その124 今までリスクからは逃げて生きてきました
「契約に失敗したら契約者の身に危険があるとは知らなかったです...」
俺が不安な顔を見せていると、男が連れてきた武装した男が一歩前へと歩み出た。年齢は40代前半くらいだろうか? 明らかに戦い慣れたベテランの雰囲気を感じる。
「安心しろ。契約者の身に危険が及ぶことはないぞ。契約が失敗したと判断したらモンスターが暴れ出す前に、俺が一撃で仕留めてやるからな」
なる程...。この男はその為に従魔登録所に居るのか...。契約に失敗したと判断したら、モンスターが契約者を襲う前に殺す。それがこの男の役目らしい。強いモンスターが従魔になることなど、殆どないらしいので、ある程度の実力がある者なら簡単にこなせるだろう。
それもそうだ。従魔契約をする為にここへ来る必要があるなら、強いモンスターを生かしたまま連れてくるなど、相当な困難だろう。
「さぁ、いつでも始めてくれて良いぜ」
武装した男は剣を抜くと、いつでもリュートに切り掛かれる体制を取っている。
どうする...? もし、俺が契約に失敗すればリュートは殺される。それくらいなら初めから契約を行わない方が良いんじゃ...。俺が悩んでいると二アが俺の腕を引っ張った。
「大丈夫です。シオンお兄ちゃんなら必ず成功します」
ニアは真っ直ぐな目で俺を見つめている。
二アの言葉もあり、俺の中で決心が固まった。
リュート失敗したら本当にゴメン! その時はあの世に逝った後で、お前とお前の親に謝るからな...。
『コントラクト!』
俺はそう叫んだが、何が起こった気配はない。失敗したのだろうか? 俺が不安に思いながら待っていると、突然リュートの身体が輝きだした。
「成功です! 早く契約の首輪を!」
男に促されてリュートに首輪を付けると、輝きは収まっていった。これで俺はドラゴンテイマーになったということか...。ドラゴンスレイヤーであり、ドラゴンテイマーとか、かなり凄いんじゃないのか? 俺が無事、契約を終えてホッとしていると、二アが俺の方を見ながらニコッと微笑んだ。
「おめでとうございます。これで、このモンスターは貴方の命令ならどんな命令にでも従いますよ」
契約は直ぐに破棄する予定だが、少しだけ試してみよう。契約の力がどれ程のものなのか少し気になる気持ちもある。
「リュート。飛んで!」
リュートは俺の指示通りにその場で飛び上がった。
「リュート。二アの後に移動!」
リュートは宙に浮いたまま二アの背後へと移動した。
「リュート。その場でクルクル回って!」
リュートは二アの背後で、宙に浮いたままクルクルと回転を始めた。
凄い...。契約の力とはこれだけのものなのか...。気が付くと、俺の謎の指示に対して、2人の男達は引き気味の顔をしていた。




