その166 逆転移も出来る筈です
「何か良いですね」
ニアがポツリと呟く。
「ん? マルコと母親のこと?」
「はい」
ニアはマルコと母親の仲睦まじい姿を見て、暖かな気持ちになっているようだ。
俺も家族と仲が悪かった訳ではないが、特別良かった訳でもない。それに比べてマルコ達を見ていると親子の仲の良さが伝わってくる。
ニアがマルコ達を見てこういう反応になるということは、ニアの家庭はあまり仲が良くなかったのかも知れない。
その辺りは突っ込んで聞くのも良くないかと思い、俺からは何も聞かなかった。
「私もあんなお母さんが欲しかったです...」
少ししんみりとしてしまったので、俺は話の方向を変えることにした。
「ニアは結婚したら良いお母さんになりそうだよね。美人だし優しいし。ニアの旦那さんになる男が羨ましいよ」
これは本音だ。ニアみたいに性格が良くて美人な娘など中々居ない。
それこそアニメのヒロインにしか存在しないようなレベルだ。
もし、ニアが俺と同じくらいの年齢だったら間違えなく惚れていた自信がある。
「私はシオンお兄ちゃんとずっと一緒に居たいです...」
ニアが寂しそうな顔をする。いつか俺は元居た世界に戻ることになる。必ずニアと別れる日はやって来るんだ...。
ニアもそれがわかっているから寂しそうな顔をするのだろう...。
「ニアさえ良かったら、ニアも俺の世界に来るかい?」
「良いんですか!?」
別に社交辞令で言った訳じゃない。ニアと別れる日が来た時、その時本当にニアが俺と一緒に居たいと願えば、俺はニアをあっちの世界に連れて行っても良いと思う。
色々な障害はあると思うが、異世界で魔王と戦うことに比べれば何とかなりそうな気がする。
「もしも俺が元の世界に戻る時にまだ、ニアが俺と一緒に居たいと思ってくれていたら、ニアを俺の世界に招待するよ!」
正直、ニアがあっちの世界に行く方法があるのかはわからない...。だが、あっちの世界からこっちの世界に来ることが出来るのなら、その逆も出来る筈だ。
「シオンお兄ちゃん!」
ニアが俺に抱き付いてきた。その目からは涙が溢れている。
「シオンお兄ちゃんと離れる日が来ちゃうかと考えたら、いつも凄く悲しくなっちゃってました」
ニアは泣き顔を俺のお腹に埋める。俺は右手でニアの頭を優しく撫でた。
「大丈夫だよ。ニアがずっと俺と一緒に居たいと思うなら、俺はニアとずっと一緒に居るから」
俺の言葉を聞き安心したのか、ニアはそのまま眠りについた。
ニアの頭が滑り落ち俺の足の上に落下する。
俺もニアに毛布を掛けると座ったままの体勢で眠りについた。




