その172 騎士の情けとか関係ありません
2匹目の大サソリは正面から頭を蹴りつけた。
大サソリは頭まで硬い。俺の足の方が痛くなったが、蹴りを受けた大サソリは苦しがっている。
殴っても蹴っても猛毒を与えられるとか相当強い気がする。
2匹目の大サソリも動かなくなると、残った4匹の大サソリは騎士達を放置して一斉に俺に襲い掛かってきた。
これはヤバイ...4方向から攻撃されたら流石に避けきれない。
4匹の大サソリが同時に尻尾を突き出す。
『ウィンドカッター』
ニアの放った2つの風の刃が大サソリの尻尾を切り落とした。
「キュイー!」
リュートは口から炎のブレスを吐き出し1匹の大サソリを焼き尽くす。
「ナイス! ニア! リュート!」
俺は残り1匹の尻尾のみに集中して上手く攻撃を避けると、尻尾の付け根の辺りを殴りつけた。
殴った場所は柔らかく俺の拳が少しめり込んだ。
拳を受けた大サソリは他の2匹と同じように苦しみだし、暫くすると完全に動きが止まった。
『ウィンドカッター』
再びニアが放った2つの風の刃が大サソリ2匹の首を落とした。
いくら硬い殻を被っていてもニアのウィンドカッターの前には役に立たない。
「す、凄い....」
俺達の戦いぶりを見た騎士達は驚いていると思われるのだが、顔が完全に隠れる程の兜を被っているため、表情を確認することは出来ない。
俺とニアは3人の騎士の元へ駆け付けるが、踞っている1人の騎士は相当悪そうだ。身体を震わせながらうめき声を発している。
「大サソリにやられたんですか?」
「はい。残念ですが...毒が全身にまで回ってしまっています...。こうなってしまっては助けることは出来ないでしょう...。責めて彼が苦しむことがないようにしてあげるのが私の務めです」
騎士の1人が踞る騎士の首に剣を当てた。
「うっ、ううっ...スージー様...」
「ダリウスよ。私のせいでこんなことになってすまぬな...。今、楽にしてやるからな」
「ぐっ、ううっ...ありがとうございます...」
スージー? ガラード侯爵の娘と同じ名前だが、流石にたまたま名前が一緒なだけだろう。
スージーは剣を振り上げた。
「待って下さい!」
ニアが踞る騎士とスージーの間に割り込んだ。
「どいてくれ。少しでも早くダリウスを楽にしてやるのが騎士としての情けだ」
「この人を助けることが出来るかも知れません!」
「ダリウスを助けるだと? 大サソリの毒が身体中に回ってしまえば、例え高位の神官だとしても毒を消し去ることは出来ない...」
ニアは踞っている騎士に両手を向けた。
『キュア』
ニアの両手が光輝き騎士の身体を包んでいく。
「初級状態回復魔法のキュアだと? そんな魔法では全く話にならないぞ?」
光に包まれた騎士は光が収まるとその場に立ち上がった。
「嘘みたいだ...。優しい光に包まれるとあれだけの苦しみが完全に消えてなくなったぞ」
ニアの使ったキュアにより騎士の身体からは完全に大サソリの毒素が抜けた様だった。




