表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ノンシリーズ

どんな悩みも解決します

作者: 庵字

 適当なジャンルがないので「ホラー」としましたが、内容的には、阿刀田高などが得意とする、いわゆる「奇妙な味」の短編に属すると思います。その阿刀田高や、あるいは他の作家がすでに同じような内容のものを書いているかもしれません。その際はご了承下さい。

「どんな悩みも解決してくれるところがあるそうだ」


 男は同僚から、そんな話を聞いた。場所は会社の事務室、時間は昼休み。昼食を食べ終え、数十分後に訪れる昼休み終了をまんじりともせず待っている、一日で最も気だるい時間のことだった。


「俺の知り合いに、酒癖の悪さに悩んでいた男がいたんだけど」同僚は隣のデスクから男に話しを続け、「そこに通ってから、一滴も酒を飲まなくなったんだ」

「本当に?」

「普段は真面目なんだけど、酒が入ると人格が急変するようなやつだったんだ。奥さんに手を上げたりとかな」

「悩みを解決してくれるって、心療内科みたいなところなのか?」

「いや。俺も詳しくは知らない。でも、あれは本物だよ。そいつも今まで何度か、アルコール中毒を治すため医者通いをしてたんだけど、全然効果がなかった。それが一発で完治したんだから。奥さんも喜んでるし、本人も幸せそうだぜ」

「……差し支えなければ、そこを紹介してくれないか?」


 男は同僚から連絡先の電話番号を教えてもらった。



 その日の業務が終わると、男は自宅アパートに向かった。といっても、すぐに自室に帰ったわけではなかった。彼は自分の部屋の隣のドアの前に立つと、呼び鈴を鳴らした。


「……はい」


 ややあってドアがゆっくりと開き、若干やつれた表情の女性が顔を出した。男は彼女に、同僚から聞かされた“悩み解決所”(正式名称が不明なので、とりあえずそう呼ぶことにした)のことと、その連絡先電話番号を教えた。


「……どんな悩みでも?」


 怪訝な顔で連絡先が書かれた紙に目を落として、女性は訊いた。


「はい。間違いないそうです」


 女性は、ありがとうございます、と力のない声で礼を述べると、開いたときと同じくらいにゆっくりとドアを閉じた。



 近くのスーパーで買ってきた惣菜を電子レンジで温めている途中、壁越しに大きな声――叫ぶような怒鳴り声――が響いてきた。先ほど男が訪れた隣室からだった。直後、子供の泣き声が聞こえ、さらにボリュームを上げた叫び声がかぶさる。男は嘆息して、観ていたテレビの音声を大きくした。またぞろ子供が夕食で好き嫌いをして、母親が怒鳴りつけたのだろう。毎日とは言わないが、いつものことだった。

 男の隣室に住んでいるのは、母ひとり子ひとりの家庭だった。母親はまだ若い。三十歳になってはいないだろう。子供は三歳と聞いた。

 男が母親から初めて詫びの訪問を受けたのは、今から二、三ヶ月ほど前のこと。その親子が越してきてから三日と経たない日だった。「大きな声を出して申し訳ない」もともと小さな体をさらに折り曲げて詫びの言葉を述べる母親は、本来はかなりの美人なのであろうが、その頬は痩けて顔色も青く、人生に疲れ果てたというような悲愴な様相だった。

 ある日の帰り際、男は近くの公園でたまたま母親と一緒になった。母親いわく、その日は早くに仕事が終わり、子供を保育園に迎えに行くのにはまだ時間があるからと、公園でのんびりしているところだったという。

 世間話も尽きたところで、意を決して男が事情を訊くと、母親は身の上を語り始めた。

 親の反対を押し切って結婚した夫と別れたこと。結婚した事情が事情だけに、今さら故郷には戻れないこと。子供に聞き分けがなく、愛しているのにしょちゅう怒鳴り声を上げてしまうこと。いつも寝顔を見ながら、子供につらく当たってしまったことを思い出し、後悔してひとり泣いていること。

「こんなことまで話してしまって……」母親は無理に作ったような笑みで目尻を拭うと、「もう行かないと」一礼して足早に公園を出て行った。


 男は、その母親の力になれないかと思いつつも、何も解決策を見いだせないでいた。いい心療内科などを見つけて紹介しようと考えたこともあったが、見ず知らずの隣人というだけでそこまでお節介を焼くのはやりすぎかとも思ったし、何より確実に効果が得られるという保証もない。さらには、暗に「お前らの声がうるさい」と抗議しているように受け取られることを危惧もしていた。男は隣の親子――正確には、本来は相当な美人である母親――のことを決して疎ましく思っているわけではなかった。そのアパートは築年数の経った四部屋しかない小さなもので、現在の入居者は男と親子の二組だけ。自分の他に親子による被害を被るものがいないことは、男にとって救いだった。

 そんな折、同僚から、どんな悩みもたちどころに解決するという、テレビの法律相談番組の惹句のようなところの話を聞いた。これは一種の天啓のようなものではないかと感じ、男は母親にそこを紹介してみる気になったのだ。


 ひとりきりでスーパーの惣菜で済ませた侘びしい夕食を終え、男はごろりと横になった。自分のところと違い、お隣の食事は全て母親がきちんと料理をしているようだ。スーパーで見かけたときなど、母親の買い物かごにはインスタント食品はおろか、出来合いの惣菜ひとつも入ってるのを見たことがない。実際、夕食どきや休日の昼間など、隣室の窓から美味しそうな料理の香りがただよってくることが何度もある。もし、例の“解決所”が良いアドバイスをくれて母親の悩みが解消し、親子が円満な関係を取り戻せたら、母親は自分に深く感謝してくれるに違いない。男はその様子を妄想しながら、にやにやと笑みを浮かべた。そこに携帯電話の呼び出し音が鳴った。男の古い友人からだった。



 友人に誘われ、男は彼のアパートに赴いた。自分の住んでいるところもたいがいではあるが、ここはそれに輪をかけてひどい、と友人のアパートを訪れるたび男はいつも思う。全部で六部屋あるうち四部屋が埋まっており、入居率だけで言えば自分のアパートよりも優秀なことが不思議でならない物件だった。


「どうした。小説が上手くいってないのか」


 飲み口の一部が欠けたカップに注がれたコーヒーが運ばれてくると、男は訊いた。座卓を挟んで対面に座した友人は、頷きもせずに、


「そうでなければ、君をわざわざ呼び出したりしない」


 むすりと口を一文字に結んだ。彫りが深く面長で肩まで伸ばした蓬髪、痩せこけた体躯、部屋着であるすり切れた着流し。形だけなら、この友人を立派な文士だと紹介しても誰も疑いはしないだろう。だが友人は、その文士になろうとしてなれない男だった。


「次の新人賞の締め切りまでもうひと月ない。なのに半分も進んでいない」


 友人は、書き物机の上にある旧式のノートパソコンを疎ましそうに見やった。男は、そうか、と声をかけてやることしかできなかった。まさか、「それだけ挑戦して駄目なら、才能がないということなんだから諦めろ」などと言えるはずがない。友人が文士を志し、賞コンテストに応募するようになってから数年が経過していた。友人は執筆が滞ってスランプに陥ると、男を呼び出して話し相手になってもらい、気分転換をするということがよくあった。


「最近、駄目なんだよ」友人はコーヒーの真っ黒い水面を見つめながら、「息抜きに読むはずの小説も全然楽しめない」

「どうして」


 作家を志すほとんどの人間がそうであるように、友人も無類の読書家だった。本の虫である友人は、乾いたため息をひとつ吐くと、


「読んだ本が面白かったら、自分の作品との埋めようのない差に打ちのめされる。つまらなかったらつまらなかったで、こんなのが商業出版されてるのに俺の作品はどうして……ってなって虚脱感に襲われて……。大好きだったはずの読書自体が苦痛になってきた」


 苦悩を貼り付けた友人の表情から目を逸らすように、男は部屋を見回した。窓と押し入れ以外の壁は全て本棚で埋め尽くされ、押し込めきらない本が畳に積まれていくつもの塔を作っている。家賃や光熱費を払って残った収入を、友人はほとんど本代につぎ込んでいた。食事も体を維持するだけの最低限のものしか口にしていないのではないだろうか。

 末期だな、と男は友人に気取られないように嘆息した。彼も若くない。そろそろ現実を直視させて、アルバイトをしながらの投稿生活に見切りをつけさせるのも友人としての役目なのかなと思った。が、この友人から小説を取り上げたら、恐らく何も残らない。自分の存在意義を見失ってしまうであろうことも男は理解していた。


「そういえばな……」


 男は友人にも、昼間に同僚から聞いた“解決所”のことを話し、連絡先を教える気になった。何かの助けになればと思ってのことだった。隣に住む母親同様、訝しげに電話番号を眺めていた友人だったが、「何か刺激を受けていいアイデアが浮かぶかもしれない」と、連絡先を写したメモを受け取った。



 翌日、業務の都合上、いつもよりも早めに部屋を出た男は、玄関先で隣の親子に鉢合わせた。母親はメイクのおかげもあるのか、昨日のやつれた面影はほとんどなく、“美人”と称して何ら問題のない笑顔で、「おはようございます」と会釈をくれた。男もひと拍子遅れて挨拶を返す。母親に促されて子供も、舌足らずの可愛らしい声で挨拶するとともに、頭をちょこんと下げる。男は思わず表情をほころばせた。


「さっそく、昨日のところに連絡を入れてみたのですが」と母親が話しかけてきて、「私の仕事の都合と合わせて、あさっての午後二時に予約を入れました」

「そうですか」


 余計なお節介だと思われてはいないようで、とりあえず男は安堵した。今日は木曜なので、あさってといえば土曜日か。悩みが無事解決するといいな、と思いながら男は、仲良く手を繋いで保育園に向かう親子の背中を見送った。互いに寄り添うように歩くその後ろ姿からは、手がかかり苛立つこともあるが、子供に対して真剣に愛情を注いでいるという母親の気持ちが伝わってくるようだった。



 それから二日が経過した土曜日。休日の恒例として普段よりもずっと遅い時間に起床した男は、昼食を買い求めるためにいつものスーパーに足を運んだ。そこで男は、あの友人を見かけた。男は驚いた。というのも、友人が髪を切り清潔感のある短髪にしており、いつものよれよれのシャツとジーンズではなく、小ざっぱりとした新しい洋服を着込んでいたからだ。そのため男は、それが友人であるとはすぐには気づけなかったほどだ。声をかけた男に友人は、おう、と返した。


「たまにはいいもの食わないとな」


 言いながら友人は国産肉のパックを提げていた買い物かごに放り込んだ。男の知る限り、彼が食べる肉といえば安い外国産のものばかりだったはずだ。


「そうだ」と友人は顔を上げて、「これからうちに来ないか? 一緒に昼飯を食おう」


 そう言って笑みを浮かべた。こんなにもさわやかな彼の笑顔を、男は今まで見たことがなかった。



 アパートの彼の部屋に足を踏み入れて、男は唖然とした。いつもよりも部屋が広く感じた――いや、実際に広くなっていたのだ。その理由は、


「お前……本はどうした?」


 買い物袋を提げたまま、狭いキッチンに向かった友人の背中に男は問いかけた。そう、部屋の四方の壁を埋め尽くしていた本棚が消えている。当然、そこに詰め込まれていた何十――いや、何百冊という蔵書ごと。本棚に入りきらずに床に乱立していた本の塔も、すべてが跡形もなく消えていた。


「売った」キッチンから答えが返ってきた。「本棚もリサイクルショップに持っていってもらった」


 その声には、何の未練も熱も籠もってはいなかった。咄嗟に返す言葉を見つけられずにいた男は、部屋の中で唯一以前から変わっていない、書き物机に置かれたノートパソコンを見つけると、


「ところで、お前……小説はどうなった?」


 彼は納得のいく会心の作品を書き上げたということなのだろうか? しかし、だからといって蔵書まで処分してしまう必要は……。男は改めて部屋――以前から少しだけ広くなったその部屋――を見回した。


「ああ」と再びキッチンから声。「やめたよ」

「……なに?」


 男は彼の返答の意味をすぐには理解できないでいた。熱されたプライパンの上で油が弾ける音が二人の間の沈黙を埋める。


「やめたって……」男は、フライパンの上に真っ赤な国産肉を広げる友人の背中へ、「書くのをやめたってことか?」

「そうだよ」


 何か問題ある? とでもいうような綿毛のように軽いニュアンスで返され、男は一瞬目まいに襲われて壁に片手を突いた。やめた? 小説をとったら、もう何も残らない。そんな人間が、小説を書くのをやめた? ……いや、やめたのはいい。いいとしよう。が、しかし、あれだけあった蔵書まで処分してしまったというのは、いったいどういう了見なのか? そのことを問われると友人は、そんなこと別にどうでもいいじゃないか、と、そっけない返答を寄越した。


「なあ」壁から手を離して、男は、「お前、あそこに行ったのか?」


 自分が紹介した“解決所”のことだ。


「ああ、行った。昨日の午前中に」


 肉の焼ける音に混じって友人の答えが返ってきた。


「どうだった?」

「どうって……良かったよ」

「悩みは解決したのか?」

「それはもう。凄くすっきりした気分になったよ。多分、こんな気持ちになったのは生まれて初めてだと思う」


 そう言って振り向いた友人の表情は、確かに清々しかった。まるで憑き物が落ちたかのように。形だけの“文士”というイメージは完全に消えていた。顔色もよくなり、まるで、何ひとつの苦悩も抱えず青春を謳歌している世間知らずの若者のようだった。

 男はまた部屋に目をやった。畳は本棚が置かれていた境界線で色が異なっており、棚の脚の形にへこみも穿たれている。友人が今までの人生で背負ってきた重みが取り払われたかのようだ。やがて、このへこみは消え、陽光を浴びることで畳の色も他と同化して行くのだろうか。

 男は、本棚のひとつが置かれていた壁の上方、天井から数十センチ下に水平に這った長押(なげし)に、ひと揃えのスーツが掛けられているのを見た。明らかに新調された最新式の型だった。男の視線がそれに注がれているのを見つけたのか、友人は、


「今度、面接を受けることにしたんだ」

「面接?」

「ああ、正社員の。いい歳して、いつまでもアルバイト生活じゃ心許ないからな。世間体も悪いし」


 再び目まいに襲われた男は、友人に何も告げないまま靴を履いて玄関を出た。携帯電話を取りだして、メモ紙を見ながらダイヤルする。“解決所”の番号だった。数回のコール音の後、応答があった。


『はい』


 男性だった。若いとも中年とも取れる、回線越しに冷たさまで伝わってくるかのような、知的だが冷静な声だった。


「あっ……あの……」


 男は訊いた。そこでは、どのようなことをして“悩み”を解決しているのかを。意外なほどあっさりと、電話の向こうの人物は答えを返してくれた。


『簡単なことです。クライアントの“執着”を取り除いてあげているだけです』


“クライアント”というのは、訪れた客のことだろう。


「執着を取り除く?」

『そうです』じっくりと話すつもりなのか、スピーカーの向こうで椅子に座り直すような音がして、『およそ人の抱えている悩みというのは、"執着"に起因していると考えて間違いありません』

「……どういうことでしょうか?」

『あなたは、どうして人に"悩み"が発生するのかを考えたことはありますか』

「……」


 男が返答に窮している間に、スピーカーからは、


『理想と現実のギャップ、ですよ』

「ギャップ……?」

『はい。“こうありたい”あるいは、“こうなってほしい”という理想と実際の現実、そこに生じるギャップが、そのまま“悩み”として具現化するわけです。そのギャップが深いほど悩みも大きく、つらくなる』

「そちらでは、その“ギャップ”を埋めると?」

『正確には違いますね。埋めるのではなく、“取り除いている”のです』

「取り除く?」

『そうです。ギャップを消す、と言ってもいい。例えばですね、この前、お酒のことで相談に来られたクライアントの方がいました』


 同僚の知り合いのことだろう。


『お酒が入ると悪酔いして、しょっちゅうトラブルを起こしていたそうです。その方の場合、お酒を飲んでも普段と変わらずにいたい、という理想を抱いていますが、現実には、すぐに酔ってしまい問題を起こしてしまうわけですね』

「それが、ギャップ」

『そういうことです。この場合、どうなるのが一番理想でしょうか』

「それは……」


 男の答えを待たずに、スピーカーから、


『お酒を飲まないようになるのが一番ですよね』

「それは……そうですね。しかし、そう簡単に禁酒できれば苦労はありません」

『ええ、普通ならね』冷たい声に若干の自信のような温度が加わった。『確かに、お酒が好きな人に対して、禁酒しろ、というのは大変難しいことです。本人にとって酷なことでもあります。何せ、大好きなお酒を断つということは、その人の楽しみを奪うということにもなりますからね』

「それは、そうですが……」

『だから、本人が自発的にお酒を飲まないようにすればいいわけです。しかも、苦痛のない方法でね』

「どうやって?」

『興味をなくさせてしまえばいいのです』

「……えっ?」


 予想外の答えに男は絶句した。


『本人が、お酒に対して全く興味がなくなれば、お酒をそもそも飲みたいと思わなくなるわけですよね。したがって、酔った状態の理想と現実のギャップも生まれようがなくなる。つまりは、ギャップそのものが消え去るわけです。イコール、悩みも消える』

「興味を……なくさせる?」

『はい。私は、人の脳にある刺激を与えることで、その人の嗜好を変化させる特殊な装置の開発に成功したのです。それを使って、“悩み”を生じさせている“嗜好”に対する興味を消去することで治療――私は医者ではありませんが、便宜上そう表現させて下さい――を行っているのです』

「……そんなことが」

『あまり(おおやけ)に出来ない研究なので、大っぴらに宣伝などしていませんが、信用の置ける人たちだけに口伝で広めてもらっています。こちらとしても、臨床実験――いや、失礼――データの収集、という言い方も変ですかね、まあ、今後の研究にも役立ちますので』

「……」


 男は考えた。確かに、興味のない事に対して“悩み”など発生のしようがない。例えば、男は友人――かつての――のように「優れた小説を書き、プロとしてデビューしたいが上手くいかない」などという“悩み”は持ち合わせていない。それは、とりもなおさず、男が“小説”に対して一切の興味がないからだ。“小説を書く”などということ自体考えてみたこともない。代わりにといっては何だが、男は務めている会社で「出世したいが思うように業務上の成果を上げられない」という“悩み”を持っている。しかし、これは逆に友人には抱えようのない“悩み”だろう。彼は「企業に属して出世する」などという世俗的なことに一切興味を示さない(たち)だった。もっとも、今後どうなるかは分からないが……。


「“悩み”の対象に対して一切の興味を持たなくなる……」

『そういうことです――おっと、予約のクライアントがいらしたようだ。では、失礼』


 通話は一方的に切られた。携帯電話を耳に当てたまま、男は思わず腕時計に目を落とした。

 午後二時になるところだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 純文学とも捉えられる作品に感じました。それでいて『世にも奇妙な――』を彷彿させるような現実離れした怖さもあり。何となく時代設定が現代じゃないような、静かで古風な雰囲気も好きです。 どんな…
2020/04/20 23:11 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ