その71 一難去ってまた一難です
リュートに干し肉を与えると俺も干し肉にかぶりついた。見た目もあまり美味しそうではなく、保存食ということもあったので、味には期待をしていなかったが、実際に食べてみると意外にも美味しかった。
噛めば噛むほど味が出て来るし、よく噛むことで、少ない量でもお腹に満腹感を得ることが出来た。どこかで食べたような味だと思ったらビーフジャーキーだ。ビーフジャーキーも牛肉を乾燥させたものだと思うので、結局は一緒なのかも知れない。
リュートは与えた分を全て食べ終わると、更に欲しそうな顔をしていたが、サームの街までは2日掛かるという話だ。初日に食べ過ぎても後々困るので、リュートには最初に与えた分だけで我慢をしてもらうことにした。
悲しそうな顔をしていたリュートだったが、暫くすると干し肉を食べ終わったアンナの所へ飛んで行った。あれだけアンナに懐いているなら従魔契約が出来なかった場合、アンナに任せるという選択肢もあるかも知れない。
食事が終わると色々な疲れもあり、俺は猛烈な睡魔に襲われた。睡魔に負け、まぶたを閉じるとそのまま眠りに落ちた。俺が眠りについてから何時間経過しただろうか...眠っている俺の耳に騒がしい声が聞こえて来る。
「逃げ切れ! 逃げ切れなければ全員殺されるぞ!」
大きな声が聞こえて目を開けると、何か起こったのかハンス達が騒がしくしている。
「何かあったんですか?」
「この馬車がヒュドラに追われているんだ! ヒュドラは肉食だ! 追い付かれれば馬車の人間はみんな食われてしまう!」
Bランクのハンスがこれだけ焦っているということは、余程ヤバイモンスターなんだろうか? ヒュドラと言えば首が何本もある蛇みたいなモンスターだよな? 馬車の後ろから顔を出し後を見ると、5つの首が生えたモンスターが地面を這いずりながら馬車を追ってきていた。
地面を這いずっているのに物凄いスピードだ。このままでは馬車が追い付かれるのも時間の問題だろう。
「ヒュドラって倒すことは出来ないんですか?」
「ヒュドラを倒すだって!? そうか、お前は異世界人だから知らないのか...A級の冒険者でもソロでヒュドラを倒すのは無理だろう。A級数人でやっと討伐出来るモンスター...それがヒュドラなんだ」
「だったら出来ることはないんですか...?」
「誰かが犠牲になって、ヒュドラに食われている間に少しでも離れるくらいしか方法はない...」
誰かが犠牲になるだって!? そんな誰かの犠牲の上で助かる命なんて意味がない。俺は例え1人でもヒュドラと戦うと決めた。




