その244 アンデットには回復魔法です
「ニアァァァ!」
炎が収まるとニアは自分に対して回復魔法を使用していた。
「だ、大丈夫です...」
大丈夫とは言いつつも明らかに大丈夫じゃないのは俺が見てもわかる。
『フハハハ! 我の炎を凍らせることは出来ぬぞ。この黒き炎は特別な炎だからな』
非常に不味いな...。炎の魔法を放たれたら水魔法で対抗するつもりだったが、黒い炎に意味があるのかあの魔法には効果がないらしい。
さぁどうする...。
待てよ? アンデットモンスターには回復魔法でダメージを与えられたりするけど、その方法はどうだ? ...いや、駄目か...もしも回復魔法でダメージを与えることが出来るなら、さっきニアにヒールを掛けて貰った時に俺もダメージを受けている筈だ。
だが、もしも〖五十歩百歩〗が発動しても人間とアンデットという性質その物は変わらないとすれば...。
試してみる価値はあるか...。試すとすればまだリッチにあまりダメージを与えていない今しかない。
「ニア。まだ戦えそうかい?」
「はい !大丈夫です!」
「リッチにヒールを掛けて貰っても良いかい?」
「リッチにヒールですか...?」
ニアが不思議そうな顔をしている。この世界ではアンデットに回復魔法でダメージを与えるという知識がないということか...。
だとすればやはり回復魔法を使えば、単純に回復するだけなのかも知れない。
だが、それでも試してみる価値はある。
「ニア。頼む!」
「わかりました」
ニアがリッチに右手を向ける。最近ニルヴァスの杖を使っていないようだが、単純に魔法を使う時はあの杖は邪魔になるのだろうか。
『ヒール』
ニアのヒールがリッチの身体を包み込んでいく。
これでただリッチの身体が回復するだけだったらニアには白い目で見られるかも知れないが...。
『ぐぁぁぁ!』
ヒールを受けたリッチが苦しがっている。
やはりアンデットに回復魔法は効果大のようだ。
そして〖五十歩百歩〗により能力が変化をしても人間であるということに変わりはないことも判明した。
「よし! ヒールが聞いてる。一気に決めてしまおう! ニアはヒールを連発してくれ!」
「はい!」
ニアがリッチに対して連続でヒールを使用する。
ニアの攻撃に合わせるように俺も炎属性以外の魔法を連発する。
ニアが5度目のヒールを使用した後だった。
『くははは! 我が敗れるか...。それもまた一興だな。お主達の名前を聞かせてくれるか?』
「俺の名前はシオンだ」
「私の名前はニアです」
『シオンとニアか...。私を倒したお主達に進化の実を与えよう。これを食べればお主達は新たな力を手に入れることが出来るだろう。再び90階での再戦を楽しみにしているぞ』
そう言うとリッチの身体がその場から姿を消した。
リッチがいた場所には別のモンスターの姿があった。
こいつが本来の10階のボスであるゴブリンナイトなんだろう。
90階で再戦とか言っていたが、それは聞かなかったことにしよう。
ニアの魔法1発でゴブリンナイトを倒した後、リッチのいた場所をよく見ると木の実のような物が2つと、リッチが着ていたローブが置かれていた。




