その268 何かおかしいのですが?
「へぇー。君、可愛いね。僕の彼女にしてあげようか?」
男がジリジリとニアに近付いて行くが、俺はまだ身体を動かすことが出来ない。
「ふざけないで下さい! 貴方は一体何なんですか!?」
ニアは男に対して一歩も引かない。俺を守ってくれようと必死だ。
「別にふざけてる訳じゃないんだけどね。僕の名前はトウヤ。白崎桃也。異世界からこの世界に転移してきた人間だよ。まぁ、こんなことを言っても君にはわからないかな」
そんな気はしていたが、やはりこの男も俺と同じく、転移されてこの世界にきたようだ。
黒い髪に黒い瞳。それだけでも日本人と思わせられるが、白崎桃也という名前。
間違えないだろう。
「ぐっ、ぐぅぅ...そのお前がここで何をしているんだ? 街にモンスターをけしかけようとしたのもお前なんだろ?」
両足に力を入れて必死に立ち上がる。
俺が立ち上がるのと同じタイミングで吹き飛ばされたリュートが合流する。
「シオン、気を付けて。コイツは相当強いよ」
リュートがあれだけ見事にやられたことから、俺にもトウヤの強さがわかる。
ただ、この男が強ければ俺も同じ強さになれる筈なのに、何故か全くそんな感じがしない...。
俺は現在のステータスを確認してみる。
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シオン・ヨシムラ
男性 年齢17歳
人間 職業・村人
LV58 HP105/305
SP176 MP0
力59 技59
速さ59 魔力0
防御59 幸運20
[加護]
炎G 風G 土G 水G
雷G 聖G 光G 闇G
[スキル]
村人の一撃
村人の怒り
村人の応援
[ユニークスキル]
五十歩百歩
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おかしい...。ステータスが本来の俺の数値のままで、あの男のステータスに変化しているとは思えない。
それに膝げり一発受けただけでこれだけのダメージを受けるとかヤバ過ぎる...。
2発食らっただけで死亡レベルだ。
「さっきはよくもやってくれたな! お返しだぁ!」
リュートがトウヤに向かって行く。
トウヤは槍を構えてリュートに身構えた。
「くらえー!」
リュートが激しくトウヤに攻撃を繰り出すが、軽くいなされてしまっている。
トウヤはまるで子供の相手でもするように余裕の表情を見せている。
「はぁ、はぁ、はぁ...」
攻撃を繰り返すリュートに疲れの色が見える。
「もう終わりなの? 残念だなぁー。それじゃあ、もう死んで良いよ」
トウヤが槍の先端をリュートの頭に合わせる。
「止めてぇー!」
ニアがトウヤに向けてウィンドカッターを放つ。
人間に魔法を放つなど、ニアにとってはかなり勇気が必要だった筈だ。
それでもリュートを助けるためには放たざる終えなかったんだろう。
『マジックバリア』
トウヤが左手を上空に掲げるとトウヤの周囲に円形の黄色い幕が張られる。
ニアの放った魔法がその幕にぶつかり消滅する。
「残念。そんな魔法じゃ僕の身体には届かないよ。先ずは1人!」
トウヤの槍がリュートに向かって突き出された。




