その7 正直な気持ちをぶつけてみました
「ああ、そうだぜ! 本当なら吉川春香って言う女が一緒に来る筈だったのに、コイツは春香を突き飛ばして自分が代わりに、あの変な光りの中に飛び込んで来やがった!」
「おお...何という事だ...」
大樹の発言に兵士達もざわつき始めている。確かに結果的には、春香の代わりにコッチの世界へ来た訳だが、別に春香の役目を奪うつもりだった訳じゃない。たまたま勢いが付きすぎて、春香にぶつかってしまっただけだ。
だが、大樹の発言の後から次第に、周りの俺を見る視線が変わっていくのが分かった。この国の人間からすれば本来国を救うべき人間を呼ぶ所を、俺の様な人間が故意に入れ代わったと知れば、俺に対して憎しみが沸くのも仕方がないことかと思える。
未来を託すべき人間が、俺の様なモブキャラになってしまったのだから。
「シオンよ!? 何故お主は、その様な事をしたのだ!?」
王の問い掛けに対し、俺は素直に答えようと心に決めた。そして俺の気持ちを知ってもらった上で改めて、俺にも半年間のチャンスを貰える様に願い出るつもりだった。
「私は子供の頃から英雄と言う存在に憧れていました。光る魔法陣を見た時に、こんな私でも異世界に行けば、みんなが憧れる様な英雄になれるかも知れないと思ったのです。そう思うと足が勝手に走り出していました。吉川さんにぶつかったのは事故で、決して吉川さんの代わりにこの世界に来ようなどとは、一切思っていませんでした...」
自分の気持ちを飾ることなく、真実をそのままに王へと伝えた。実際にこの世界に来て、俺が強者になることはなかったが、まだ俺は諦めてはいない。だが、そんな思いは王には伝わらなかった様だ。
「お主は何を考えておるのだ? 英雄とは生まれ持った才能によりなるもので、凡人がいくら努力をしようが英雄になることなどは出来ぬぞ? そんな下らぬ願望の為に、タリアを危機に追い込んだことは許されることではない!」
下らないこと? 確かに他人から見ればそうかも知れない。けど、俺からすれば、それはとても大切なことなんだ。確かにモブキャラの俺が異世界に転移しただけで、強くなれると思っていたのは、俺に取って都合が良すぎる考えだったかも知れない。だけど今は違う。弱い自分を受け止めて、強くなれる努力をするつもりでいる。
「何が英雄だ! 現実世界でモブキャラだった奴が、異世界に来て英雄になれる訳がねーだろ!」
「ぐうっ!」
再び大樹に腹部を蹴られると、その衝撃で後ろに飛ばされた。衝撃的にかなり飛ばされると思っていたが、何かに引っかかり少し後ろに飛ばされただけで済んだ。
後ろを振り向くと、慎吾が俺の身体を支えてくれていた。