その45 店主が恐いのですが
辺りはすっかりと暗くなっていた。この世界に時計が存在しているのか分からないが、この暗さは一般的に夜と言われる時間で間違えはないだろう。そう言えばお腹も減ってきたな...。
普段なら帰宅後は、母親が買ってきた大量にあるスナック菓子を食べながら、ゲームをするのが日課だった俺には、昼から何も食べていないという状況は久し振りだった。
宿屋で食事が出来るのか分からないが、もし食事がないようなら適当に飲食店でも探せば良いだけだ。
宿屋を目指し街の東に着くと、アイザック亭と書かれた看板の付いている大きな建物を発見した。
建物は宿屋という割にはあまり大きな作りではなく、部屋があるとしても精々6部屋くらいが限度な気がする。もし食堂なんかも付いていたら更に部屋数は少ない筈だ。
入り口の扉を開けて中に入ると、直ぐ目の前にカウンターがあり、部屋の中には右に進む通路と左に進む通路があった。カウンターの中にはモヒカン頭の男性が立っている。
男性はかなりガタイが良く、身長は190㎝近くはあるんじゃないだろうか? 客商売とは思えない程無愛想な顔でこっちを見ている。
「あのー、一泊してたいのですが、部屋は空いていますかね?」
「あ? 一泊したいってのはお前とドラゴンの話しか?」
男性は恐ろしくガラの悪い喋り方をしている。世紀末に現れる様な人間の髪型をして、そんな喋り方をされたら客にとっては恐怖でしかない。
「はい。俺とリュート...いや、このドラゴンと一泊したいのですが大丈夫ですかね?」
そう言うと男性は俺達の方を舐め回すようにジロジロと見ている。制服は着替えたので異世界人だとは分からない筈だが、ドラゴンを連れていることが気になる様だ。
「良いぜ! その代わりに料金は特別料金になるぞ? ドラゴンの大きさは平均すると、人間の5倍の大きさになる。だから料金も人間の5倍頂くことになるが、大丈夫か?」
ボッタクリだ! 確かにドラゴンは俺の6倍近い大きさだったが、リュートに関しては30㎝程の大きさしかない。それで人間の5倍の料金を請求するとは、ボッタクリも良いところじゃないか! だが、他の宿屋でリュートを泊まらせてくれる宿があるとも思えない。それが分かっているから足元を見られているんだ。
ユニークスキルの回復効果も考えて、宿屋に泊まらないことも考えたが、お金は充分にある。今日はゆっくりと休みたいし、6人分の宿代くらいなら払っても問題はないだろう。
「それで大丈夫です。お願いします」
俺がそう言うと男性はニヤリと微笑んだ。




