その61 回復魔法を使ってみました!
ハンスこそ大きな怪我はしていないようだが、グレンは身体中に傷を負っていて、バウアーの方は左腕が肩の下からなくなってしまっている。傷口からは大量に出血をしていて、直ぐにでも止血をしなければ長くは持たないだろう。
リンダは相変わらず盗賊に押さえつけられているが、その目には涙が溢れている。傷だらけのグレンや左腕を失ったバウアーを見て涙を流しているんだろう。
一気に形勢が悪くなったのはリンダの魔法援護がなくなったことが原因だろう。先ずはリンダを盗賊から救出するのが最優先だ。
幸いにも盗賊達は俺の存在には気が付いていない。こっそりと接近すれば奇襲を掛けることが出来るだろう。
俺は盗賊達から見付からない様に少しづつリンダの傍に近付いた。リンダまで5mくらいの場所まで近付くと、突然後ろを付いてきていたリュートが鳴き声を上げた。
「キュイー!」
リュートの鳴き声を聞いた盗賊達が一斉にこっちを向いた。
「なんだ! この野郎!」
リンダの近くにいた盗賊が俺の存在に気付くとナイフを向け接近してきた。
「リュートぉ! 勘弁してくれよー!」
リュートの鳴き声によって奇襲が完全に失敗した俺は、急いで現在のスキルや魔法をチェックしてみた。今のステータスは目の前の男のものになっている筈だからだ。
すると魔法の欄にヒールという魔法があった。これは間違えなく回復魔法だろう。盗賊が回復魔法使えるとは意外だが、正直今の俺の状況にはあまり意味がない。刺された後の回復には使えるかも知れないが、回復をしているだけではMPが尽きた時点で終了だ。
ただ、俺の状況には意味がなくとも戦況全体にはかなり大きな助けになる。
『ヒール』
俺はバウアーにヒールを使った。するとバウアーの左腕の傷口が塞がり、出血も止まったように見える。
「...ありがとう。感謝する」
バウアーは小さな声でお礼を言った。
『ヒール』
更にグレンに対してもヒールを使うと傷だらけだったグレンの傷が治っていった。
「すまん。助かった! アンタ、ヒールが使えたんだな!」
「この野郎! 余計なことをしやがって!」
盗賊がナイフを俺へ向けて突き出した。取り敢えず刺されたとしても死にさえしなければ、ヒールを使って回復させられる筈だ。
刺される傷みに怯えながら身構えていたが、盗賊のナイフが俺の身体に触れることはなかった。
「ぎゃぁぁぁ!」
盗賊が目の前で燃え上がった。見ると盗賊の背後からリンダがファイヤーボールを放ったようだ。
これで盗賊の数は5人。こっちの数も5人。数の上では互角な状況になっていた。




