無双への道
次ぐ20日。先鋒隊である秋月種長が2000の兵を率い、立花山城へ迫っていた。物見櫓兵士の火急話では進軍を止め食事を始めたとのことだった。
(腹ごなしをして我が城を攻め入るとは・・・なんと豪胆な)
宗茂の口角は歪んだ。またとない好機。
「届くか」
「届かせましょう」
誾千代は、ことなげに言う。
「そうか、良し」
宗茂は大きく頷いた。
騎馬隊と長槍、歩兵を半々に分け、30名ほどの鉄砲隊を狭道の草むらに忍ばせる。策は電光石火で騎馬隊が油断する秋月隊を蹂躙、抜く。後、長槍隊が中距離で攻撃。混乱し、ひるんだところで歩兵隊が斬りかかる。とって返す刀で号令とともに騎馬隊が戻る。長槍、歩兵隊は散開し、再び騎馬隊が抜けると同時に退却。追っ手が来たところで、狭道に誘い込み、鉄砲の一斉斉射を御見舞する。
「成りました」
誾千代は微笑んだ。
「さもありなん」
宗茂は床几を立ち、軍に下知した。
立花軍は疾風の動きで、秋月軍を狙う。
しかしながら、秋月軍は思いのほか手強く、二人の思惑通りとはならなかった。突撃した騎馬隊は秋月隊をなかなか抜けなかった。秋月軍の中央まで来るが、徐々に押し返される。そこへ立花軍、長槍隊次に歩兵隊が斬り込んで、混戦状態になるかと思われた。
「あなた様!」
誾千代は馬上から叫び、刀で横を指し示した。
宗茂は頷き、馬腹を蹴り、
「皆の者、こっちじゃ!続け」
秋月隊の右横を突き、全速力で駆け抜ける。
そして反転、斜めに縦断するよう騎馬隊を向け、大音声で、
「突き破れ!」
「おおおっ!」
全力で秋月軍にかかる。
その最中。
「いかせぬ」
敵副将、秋月元種が誾千代の乗る白馬の横腹目掛けて、槍を突こうとする。刹那、それに気づいた宗茂は懐剣を取り出し、元種の腕を狙い投げる。唸りを上げると、敵将の右腕に突き刺さり、寸前のところで、白馬はすり抜けた。即座に宗茂は間に割って入り、馬上の元種の腹を甲冑ごと蹴った。崩れ落ちる元種。
「無事か」
「はい」
一気に立花騎馬隊は駆けあがる。
後は手はず通り、立花家の底力を存分に発揮した。秋月軍を敗走へと追いやる。
父紹運との戦いで疲弊し、さらには宗茂、誾千代の率いる立花軍の活躍により、島津軍はついに24日撤退を余儀なくされた。宗茂は追撃し、手は一切緩めない。数多の首級をあげ余勢をかり宮鳥居城を攻略そして岩屋、宝満城を奪還した。
のち、九州征伐の豊臣軍が到着、立花軍は合流する。これにより島津家の九州制覇の夢は潰えたのだった。
これは立花宗茂が西国無双と名をはせる以前のいくさ。宗茂と誾千代の夜話である。
完
宗茂公黎明の話、なんとか完結しました。いかがだったでしょうか。拙文につきあって頂き、ありがとうございました。
柳川ゆかりの武将立花宗茂公について書きたいと思い作りました。でも、柳川が舞台じゃないんですよね。短編ならこの辺りかなと思い立ちました。
これより宗茂公の波乱万丈な生涯がはじまります。重ねて感謝です。良かったら感想聞かせてください。 山本大介