その13 ヤブンの街に着きました
「君の家はどこかな? お姉ちゃんを家に連れて帰ってあげないと.⇦.」
「私のお家はヤブンにあるよ...。お姉ちゃん...」
「君のお姉ちゃんは俺が連れて行くよ。ヤブンに向かおう...」
俺は少女の遺体を抱き抱えたままヤブンへと足を進めた。
少女は後を付いて来ているが、ただ涙を流すだけで一言も言葉を発することはなかった。
無言のまま30分程歩くと街らしき建物が視界に入ってきた。街の周りは柵で囲まれていて、どこからでも入れるという訳ではないらしい。モンスターが襲って来た時の為に備えられているのだろうか? 街の周りをグルっと回ると柵に切れ目があり、中に入れる様になっている場所があった。
その場所から中へ入ると少女も後から付いて来ている。少女は相変わらずで泣き止む様子はなかった。
街の中に入るとよく異世界作品で見る様な建物が並んでいた。街を歩く人々はみんなこちらを向き、何かボソボソと話しをしている。服装だけでも目立つのに今の俺は少女の遺体を抱いている。
そんな俺の姿は、どんな目で見られているのだろうか? 遠くの方から驚いた顔をしながら、こちらを見ている男性がいる。男性は何かに気付いた様で突如走り出すと、こちらに向かってくる。
「お父さん!」
泣いていた少女が男性に抱きつくと、男性も少女のことを抱きしめている。
少女がお父さんと呼んだということは少女の父親なのだろう。少女の父親ということは遺体の少女の父親にもあたる。
「ナナ。無事で良かった! レナと2人で街を出て行ったと聞いて心配していたんだ。レナを抱いている少年は異世界よりタリアを救う為に来たというお方か?」
「お父さん...お姉ちゃんが...うわぁーん!」
少女たちの父親はようやく自体を飲み込めた様だった。俺に抱かれた少女の姿は、明らかに生きていると思える人間の姿ではなかった。
「レナ...嘘だろ!? レナァー」
父親は俺の腕からレナを引き寄せると、抱きしめ涙を流している。
もうこれ以上俺に出来ることはない。2人には何も告げずにその場を離れると、街の奥へと足を進めて行った。
取り敢えず冒険者ギルドを探そう。今の俺は強くならなくてはいけない。
街の中の建物には商店などもあり、看板には文字が書かれている。明らかに見たことのない文字なのに、何故か何が書いてあるのかを読むことが出来る。異世界転移者の特典だろうか。
街の中を歩き回っていると、看板に冒険者ギルドと書かれた建物を見付けることが出来た。




