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財布の紐

「ヒャッハー、肉だ、肉を持って来たぞ。早く来い。」

 徹夜明けにもかかわらず全く元気の衰えないあるじが精肉屋でも騒ぎ立てる。


「うるせー。怒鳴るな。」

 奥からスキンヘッドの大男が現れた。

「お前さん今日は随分はえーお帰りじゃないか。髪を真っ赤に染めたりしてどうしたんだ?あとその嬢ちゃんは?」


 あるじに紹介は任せておれぬ。

「初めまして、我はあるじの使い魔のカトリーヌと言う。よろしく頼む。

 あるじは今魔法で少しおかしくなっておるので、変な発言をすると思うが気にしないでくれると助かる。髪が赤いのもそのせいでな。

 いや、おかしいのは少しどころではないの。日付が変わっても探索し続けるので、何とか引きずってやっと帰ってきたところよ。」

「ヒャッハー、カトリーヌ肉を出せ。」

 あきれ顔の店主に確認を取り、台の上に鳥の肉と解体してない亀を並べた。


「ほう、ガーネッティアンタートルと円界鳥か。今までと比べると随分深くまで探索できるようになったな。礼儀正しいし、お前さんいい使い魔を仲間にしたな。」

 流石精肉屋の店主。一瞥しただけで種類を見破った。


「ところで円界鳥のもも肉はないのか?こいつが円界鳥の肉の中では一番いい値段するが。」

「ヒャッハー、なかなかうまかったぞ。」

「食べたのなら仕方ないな。肉を扱う人間としてそれを非難はできん。ただ、うちとしては嬉しいが、それぐらの深さまで潜れるのなら肉よりも羽や甲羅だけ持ち帰った方が高く売れるぞ。自動追尾式の荷車や浮遊箱を持ち込んで積載量を増やすか、ポーターを雇って運ばせるかしないとなかなか肉までは持ち帰らない探索者がほとんどだな。」


「店主、アドバイス感謝する。予定していたエリアより深いところまで潜る羽目となり、モンスターの名前すら分からずただ一番深い所で会ったモンスターの素材を持ち帰っただけなのだ。浅層のモンスター図鑑のアクセスキーを買ってしっかりと調べねばならぬな。」


「いい心がけだ。図鑑で調べる以外にも、相場チェッカーアプリや依頼板を確認するのもいいぞ。必ずその値段で売れるとは限らないが、何に需要があるか、何が高く売れるか参考になる。」


 なるほど参考になる。今のあるじではモンスターをいくら倒したとしても多少技術が上がるだけで強さにはほとんど結びつかないからな。如何にしてマナを貯めて強化を図るかが大事だ。

 我はまだこちらの世界のことについて知ってることが少ない故、あるじがまともな状態の時にしっかりと将来について話し合わねばならぬ。


「それでこいつは解体するとして、肉以外はどうする?うちで全部引き取るか?」

 亀を包丁で指しながら聞かれた。あるじの方を見るが興味なさそうなので我がすべて決めてしまう。


「我ではどこに売ればいいかいくらで売ればいいかよく分からぬし、早く家に帰って寝たい。信頼できそうな店主に全部任せるぞ。」

「よっしゃー、任された。」


 あるじの解体も速かったが、流石本職あっという間に切り分けられていった。


「そんじゃこんなもんだな。」

 8万マナほどの金額を示された。探索で得たマナと合わせると63万マナだ。入ダン税を払った時点では1万マナを切っていたのだから、凄まじい躍進だ。

 買わなければならいものが多すぎるので、これが一瞬で溶けるとは分かっていても嬉しい。


「我のリングに入れておいてくれ。」

「おいおいおい、俺様の金だぞ。」

 こちらの話に興味を持たずあちらこちらを眺めていたのですんなりいけると思っていたが、やはり口を出してきたか。

「このような些事は我に任せておけ。お主は我のあるじなのであろうドンと構えておけ。」

 これだけでは納得せぬか。

「そもそもマナ結晶の回収作業は我がするのであろう?一々マナをそちらにリングに移すのか?」

 黙った。あと一押しだ。

「我のリングの方が拡張性が高い故、こちらに機能を追加する機会の方が多いであろう。我のリングで管理した方が便利ではなかろうか?」

 ふー、なんとか財布の紐を握ることに成功した。そうしないとあるじの無駄遣いでからっけつになりそうだ。


「そっちの話は済んだか?肉を買うなら少し安くしておくぜ、と言いたいところだが一昨日それなりの量売ったからいらないよな?」


「恥ずかしながらもう残っておらぬのだ。よければ適当に見繕ってくれ。

 我があるじの使い魔になるべきか悩んでいた時に後押ししたのが、店主の見繕った肉で作ったあるじのカレーだったのだので信頼しておる。」

 あのカレーは流石に食べ過ぎたかと少し恥じたが、よくよく考えると大半を食べたのはあるじであった。恥じる必要はない。


「ほう、それはいい仕事だったな。一昨日約束した通り今日はヌーヌー肉を買って行け。」

 約束があったのか、それではヌーヌーを買わねばならぬが、ヌーヌーが何か分らぬので尋ねた。

「そうかこちらに来たばかりだとヌーヌーは知らないか。牛の一種で、お前さん達の潜ったところよりもう少し深い所に生息していて、集団でいることの多いモンスターだな。焼肉はダンジョンですることも多いだろうし、牛丼にでもするといい。それじゃバラ肉を包んでおくぞ。4600マナのところを嬉しい話を聞いたからサービスで4000だ。」

 聞いたと思ったら既に肉を持たされていた。

「あるじ、牛丼は作れるか?」

「ヒャッハー、俺様に作れないわけないだろ?」

 大丈夫みたいだ。料理だけはこのあるじでも信じられる。




 店を後にし、たまねぎを買い、醤油とんこつラーメンの大盛りを食べ、ついにベッドにたどり着いた。

 懲りないあるじがまた抱き着ついてこようとしてきたが、カウンターで顎に軽くひざを叩き込みノックダウン。

 それではおやすみなさい。

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