その28 刷り込みですか?
「キュイー!」
子竜は俺の炎攻撃に対しても反撃をしてくる様子はない。それどころか可愛らしい目をしながらこっちを見つめている。
そもそもこの子竜を倒す必要はあるのだろうか? 俺にとってこの竜を倒すメリットと言えば、経験値が増えるということくらいしかない。子竜の態度を見ている限り俺のことを親の仇だと認識している様子もない。
俺のことを襲ってくるモンスターや、見た目が明らかにモンスターの姿をしていれば戦いやすいが、今俺の目の前にいる子竜は、体長30㎝程しかない可愛らしい生まれたての竜だ。そう考えると戦おうとしていた気持ちは何処かへ飛んで行ってしまった。
「ごめんな。お前の親を殺しちゃって...これから先1匹で大変かも知れないけど、頑張って生きるんだぞ」
俺達は親竜に襲われたが、それはバーツが親竜に対して攻撃をしたからだ。親竜からしたら子供を守ろうと必死で戦っただけかも知れない。そんなことを考えながら子竜に背を向けて、窪みを上がろうと側面に近付くと、後ろから子竜が付いてきている。
子竜を無視して、側面に足を掛けて上に登ろうとするが、パラパラと足元が崩れて中々上に登れない。
降りる時は比較的に楽に降りられたが、5mの高さを登るとなると中々大変だ。何度も足を滑らせながらようやく窪みから抜け出ると、子竜が小さな翼を羽ばたかせながら、窪みを出て俺の背中に付いてきた。
「いやいや。どういうことだ? まさか、よくある生まれて初めて見た者を親と見なすってやつか?」
もしそうだとしたら完全に勘違いだ。子竜にとって俺は親ではなく、親を殺した憎むべき相手なのだから。
もうこの山にいる理由もないので、子竜には構わず下山を始めたが、やはり背中を付いてきて離れない。さて、どうしたものか...。一旦立ち止まり振り返ると子竜はこちらを見ながら嬉しそうに飛び回っている。
この際コイツを連れて行くのも良いかも知れない。まだLV10のドラゴンとは言え、俺の本来のステータスよりは確実に高いだろう。モンスターと戦ってくれるかは分からないが、竜を連れた人間とか英雄感があるじゃないか。そうなると名前を決める必要があるな。
ドラきち? ドラ五郎? ドラ丸? センスがなさ過ぎるせいか真面な名前が浮かんで来ない。しかも完全にオスが前提の名前になってしまっている。
「う~ん...よし決めた! 今日からお前の名前はリュートだ!」
「キュイ! キュイー!」
竜だからリュート。安易な名前だが俺は気に入った。リュートの方も喜んでいるように見える。
斯くして俺のお供にフレアドラゴンヘビーのリュートが加わった。




