その51 多分良心的な商会だと思います
「俺とリュートが一緒に乗っても大丈夫なんですか?」
「ああ。ドラゴンの子供を一緒に乗せても大丈夫か確認したが、嫌がっている客はいなかったんで大丈夫だぞ」
完全に諦めていたが、他の客が受け入れてくれるとは助かった。これで[サーム]に向かうことが出来る。コミュ障の俺には初対面の人と馬車の中で一緒にいて、何を話せば良いのかがわからないが、取り敢えずは無難に対応しておけば良いだろう。
「兄ちゃんが馬車に乗るなら丁度人数も揃うし、直ぐにでも出発出来るけど大丈夫かい?」
「はい。準備は済ませてあるので、いつでも出発出来ます!」
「だったら付いてきな」
男の後に付いて行き、小屋から少し離れた所に行くと、1台の馬車が止まっていた。
馬2頭引きの馬車で、馬車の御者席には2人の御者らしき男達が座っている。食事を食べさせたり、多少は馬を休ませる時間があるにしろ、2日間走らせるということは基本的には、常に走らせていることになる筈。
1人だけで馬車の運転をするのは厳しいので、2人で交代に運転をするということだろう。
馬車の後ろの箱の部分には幌が掛かっていて、正面か背面に立たなければ中の様子が伺えない様になっていた。
外から見た感じだと5人乗るには広いが、10人乗るには狭いように思われる。
「おう! お前達。これがさっき言っていた兄ちゃんだ。この兄ちゃんも[サーム]まで頼む」
「分かりました!」
男が俺のことを伝えると御者達は元気良く返事をした。リュートのことも伝わっているとは思うが、特に嫌な顔をする素振りもない。
「じゃあ、兄ちゃん。サームまでの料金を支払って貰っても良いかな? サームまで1人金貨3枚なんだが、流石にその小さなドラゴンに3枚払って貰うのは悪いから、ドラゴンは金貨1枚で大丈夫だ! 合わせて金貨4枚になるけど大丈夫かい?」
「はい! お願いします」
俺は男に金貨4枚を支払った。宿屋ではドラゴンということで特別料金を払わされたが、この商会は良心的な様だ。
「確かに。それじゃあサームまでは、この2人が交代で連れて行くので宜しくな。俺はまだ少し馬小屋でやることがあるので失礼するぞ」
そう言って男は馬小屋の方へと帰って行った。
「[サーム]まで宜しくお願いします」
「はい。それでは箱の方へとお乗り下さい。他の方々も既に入られています」
男に促されて箱に乗るため、馬車の後方へと回り込んだ。
俺は他にどんな人間が乗っているのかと、ドキドキしながら幌の中を覗いて見た。




