その70 お裾分けです
そんな超危ない奴に狙われるとか本気で嫌なんですけど...だが、俺はタリアに召喚された人間ではない。その点で言えばセーフなのかも知れないが、念の為、今後はもっと慎重に行動をして、異世界人だということがバレないようにしなければ...。
「ありがとうございます。俺、この世界のことが全然分かってなくて...魔族側にも異世界人が居るとか全然知りませんでした...」
「城で説明は受けなかったのか? 一番気を付ける相手として、魔族側の異世界人のことは必ず説明されると思うのだが?」
「は、ははは...」
あの後、慎吾達は説明を受けているだろうが、勝手に出て来てしまった俺はそのことを全く聞かされていない。ハンスに対して笑って誤魔化すことしか出来なかった。
「そろそろ夜になる。俺は食事にするつもりだが、お前も用意はしているのか?」
「はい。リュートの分もちゃんと用意してあります」
「そうか。では俺は先に食事にさせてもらおう」
ハンスは腰の袋から食べ物を取り出すと口へと運んだ。俺と同様干し肉と、乾燥させたパンの様な物を食べている。周りを見渡すとグレンとバウアーも食事を始めていたが、ジェシカとアンナには食事を取る素振りがなかった。
俺が2人に近寄るとアンナが羨ましそうに3人の食事を眺めていた。
「2人は食事を取らないのですか?」
「ええ...恥ずかしながら馬車に乗る為に、持っていたお金を全部使ってしまって、食べ物を買うお金がなかったの...」
ジェシカは恥ずかしそうな顔をしている。
「だったら俺が用意していた干し肉をお分けしますよ。もちろんお金は必要ありません」
「...流石に貰う訳には...」
「気にしないで下さい。アンナちゃんがリュートと遊んでくれているお礼です」
リュートは馬車に戻って来てからずっとアンナと一緒にいる。リュートは俺なんかよりも全然アンナに懐いている様に見える。
俺はリュートに持たせてある袋を開け、2人で食べる分には充分な量の干し肉をアンナに手渡した。
「わぁー、お兄ちゃん! これ、貰っても良いの!?」
「ああ。お母さんと2人で食べるんだよ」
「わぁーい! お兄ちゃんありがとう!」
アンナは1つだけ残して残りをジェシカに渡すと、干し肉を食べ始めた。余程お腹が空いていたのか満面の笑みを浮かべながら食べている。
「本当にありがとう」
ジェシカは頭を下げると自分も干し肉を食べ始めた。
「気にしないで下さい。リュートの分が少し減っただけですから!」
「キュイー! キュイー!」
リュートは俺の言葉を理解したのか、少し悲しそうに鳴き声を上げた。




