その47 ☆3つです(5段階評価)
「今晩この宿に泊まることになっている者なのですが、ここで食事が出来ると聞いて来たのですが?」
「ありがとうねー。ウチの人ってあんな感じだから、お客さんもあまり入らなくてねー。お兄さんが利用してくれて嬉しいわ」
そう言ってくれた女性の笑顔は凄く感じが良いものだった。
ウチの人ということはあの男の奥さんだと思うが、どう考えても配置を間違えていると思う。この女性が受け付けに立っていた方が明らかに客の食い付きも良くなる筈だ。
「何か適当に食事をお願いしても良いですか? コイツにも肉料理をお願いしたいのですが?」
「キュイ! キュイー!」
会話を理解しているとは思えないが、食事の話になるとリュートが鳴き声を上げた。
「あらあら可愛いドラゴンねー。その子には牛のステーキを用意するわね。椅子に掛けて待ってて貰えるかしら」
女性はリュートを見ても怯えることはなく、笑顔のままでいてくれる。
何が起こったらこんな綺麗な女性が、あんな男と結婚をすることになるんだ? こんな綺麗な女性を彼女に出来たら毎日楽しいだろうなぁー。恋愛経験が0の俺にも美人に対する興味はある。
女性に言われた様に俺はカウンターの椅子に座り料理の完成を待っていた。
リュートは隣の椅子にチョコンと座って、俺と一緒に料理を待っている。所々でリュートは人間の言葉を理解しているんじゃないかと思える場面がある。
俺達が待っていると、暫くして女性がカウンターの上に料理を運んできた。
「お待たせー。足りなかったらおかわりもあるからね」
カウンターの上に並べられた料理は、俺の前に置かれたのが、牛肉と野菜を炒めた野菜炒めの様なものと、グラタンの様なもの。フランスパンを切って焼いた様なもの。それにスープとコップに入った水だった。
料理の隣にはナイフ、フォーク、スプーンと食事をする為に必要なものは全て揃っている。
リュートの前に置かれたのは1キロくらいの重さはありそうな牛肉の塊を焼いたものだった。
料理が置かれるなりリュートは直ぐに肉にかぶりついた。
満足な味だったのか、嬉しそうな顔をしながら肉にむしゃぶりついている。
リュートに遅れて料理を食べ始めると、料理は全て見た目通りの料理だった。野菜炒めにグラタンにフランスパン。アッチの世界で食べているものと見た目だけではなく味も同じ、これなら食事に対して心配することはなさそうだ。
お腹が空いていたこともあり、全ての料理を30分程で完食すると、リュートの方は俺よりも先に肉の方を食べ終わっていた。
正直、味の感想は普通で、特別に美味しい訳ではなかった。
「ごちそうさまでした。それで料理の方はおいくらでしょうか?」
「お金なら必要ないわよ」
「え?」
料理の代金もぼったくられることを覚悟していた俺には意外な返答だった。




