりますけど、それでも二アに手を出すと言うのですか?」
「うっ、こっちは3人居るんだぞ? お前1人で相手になると思っているのか?」
ハンスは一瞬怯んだが、数の優位をアピールして俺を引かせようとしている。この場はハッタリを言って戦う意思を奪うのが得策だろう。
「3人ですか? 俺は1人でヒュドラを倒せる力を隠しているんですよ? 3人でなら俺に勝てると思っているんですか?」
「くっ、くう...」
正直3人どころか、1人を相手にも勝てるか分からない。
だが、俺が放った一言で、3人は完全に怯んでいる様に見えた。




