その100 廃墟じゃないですよね?
中に入ると室内も外と同様、相当なオンボロ具合だった。
天井からは木くずの様な物がパラパラと落ちているし、歩くと床がギシギシと音を立てながらきしむ。
もはや宿屋と呼んで正しいのかも分からない。
中に入ると正面に受け付けカウンターが設置されており、カウンターの中には40代くらいのポッチャリとした女性が立っている。
女性はワンピースの様な服を着て、その上にエプロンを身に着けている。
「いらっしゃい! マチルダの宿屋へようこそ!」
女性は満面の笑みに元気の良い声で挨拶をした。その顔からは人の良さがにじみ出ている。
「1泊したいのですが、ドラゴンが居ても大丈夫ですかね...?」
「ん? ドラゴン?」
女性は俺の後にいるリュートの姿を見るとニコッと微笑んだ。
「こりゃあ、また可愛いドラゴンだねー。今日は他の客も居ないし、構わないよ」
今日はと言うか人が泊まっている日はあるのだろうか? 少なくとも特別な理由がなければ、この宿屋に泊まろうとは思わないだろう。
「では一泊お願いします。妹が一緒なので、2人部屋をお願いしても良いですか?」
「うーん」
女性は困った様な顔をしている。何か変なことを言ったつもりはないのだが、問題があるのだろうか。
「今はちょっと1人部屋しか空いてなくてね。1人部屋でも良いかい?」
女性は先程、今日の客は俺達しか居ないと言った。それなのに1人部屋しか空いてないと言うのは、元々使える部屋が1人部屋しかないんじゃないのか? 1人部屋だとベッドは1台しか置かれてないだろう。
流石にこの宿屋で床に寝るのは抵抗がある。値段は倍になってしまうが、2部屋取ってゆっくりと眠ろう。
「それでは1人部屋を2部屋お願いしても良いですか?」
「ん? なんでだい? ウチはかなり大きいベッドを使ってるから、2人でも充分に眠れるよ! 兄弟なんだし、一緒に寝ても良いだろ?」
いや、流石にそれはマズい...。兄弟なら問題ないかも知れないが、俺達は実際には他人同士だ。流石に俺が良くても二アが気まずいだろう。
「いや、妹はかなり疲れているので、広いベッドでゆったりと寝かせてあげたくて...」
俺が必死で言い訳をしていると、二アが俺の腕を引っ張った。
「私、シオンお兄ちゃんと一緒が良いです...」
「ほら! 妹さんもそう言ってるじゃないか! 決まりだね! 2名様、1泊朝食付きで金貨1枚になるよ」
結局二アと一緒の部屋になってしまった...。
オンボロ具合を考慮しなければ、2人で朝食まで付いて金貨1枚は安い気がする。
オンボロ具合を考慮しなければだが...。俺は袋から金貨を取り出して女性に渡した。
「毎度! 部屋はそこを真っ直ぐ行って、突き当たりの左側にある部屋だよ」
俺達は部屋に向かうため、女性が指差した方へと進んで行った。




