その118 フェンリルがニアに仕えることになりました
「どういうことだ?」
「確か討伐の証明として、人間が持ち去るのは我等の牙の筈です。でしたら私の牙をお持ちになれば宜しいかと思われますが?」
確かに...。別にフェンリルを倒さなくても牙さえ持って行けば、討伐の証明とすることが出来る。ギルドマスターの依頼は、この橋を通る人間に被害が出ないように、フェンリルを討伐することが望みだったが、二アに仕えることになればフェンリルが人を襲うこともなくなる。少し結果は違うが、依頼は達成したと言っても良いだろう。
「お前は牙をなくしても大丈夫なのか?」
「はい。フェンリルの牙は、例え折れたとしても直ぐに生えてきますから。根元を傷付けなければ傷みも感じませんし、遠慮なくやって下さい」
どうぞと言わんばかりに、フェンリルは口を開けて牙をこちらに向けた。そう言うことなら遠慮なく頂くとするか...。俺は右手を大きく振り上げて手刀の形を作ると、フェンリルの牙に向けて振り下ろした。
「痛ってー!」
手刀がフェンリルの牙に当たるとゴツンと鈍い音が響き、俺の右手に痛みが走った。
フェンリルのステータスと同じになっているなら、牙くらいは折れるかと思ったが、敵対するモンスターでない場合、五十歩百歩は発動しないようだ。
「あの...大丈夫ですか? 流石に素手で私の牙を折るのはムチャだと思うのですが...」
フェンリルに心配されている...。五十歩百歩のことを知らなければ当然の反応だ。ここは素直にニアに任せよう。
「二ア。お願いしても良いかな?」
「分かりました。牙の先端だけを切り取るので、小さなウィンドカッターを放ちますね」
『ウィンドカッター』
二アの放ったウィンドカッターは、この前見たものよりはかなり小さく、綺麗に一番手前に生えている牙の先端のみを切り取った。
「シオンさん。どうぞ」
二アは橋の上に落ちた牙の先端を拾うと俺の前に差し出した。それを受け取った俺は、無くさないように腰の袋の中へとしまった。
「それでは二ア様。私と契約をお願いします。私に相応しい名前をお付け下さい」
名前? 契約する時に名前を付ける必要があるのか? ニアは暫く悩んでいたが、突然何かを閃いたよう表情を見せた。
「決めました! 今日から貴方の名前はシヴァです」
「シヴァ...。ありがとうございます。気に入りました。それでは契約をお願いします」
ニアはシヴァに両手を向けると何やらブツブツと呟き始めた。
「汝の名はシヴァ。われと契約を結ぶものなり」
シヴァの身体が光り輝き出し、数秒が経過すると何事もなかったかのように光りが収まっていった。見た目には特別何か変わったところは見られない。
「わが名はシヴァ。二ア様に忠誠を尽くすものなり!」




