その30 もしかしたら宿屋は必要ないかも知れません
俺達は[マウル山]を後にし[ヤブン]を目指した。来る時に何度か大モグラに襲われたが、その時はガンツ達が倒してくれていた。帰り道にガンツ達はいない。もし大モグラに襲われたら俺とリュートだけで戦わなければならない。しかもリュートに関しては真面に戦いをしてくれるのかも分からない。
出来れば大モグラに出会うことなく街まで行きたかったが、そんな俺の思いは直ぐに裏切られることになった。
[マウル山]から10分程歩いた所で足元に異変を感じて立ち止まると、地面の土が盛り上がり、土の中から大モグラが現れた。
大モグラはその鋭い爪を立てて足元に襲い掛かってきた。
「リュート! プチファイアブレスでこいつを燃やしてくれ!」
「キュイ! キュイー!」
リュートはただ宙を飛びながら鳴いているだけで、何かをしようとはしない。やはり意思の疎通を図ることは出来ないようだ。俺は足元に伸びてきた大モグラの爪を、間一髪ジャンプして避けることに成功した。
落下する勢いを利用して、そのまま大モグラの頭に蹴りを入れてみた。大モグラの頭には靴の底の跡が付いたが、あまりダメージが入ってる様子はない。
頭を踏みつけられ、怒った大モグラは飛び上がり、俺の左手を目がけて爪を立てた。
「なんでモグラのクセに飛べるんだよ!」
不意を突かれたこともあり、攻撃を避けることが出来なかった左手は、モグラの爪により傷を負ってしまった。
「痛ってぇ!」
熱い痛みが左手から感じられる。傷口はそれ程深くなさそうだが出血をしている。
「キュイー!!」
リュートが大モグラの前に立ち大きく口を開けている。その表情はどこか怒っている様に感じられる。俺を傷付けられたことで怒ってくれているのだろうか? リュートの口から炎が吐き出されると、炎は大モグラの身体を燃やしていった。
数秒すると大モグラは燃えて、骨だけがその場に残った。流石にプチが付くようなブレスでは、骨まで燃やし尽くすという訳にはいかないようだ。
何にせよリュートのお陰で大モグラを倒すことには成功した。切られた左手は痛いが、我慢出来ない程の傷みではない。右手で左手の傷を抑えながら再び歩き始めると、20分程歩いたところで再び大モグラに遭遇した。
すると俺の身体が輝きを放ち、先程左手に受けた傷が塞がっていった。
「そういうことか!」
俺のユニークスキルは戦う相手と似たり寄ったりの能力になるというものだ。おそらくHPやMP、SPなどの消費をする様なものは戦いが始まった時にMAXの状態から始まるんだろう。これなら何とか敵を倒しさえすれば次の敵と戦う時には、どんなにダメージを食らっていたとしても全回復する様なものだ。
早い話が宿屋いらずの男だ。戦闘で蓄積される疲労までなくなるかは分からないが、この情報を知れたことは大きい。戦いにおいて常に、肉を切らせて骨を断つ作戦を使うことが出来るからだ。
俺はこのことを頭に置いて、大モグラと戦ってみることにした。




