その62 ノックアウトしてやりました!
「お前の様な奴が回復魔法を使えるとは誤算だったな。度々回復されては面倒だ。先ずはお前から殺すとするか」
ドルムはハンスに背を向けて、俺の方へ向かいゆっくりと迫ってくる。
「行かせると思うのか! 俺に背を向けるとは舐められたものだな!」
ハンスは槍を握りしめながらドルムの背後から襲い掛かった。ハンスの槍がドルムの背中に触れそうになった瞬間だった。
『カウンターアタック!』
ドルムはハンスの槍を見ることなく避けると、そのままハンスの身体に剣を突き立てた。
ハンス自身が攻撃をしていた勢いもあり、剣は鎧を貫きハンスの腹部に深く突き刺さった。
「ぐっ、ぐふっ!」
腹部を貫かれたハンスは握っていた槍を地面へ落とすと、その場に膝を着いた。
ドルムがハンスから剣を引き抜くと腹部からは大量に血が溢れ出した。ハンスは出血している傷口を両手で押さえ、少しでも血が流れるのを止めようとしているが、あまり効果はなく両手が赤く染まっていく。
不味い...。一刻も早く治療しなければ、あの傷では直ぐに死んでしまう。俺がハンスにヒールを掛けようと右手を向けると、さっきまではゆっくりとこちらへ向かってきていた筈のドルムが、一瞬で俺の目の前に現れた。
「使わせねーよ!」
ドルムの剣が俺の右手に向かって突き出された。
「うわぁぁぁ!」
剣は俺の手のひらを貫通して突き刺さった。
痛い。物凄く痛い。おそらく死ぬような傷ではないが、この痛みから早く逃れようと左手で自分にヒールを使おうとするも、ヒールは発動しなかった。
「そうか...今はコイツのステータスに変化してしまったからか...」
ドルムのステータスに変化してしまった俺が、ハンスにヒールを掛けるということは、元々無理な話だった。
チラっとハンスの方を見ると、ハンスが何かを瓶に入った液体状の物を取り出し口にしていた。するとあれだけ出血をしていた筈の傷口が塞がり、出血の方も完全に止まっている様に見えた。回復薬の様な物を使ったのだろうか。
ハンスの心配はなくなったが、目の前の危機は何も変わっていなかった。
俺の手から剣を抜くと再びドルムの剣が、今度は俺の頭を目がけて振り下ろされた。流石に食らえば即死なのは間違えない。今使えるスキルや魔法を確認すると、スキルにカウンターアタックというものがあった。さっきハンスの攻撃に対してドルムが使用したスキルだ。
『カウンターアタック!』
スキルを発動させると身体が自然と動き、ドルムが振り下ろした剣を避け、ドルムの顎に対してアッパーを食らわせていた。
「ぐはっ!」
ドルムの勢いもあり、拳は完全にドルムの顎を捉えると、ドルムの身体は上空に浮き上がり、そのまま地面へと落下した。
ドルムは白目を剥きながら倒れている。どうやら意識を失った様だ。




