その82 騎士とか偉いんですか?
御者に言われ、チラッと外を見ると馬に乗り武装をした男達6人が馬車を取り囲んでいた。
正面にいる男が1人だけ高級そうな鎧を身に着けている。おそらくこの男が指揮官だろう。
「騎士様。一体どうしたのでしょうか?」
御者が丁寧に指揮官らしき男に対応をしている。どうやらこの6人によって馬車が止められた様だが、その理由に関しては全く見当が付かないようだ。
「牢から逃げ出した10歳くらいの少女を探しているのだが、この馬車に乗ってはいないか?」
この馬車に乗っている10歳くらいの少女というと、アンナくらいしか居ないが、流石に牢から逃げ出した少女には当てはまらないだろう。
「馬車には1人少女が乗っていますが、騎士様が探している様な少女ではないと思いますが...」
「乗っているのか? だったら馬車の中を確認させて貰うぞ」
「で、ですが...」
「御者の分際で私に逆らうのか!?」
男は拳を握ると御者の頬を殴った。殴られた御者の顔が横に揺れ、そのまま地面へと倒れた。
「ううっ...」
御者を殴った男が馬車の後へ回り込み、中が見えるように幌をめくり上げた。
「ほぉ。その少女のことか。おい! お前! こっちへ来て顔を見せるんだ!」
「お、お母さん...」
アンナは怯えながらジェシカに抱き付いていて、男の元へ行こうとはしない。
いきなり知らない男に大きな声でこっちへ来いと言われても、怖くて行きたがらないのは当たり前だ。
「アンナ。大丈夫よ・・・」
ジェシカは怯えたアンナを落ち着かせている。
「早く来ないか! 貴族の私にこんな汚い馬車に乗れと言うのか!?」
何だコイツは...。騎士とはこんなクソみたいな人間なのか? どう考えてもこの男の態度は子供に対して相応しい態度ではない。もう少し聞き方というものがあるんじゃないのか。
グレン、バウアー、ハンスの3人も男に対して何も言わない所を見ると、騎士には逆らっては駄目だという法律があるのかも知れない。
「少し待って下さい! アンナ。大丈夫だからね」
ジェシカがアンナを抱き抱えて男の前まで連れて行くと、男はまじまじとアンナの顔を確認している。
「ちっ! 別人か。さっさと私の所へ来ていれば良いものを、私の貴重な時間を無駄にさせるんじゃない!」
男はアンナを突き飛ばすとアンナは馬車の床に倒れ込んだ。
「うえーん!」
床に頭を打ち付けてアンナは泣き出してしまった。
「アンナ!」
ジェシカが心配そうな顔をしてアンナを抱き起こした。
アンナが突き飛ばされたのを見ていたリュートが男に向かい突っ込んで行く。
「キュイ! キュイー!」




