その22 前言撤回!
「それで俺の役目と言うのは...?」
「悪いなシオン。お前にはドラゴンを誘き寄せる餌になってもらう。まぁ頑張って逃げ切れば、生き残れる可能性もチョッピリはある筈だ。お前が生き残った時にはちゃんと報酬は払ってやるよ」
前言撤回! 人は見掛けに超よります! ガンツ達は始めからその為に俺を連れて来た様だ。
速さ7しかない俺が、ドラゴンから逃げ切るなんてことが出来る筈がない。ガンツの言っていることは俺にとって死刑宣告と同じことだった。
俺がその場から逃げようとするとゲイツに腕を掴まれた。
「おっと。何所に行こうとしてるんだ? お前がいなかったら、ドラゴンの卵を手に入れることが出来ないじゃないか?」
ゲイツに腕を掴まれていて動くことが出来ない。バーツが弓矢を手にすると、窪みの方に狙いを定めている。これは不味い・・・非常に不味い事態だ。LVの低い人間から狙う特性があるなら、最初にドラゴンに狙われるのは間違えなく俺だろう。そしてドラゴンに狙われたら俺に待っているのは確実な死。
この世界がゲームの世界で、死んでもまた王様の所から復活とか出来るなら良いが...いや、実際に王様には会いたくはないのだが...今の俺にとってはこの世界が現実世界となっている。おそらく転移からの転生でも起こらない限り、俺の存在は完全に消滅するだろう。
俺は必死にもがきゲイツの手を振りほどこうとした。すると俺の腕を掴んでいたゲイツの手を振りほどくことに成功したのだ。力が7の俺が振りほどけるとか、ゲイツの力はどんなに低いんだ? ポッチャリ体型は見掛けだけで、ただのおデブさんだということか。
ゲイツの腕を振りほどいたのとほぼ同じタイミングだった。バーツの放った矢が窪みの中へと飛んで行った。矢は窪みに入るとカーン! といった何かに弾かれた様な音を鳴らした。
「しまった! 間に合わなかった」
バーツの攻撃によりこちらに気付いたドラゴンが翼を羽ばたかせ、宙に浮き上がると窪みから姿を現した。
その表情はどことなく怒っている様に感じられる。
頭に生えた角、口には牙が生え、その手には鋭い爪が生えている。背中の2枚の翼、長く伸びる尻尾、まさに俺が持つドラゴンのイメージそのままだった。
ドラゴンの目線は明らかに俺の方を向いている。そのままこちらへ向かい猛スピードで接近してくる。
終わった...。何も良いことのない人生だったな...。死を覚悟して目を閉じると隣から叫び声が聞こえた。
「うぎゃぁぁぁ!」
叫び声に驚き目を開けると、そこにはドラゴンの爪で引き裂かれたゲイツの姿があった。
「え!?」
LVの低い者から狙う特性があるという話だったが、Cランクの冒険者であるゲイツが、俺よりもLVが低い筈がない。俺を狙ったのが近くにいたため巻き込まれたんだろうか? 何にせよ取り敢えずは生きている。この状況を打破出来るような何かを考えなければ。




