その169 どうやら貴族と会わなければいけないようです
「申し訳ないですが俺には貴族の方と会う理由がありませんので...」
「いや、そんなことを言わないでくれ！ 会ってくれるだけでも良いんだ。頼む！」
アーロンは必死で俺に懇願する。ギルドマスターの立場としては侯爵の頼みを断れないということだろうか。
「ちなみにガラード侯爵が俺達に会いたがっている理由はわかっているんですか？」
「おそらくだが、ご息女の護衛依頼の話だと思う」
「何故、俺達にそんな依頼を？ 貴族の偉い方なら護衛の人間なんて一杯居ますよね？」
自分の娘の護衛をどこの馬の骨ともわからない俺達にさせるなんておかしな話だ。
貴族のお偉いさんだったら腕の立つ部下だっている筈だ。
「流石にガラード侯爵の部下に、たった2人でベヒモスを倒せる程の腕を持つ人間なんていないからな」
正確には2人も必要ない。ニアが本気でやれば、逆に1人でベヒモス2体を倒せる程の力を持っている筈だ。
それにしても護衛依頼にそれ程の実力者が必要とは、一体どんな相手から護衛させるつもりなんだ？ そこいらの盗賊相手なら自分の部下で十分な筈だ。
「やっぱり貴族とか国と関係がありそうな人にはあまり近付きたくはないので...すみません」
「そんなことを言わずに頼む！ 俺の顔を立てると思って話だけでも聞いてやってくれ！ 話を聞いてその気がなければ依頼は断ってくれても良いから！」
アーロンは土下座をし始めた。俺みたいな人間に土下座をするとかギルドマスターのしてのプライドはないのだろうか...。
「シオンお兄ちゃん...アーロンさんのお願いを聞いてあげてくれませんか？」
アーロンの姿を見たニアは可哀想に感じたのか、俺が貴族と会うことを望んでいる。
俺が国に関係する人間に一番会いたくない理由はニアのことがあるからだ。
ガラード侯爵がニアを捕らえていた人間と関係がある可能性もある。
ニアに危険があるようなことは避けなければいけない。
「でもニア...」
「私のことなら大丈夫です。だからアーロンさんのお願いを聞いてあげて下さい」
ニアには俺の気持ちを全て見透かされているのかも知れない。
自分のことは良いからアーロンの力になれと言っているんだ。
「ニア...わかったよ。それでガラード侯爵というのはどこに行けば会えるんですか？」
「会ってくれるか！？ 助かるぞ。この[サーム]から東に行った所に[パルマ]という街があるのだが、ガラード侯爵はその[パルマ]にある屋敷に居られる」
こうして俺達はガラード侯爵に会うため不安を抱きつつ[パルマ]という街に向かうこととなった。
