その55 俺の居た世界では殺人罪です!
「ハンスさん。凄いです!」
俺はモンスターを倒して馬車に戻ってきたハンスに声を掛けると、ハンスは槍を上げてニコッと笑顔を見せてくれた。
ハンスが馬車に戻ったことを確認すると、再び馬車はサームに向けて出発をした。
ハンスから色々話を聞こうと思い、俺はハンスの前に移動をした。Bランクの冒険者であるハンスから色々話を聞ければ、この先で役に立つかも知れないと思ったからだ。
「それにしても、あんなに一瞬でモンスターを倒しちゃうなんて、本当に凄いですね!」
「なーに、この辺りのモンスターは弱いモンスターしか出ないからな。夜になれば多少強いモンスターも現れる様になるが、それでもCランクくらいの冒険者なら余裕で倒せる強さのモンスターだ。[サーム]までの道で一番気を付けなければいけないのは盗賊達だな」
盗賊? 盗賊って人間だよな? 向こうの世界では正当防衛って法律があったけど、こっちではどうなんだ? 剣や槍を使って戦ったら過剰防衛になるんじゃないのか? こっちの世界ではそんな法律自体がないと思うし、そもそも、いざって時に俺は人を殺すなんて出来るのか? モンスターとの戦いにはそんなことを考える必要はなかったが、相手が人となれば話は変わってくる。
こっちの世界では常識的なことでも、向こうの世界では、普通に日常を生きていれば体験することがないことだ。
「ちなみに冒険者になったばかりで、あまり詳しく知らないんですけど...盗賊に襲われたら反撃で命を奪ってしまっても、咎められたりはしないんですかね?」
俺の質問に対して、ハンスがキョトンとした顔をしている。何か不味いことを言ってしまったのだろうか。
「面白いことを聞く奴だな。盗賊は殺したとしても罪になるどころか、報酬を貰えるのは常識じゃないか。子供でも知ってることだぜ?」
「で、ですよねー」
危ない...。子供でも知っている様な常識を知らないことが知られたら、異世界人だとバレてしまう可能性がある。俺は極力、異世界人だとは知られずにいたい。
それにしても盗賊を殺すとお金が貰えるのか...お金が貰える貰えないは置いておいても、こちらの世界で生き抜く為には対人戦闘も出来なければいけないと言うことか...流石に殺されそうになれば、こちらもやるしかない。ガンツ達が死ぬのを見ても何も感じなかったが、それと自分が殺すのとでは全く意味が違う。
出来れば、そんな状況が訪れなければ良いなと思っていた俺の期待は、直ぐに裏切られることとなった。




