その188 右手が見るも無惨な姿になりました
「痛ってぇぇ!」
攻撃を受けると覚悟はしていたが、想像以上の痛みだ。
「くっ、くうう...今度は俺の番だ」
俺は右拳を握りワイバーンの頭を殴り付けた。
「キシャァァァ!」
俺が殴ったことによりワイバーンの頭が横に動き、肩が牙で抉られる。
「ぐうっ!」
殴られても肩から牙を抜かないのは流石だ。
繰り返し何度も何度もワイバーンの頭を殴り付ける。
いくら速さがあろうとも、これだけの至近距離で殴られれば全く意味はない。
殴る度に肩の傷が広がっていくが、これだけなら俺が死ぬことはない。
痺れを切らしたのかワイバーンが肩から牙を外すと、超音波を吐こうと口を広げた。
「今だ!」
俺はワイバーンの口の中に右拳を突き出した。
口に拳が入るのと同時にワイバーンが超音波を吐き出したようで、口の中で暴発が起こる。
自分の超音波を口の中で受けたワイバーンの頭が吹き飛ぶ。
「ぐぁぁぁ!」
当然口の中に突っ込んでいた俺の右手も無事ではすまない。
俺の右手は見るも無惨な姿になってしまっていて、この先とても使い物になるとは思えない。
しかし俺の〖五十歩百歩〗には戦いが始まれば完全回復して戦えるというメリットがある。
俺は激しい痛みに堪えながらニアたちのところへと向かった。
俺がニアの元へ行くよりも早く、ニアが俺の方へと走ってくる。
『ヒール』
ニアがヒールを使うとあれだけグチャグチャになっていた右手が何事もなかったかの様に元の姿へと戻った。
正直、ヒールにこれだけの状態を治すことは出来ないと思っていたが、少々ニアのヒールを侮っていたのかも知れない。
「ありがとうニア。正直メチャメチャ痛かったんだ。助かったよ」
「無茶をしないで下さい! シオンお兄ちゃんが厳しいと思うようなら私を頼ってくれれば良いじゃないですか!」
「はは...妹に助けられてばかりじゃ兄としてみっともないからさ」
「シオン殿。大丈夫か?」
ニアに遅れてスージーも俺の元へ駆け付ける。
「何とか大丈夫です。スージーさんの方も無事だったみたいですね」
「ああ。シルキー殿のお陰で楽にワイバーンを倒すことが出来たぞ」
シルキーが自分から人間を背中に乗せたのには驚いた。むしろシルキーは俺だけを存外にしているのかも知れない。
「それでは奥に進みましょう」
ワイバーン3匹との戦闘を終わらせた俺達は再び奥へと向かい歩き始めた。
暫く歩くとかなり開けている場所へと出た。
左右の岩肌が大きく削れてこれだけの広さになっているようだ。
『この谷に人間が訪れるのは久し振りだな』
声のした方に視線を向けると、そこには体長10m近い真っ白な色をしたドラゴンがこちらをじっと睨んでいた。




