その162 全ての人間が魔族の敵ではありません
フォードとの話を終わらせてニアの元に戻ると、ニアが心配そうな顔をしている。
流石にニアには俺とフォードが何を話していたかはわからない筈だ。
「シオンお兄ちゃん。お帰りなさい」
「ニア。ただいま。フォードさんが何故、俺のことを異世界人だとわかったのか聞いて来たよ」
「それで何かわかったんですか?」
「フォードさんには初めて出会った相手の過去の姿が見えるっていうユニークスキルがあるみたいなんだ。それであっちの世界に居る時の俺の姿が見えたらしいんだ」
「初めて出会った相手の過去の姿が見える...それじゃあ!?」
ニアが不安そうな顔をしている。過去の姿が見えたと言っても、重要なのはいつの姿が見えたかだ。
見られた姿によっては問題はないが、角が生えている姿を見られていたら1発で魔族であることがバレてしまう。
「フォードさんはニアが魔族だと知っていたよ。ニアのどんな姿が見えたのかはわからないけどね。でも大丈夫だよ。フォードさんはニアのことを誰かに言うつもりはないみたいだから」
俺は周りの冒険者達に聞こえないくらいのボリュームに絞った声でニアに説明すると、ニアは不思議そうな顔をしている。
「ニアが人間と仲良くしたい様に、人間にだって魔族と仲良くしたい人間が居るんだよ」
別にフォードが人間と仲良くしたいと言っていた訳ではないが、まぁこれくらいのことなら言っても良いだろう。
それを聞いたニアの顔には笑顔が溢れている。
今のニアがどれだけ嬉しい気持ちなのかは俺にもわかる。
「シオンお兄ちゃん。ありがとうございます。私、シオンお兄ちゃんに会えて良かったです」
ニアは俺の身体にピッタリとくっついてきた。俺の身体にニアの温もりが伝わってくる。
周りを見渡すと既に半数くらいの冒険者は眠りについている。
「ニア。俺達ももう寝ようか?」
「はい」
俺達はその場で横になると、眠っている時にニアの角が見えてしまわないよう、ニアの頭に腕を回して眠りについた...。
どれくらいの時間が経過しただろうか...。俺が目を覚ますとニアはまだ眠っていた。
周りを見渡しても半数以上の冒険者は未だに夢の中だ。
無理に起こす必要もないかと、俺はニアが自然に目を覚ますのを待った。
それから暫くして周りの冒険者達が目を覚ますのに合わせてニアが目を覚ました。
「ん、んー...」
「おはよう。ニア」
「あ、シオンお兄ちゃん...おはようございます」
まだ寝起きだというのにニアが俺を呼ぶ言葉はお兄ちゃんだった。
ニアにとってそれが自然になっていっているのかも知れない。




