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肉と言えば

 明るい。出口が見えてきた。

 当然と言えば当然のことながらあれから特に変わったことも起きなく、幸運にも同業者とも鉢合わせすることもなくここまで来れた。


 その間の遭遇はグリーンゴブリン3匹、コボルト(犬)1匹、レッサーウルフ2匹。どれも単独だったので危なげなく討伐し、マナ結晶だけ穿り出してリングに吸収。既にレッサーウルフ3匹を解体してリュックに詰めていたので、取るものなんてないものな。




「おい坊主、今日は随分はえーじゃねーか、何かあったのか?」

 ダンジョンから出た途端、ゲートの浄化装置でグローブがまだしゅわしゅわ言ってる内に、重装備な守衛の一人から声がかかり、周囲にたむろっている輩から視線が集まるのを感じた。


 視線を気にするそぶりを見せないように、

「いや、今日は楽しみなカレーの日なんで、早めに帰ってじっくりコトコト煮込むのさ。」

 と、軽く手首を振りながら返す。


 守衛はまだ訝し気な顔をしていたが、

「カレーの日なんてふざけたことを前にも言っていたのがいたが坊主だったか。これからはカレー坊主と呼んでやろうか?」

 と言われ、周りからも軽い笑いが漏れた。


 流石にカレー坊主と言うあだ名は嫌なので、思わず苦笑して首を横に振りながら、

「カレー臭に反応して、舌を垂らしたコボルト共が列をなして襲ってきそうなあだ名は勘弁してくれ。カッコいい二つ名が功績で持って付けられるまで、名前に何か付けるのは遠慮したいものだ。」


「分かった。分かった。そんじゃさっさと退場税を払いな、カレー坊主。」

 と、オーブを顎で示される。


 うーむ、これはしばらくカレー坊主呼びが定着しそうだ困ったな。他の人間にまでこのあだ名が広がらないことを祈りながらオーブに近づき、左腕のリングを近づけ税金を払い終える。

 集まっていた視線も既に3割ほどにまで減少しており、この茶番で安全が買えたのなら悪くないと折り合いをつけた。

 そして周囲にたくさんある精肉所の中からいつも取引してる近くの低級向けの店を選んで歩き出す。




「おっちゃん、レッサーウルフ3匹と交換できるだけのボア肉よろしく。」

 倉庫の中に大声をかけるとスキンヘッドにねじり鉢巻きを巻いた強面のおっさんが外の取引台に出て来る。


 リュックから取り出し、台にレッサーウルフを並べていくと

「お前さんは他の連中よりましな方だが、」

 内臓の取り方がどうだの、刃の立て方がどうだの、戦闘時にもっと少ない力で急所を狙えだの、おっちゃんからダメ出しの時間が始まった。

 元探索者で現解体職人だけあって流石に詳しく細かい。少しずつ改善しているはずだがダメ出しの量は減った気がしない。

 おっちゃんのおかげで解体のいろはは覚えたし、他の探索者より解体の腕は恐らく上だから買い取り価格は上がってるはずだが、この時間は苦手なままである。


「で、ボア肉がいるらしいが何に使うんだ?」

 ダメ出しがやっと終わたので素直にカレー用と答える。


「おいおい、カレーで肉と言えば豚ではなく牛だろ。ヌーヌー肉が大量に入ったんだ、安くしてやるからマナを出せ。」

 と、こいつ分かってないなといった表情で言いきられる。


「いや、精肉屋の店主がそんなこと言っていいのかよ。カレーは豚でも牛でも鳥でも魚介でも、はたまた肉抜きでもうまいだろ。カレーと言えば牛なんて風潮ねーよ。そして牛を買う金の余裕もねーよ。金をむしり取りたいだけじゃねーか。」

 先ほどのダメ出しで疲れていたはずなのに、あまりにもあまりにな言い草に結構な勢いで言い返す。


 おっちゃんは分かってないなとの表情で首を振りながら

「おいおい、高い肉を買わせたいなら牛ではなく鳥を売ってるぞ。アングリーチキンや飛び駝鳥の肉だってあるんだからな。精肉屋の言う肉がカレーのベストに決まってるだろ。」


「ベストだとしてもそんな金の余裕はねーよ。カツカツだ。」

 手を力強く振って否定する。


「ふむ、ここで真面目な話をするとだな。お前さんがソロを続けるのはそろそろ限界ではないのか?今の実入りだと装備のメンテナンス代や日々の生活費を抜けば雀の涙ほどしか残らんだろ。ソロだと怪我しやすいからむしろ治療費でマイナスとも言える。あればあるだけ使ってしまう馬鹿とは違ってお前さんはしっかり残してるよな。」

 おっちゃんに痛い点を指摘され口ごもる。


「宝箱で一発逆転もなくはないが、ほとんどの宝では摩耗した装備の交換、治療費のマイナスの補填で消えてしまうのがほとんどだろ。前回ポーションを当てた時もそうだったんじゃないか?」

 おっちゃんが折角いい話をしてくれているが、実は今日その一発を当てているので何とも言えない気持ちになったが、流石に表情には出せないので神妙な表情で聞き続ける。


「グループやクランに入ると上納とか下働きとか色々大変だが、それでも先に進めるのは大きいぞ。皆がどこかに所属するのは上がおいしい蜜を吸うために集めるだけではなく、下にもメリットがあるから自分から所属してるんだからな。」


 探索者を始めた頃には、理由があってどこにも所属できなかったんだよな。コンタクトは今まで何もないし、杞憂だったかと、3年間の探索者生活を少し思い返しつつおっちゃんに反論する。

「いやでもおっちゃん、3年もソロ探索者をしていた人間が入ると他の新人や古参との扱いの差に困るし、不和の種になるから結構酷い扱いにして融和の生贄されそうな気がするんだが。」


 おっちゃんはそんなこと分かってる分かってると頷く。

「そこで大発生だ。最近は起こってないから人余りになっているが、一旦起きれば壊滅や半壊するグループがかなりの数に上る。大量補充や合併、解散、新規立ち上げが進み売り手市場になるから、条件のいい所がより取り見取りよ。うちみたいに雰囲気のいい所を選べれば、こんな風に大多数が市民で上がったり上位探索者になって卒業できるのさ。周期的にはそろそろ起きるはずだしな。」


 笑顔で言い切ったおっちゃんを、なるほどなやっぱおっちゃんは凄いなと眺めていると、

「よっし、素晴らしい金言を授けたということで代金代わりにヌーヌー肉を買って行け。」

 と言われ思わず吹き出してしまう。

 やっぱりおっちゃんはおっちゃんだった。


「いや、まだソロなんで無理です。」

 とにべもなく断ると。


「少し明るい未来が思い描けるようになったからと、浮足立って散財し始めないか確認しただけだ。ちゃんと地に足着いているな。しかし言質は取ったぞ。ソロでなくなった時にはちゃんと牛でカレーを作るようになってもらおう。」


 そう言ってレッサーウルフを抱えて奥に入っていき。葉に包まれた肉を持って来た。

 「ボアだ。骨が付いてる分サービスとして、ヌーヌー肉を一欠片入れておいた。さて次会った時にはカレーは牛と言いだすのを楽しみにしてるぞ。」

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