その72 誰かを犠牲にするとか嫌です!
俺がどうやって馬車から降りようかと考えていると無口なバウアーが口を開いた。
「ここは俺が犠牲になろう...片腕を無くした戦士など冒険者としてはもう終わったようなものだからな...」
「バウアー...」
グレンにバウアーを止める素振りはない。パーティーメンバーが自らを犠牲にしようとしているのに、それを止めようともしないのか? 確かに全員が死ぬよりは1人の犠牲で、残りの皆が助かるならそっちの方が良いのは分かる。だけど...俺は自分のパーティーメンバーならそんなことは認めない! 〖ホワイトアイ〗への加入に関しては俺の中で答が出た。後は俺がヒュドラを何とかすれば良い。
「俺ならヒュドラを何とか出来るかも知れません! 馬車を止めることは出来ませんか?」
「バカなことを言うんじゃない! 確かにお前には強力なユニークスキルがあるかも知れない! だが、ヒュドラとお前ではステータスが違いすぎて、勝負にならんのだ!」
ハンスはヒュドラと戦うつもりの俺を止めようとする。
「俺には考えがあります! もしヒュドラのことで何か分かることがあれば教えて下さい!」
「...ヒュドラはあの頭がそれぞれ違う攻撃をする。俺が分かっているのは炎のブレスと氷のブレス、それから毒のブレスだけだ」
ヒュドラには5つの首があった。その内3つがハンスの言った通りだとすると、不明な攻撃は後2つ。それに関しても自分のスキルを確認すれば分かる筈だ。
馬車から降りる為の協力を頼む為、俺は御者席の方へ近寄って行った。
「すみません。馬車から降りたいので馬車を止めて貰うか、スピードを緩めて貰うことは出来ませんか?」
「バカなことを言わないで下さい! ヒュドラに追い付かれれば私達は全滅です! そんな自殺行為をすることは出来ません!」
ヒュドラを恐れている御者は馬車のスピードを緩めようとはしない。流石にこれは何を言っても無理そうだ。降りる為にはこのスピードで走る馬車から上手く飛び降りるしかない。たた、俺が馬車から降りたとしても馬車は俺を残してサームに向かってしまうだろう。
だけど、それで誰も死なないなら俺は喜んでその道を選ぼう。
馬車の後部まで行き外を見ると、先程よりも馬車とヒュドラの距離が縮まっていた。このままでは追い付かれるのも時間の問題だ。
「アンナちゃん。お兄ちゃんちょっとやることが出来たからリュートのことは頼んだよ!」
「え? お兄ちゃんどっか行っちゃうの?」
「ああ。皆に悪さをしようとする奴がいるからちょっと懲らしめてくるよ!」
このスピードの馬車から飛び降りることに恐怖はあったが、俺は勇気を出して飛び降りた。




