その83 子供に手を上げる奴は許せません!
「何だ? ドラゴンだと?」
男は突っ込んでくるリュートに対して右足で蹴り上げた。男に蹴られたリュートは大きく上空に飛ばされるとそのまま地面へと落下をした。
「キュイ...」
男に1度蹴られただけだというのにリュートは動けないでいた。相当ダメージを受けたのかも知れない。
一撃でリュートがここまでになるということは、この男の実力はかなり高い筈だ。
「リューちゃん!」
アンナが馬車を降り、リュートの元へ駆け付けるとリュートを抱き抱えた。
「キュイ...キュイ...」
「退け小娘! そのドラゴンは私に攻撃をしようとした。直ぐにでも殺さねばならん」
男は腰の鞘から剣を抜いた。
その剣は今まで見たどの剣よりも綺麗で、素人の俺が見ても相当高級な剣なんだろうということが分かる。
男に退けと言われてもアンナに退く気配は一切なく、リュートのことを庇っている。
「退かぬというのならお前ごとそのドラゴンを貫いてくれよう!」
男は両手で剣を握ると大きく上へ振り上げた。
そのまま剣が振り下ろされれば、剣はアンナもろともリュートを貫くことだろう。
俺にはそれを黙って見過ごすことは出来なかった。
騎士という存在がこの世界でどれだけ偉い存在かは知らないが、異世界人の俺には関係ない。
それにこの男のしていることは、人間としても許されることではない。
「止めろ!」
俺は馬車を降りるとアンナの前に立ち塞がり両手を大きく広げた。
「何だ? 貴様は? どこかで見たような顔だな・・・」
男はどこかで俺を見たことがあるようだが、俺には全く見覚えはない。
こんなクソ男なら1度でも会ったことがあれば絶対に忘れない筈だ。
「思い出したぞ! お前は本来呼ばれる筈だった異世界人の代わりにこの世界に来た、死ぬほど弱かった異世界人じゃないか!?」
どうやらこの男は俺がこの世界に来た時に城に居た人間の1人らしい。
城にはかなりの人間がいたので、俺は覚えていないが、この男からすれば色々な意味で衝撃を与えた俺のことは、記憶に残っているんだろう。
「アンタ正気か? こんな小さな子に手を上げるとか真面な人間のすることじゃないだろ!」
「この私に意見しようと言うのか? たかが村人の分際で身の程を知れ! どうせお前なんてタリアにとって何の力にもなれないんだ。私がここで引導を渡してやろう」
男は剣の先を俺の方へと向けた。
多分この男と戦うことで色々と問題が起きることは間違いない。
だが、俺にはどうしてもこの男のやり方を許すことは出来なかった。




