1話 それぞれの場所 side:愁
「」がキャラクターのセリフです。
()が心の声です。
かっこが無い箇所は基本天の声です。
【side 河上 愁】
目の前で彼女の奈那がいなくなってから、既に2日経った。
その間、愁は色々と情報を得ようと
ネットで検索行ったり滅多に行かない市内の図書館に赴き書物を探していた。
あの無数の手の存在について。
ただ、何処にもあの【異形なモノ】の詳細は記されていなかった。
(あんなことが現実で起きるのは、普通に考えておかしい 何が起きてるんだ?
ただ、ゲームだと恐らくワープや転移といった移動手段の筈だよな。
何処か別の場所や別の世界に移動してても、有り得なくない。
ただ、一番怖いのは【飛ばされたその先】で何が起きてるかだ。
何を目的に何をする上で、鏡の世界に飛ばされたか...)
愁はここ数日何も喉に通していない。
腹が空きすぎているのか、思考回路がまとまらない。
このままだと何も手がつかないと感じたのか
愁は財布からなけなしの金を握り図書室の帰りにあるコンビニに寄りおにぎり等を買った。
(どうすれば良い...何をすれば奈那の元に...)
愁は一人で空しく自分の家までコンビニ袋を片手に歩いて帰った。
そんな最中ふと愁はまだ仕事をしていた時のことを思い出した。
愁は奈那が仕事を終えたら、真っ直ぐ迎えに行き今歩いている道を進み一緒に帰った。
そして消防署の前を過ぎる手前のコンビニで、二人でコンビニでご飯や飲み物を買った。
その時の思い出が一気に込み上げてきたのだ。
「そいえば二人で肉まんを一個ずつ買って、二人とも猫舌なのに熱々なまま食って
ヒィーヒィー!って言いながら、笑って食ってたっけ
家に帰れば二人でお酒を夜遅くまで飲んで
一緒のテレビを見て、一緒にトランプして、負けたら罰ゲームで飲んで
一緒の布団に入って、一緒に寝てたっけ。アハ...ハハハ...ハハ」
愁はこの間までの記憶を鮮明に思い出し、ぶつぶつ独り言を呟き
乾いた声で笑っていた。
そんな儚い思い出を思い出してると知らぬ間に赤信号を渡ってしまっていた。
ブーーーー
もの凄い音でクラクションを鳴らすトラックが目の前をギリギリのところで過った。
「危ねぇだろ!」
愁は目の前が涙ぐみ周りが見づらくなっていた
危うく奈那の行った世界とは別の世界に行くところだった。
愁は目を右腕の裾で拭い、家まで帰った。
「ただいま...」
愁の声だけが響く部屋
いつも明るい声で迎える奈那の姿はもうそこにはない。
買ってきたコンビニの袋をソファに投げ
愁はまた泣きそうになった涙をこらえ、服のままベッドの上に倒れた。
「...やべ。シャワー入るの忘れてた。また奈那に怒られるな。」
愁は奈那に言われた事を思い出し、身体をベッドから起こし脱衣所に向かった。
そして、服を脱ぎ洗濯機に放り込み浴室を開け中に入りお湯を出した。
シャンプーを手に取り、プッシュするといつもの奈那の匂い
湯で洗い流し、リンスをプッシュするといつもの奈那の匂い
湯で洗い流し、ボディソープをプッシュするといつもの...
「奈那の匂いだ。」
愁は寂しさと自分の情けなさで我慢が出来ず、嗚咽が出る程の涙が滴った。
いなくなってわかる存在 気づくのが遅すぎたのだった。
そしてその涙は誰かに見られる訳もなく、儚くシャワーの湯と一緒に流れた。
その後愁は今にも倒れそうになりながらシャワーから上がり、
下着を履き髪を乾かしベッドに入った。
先程充電していたスマホの画面をつけ、自身の顔の上で操作をしていた。
いつもは動画を見たり、ゲームをしたりとしていたが今はいつもの煩悩に溺れることはない。
そう。少しでも情報が欲しいという欲だけが愁を突き動かしていたのだ。
その欲求を満たす為、愁はスマホでニュースを細かく見ていた。
ただ愁は少し時間が過ぎた後そのままベッドの布団の中で
静かに埋もれるように寝てしまった。
愁が最後に時計を見たときは既に02:17
愁はここ数日ろくに寝ることができていなかった。
ただ今日は何故か途中で起きる事無く、静かにぐっすりと長く眠った。
部屋が青白く光ったのを知らずに。
朝になったのか、淡い光の元少々目の前が眩しくなり、身体を起こした。
するとそこには見た事のない光景が広がっていた。
愁は寝ぼけていると思い、また寝ようと横になった。
が寝ていた箇所は冷たくひんやりしており、
コンクリートより硬くゴツゴツしているのに気が付いた。
おかしいと思い自分の身体を見ると裸ということに気づく。
「あれ...なんで俺裸...?
てか俺自分のベッドで...寝ていた筈だけど...。」
愁は夢だと錯覚し仰向けになりながら右頬を抓った。
だがその痛みは三日前に奈那に傷つけられた頬の痛みそのままだった。
夢ではないと思い、まずは状況を把握する上で身体を起こしその場で立った。
周りを見渡すと遺跡のような石碑に烙印が刻まれているのが何個もある。
「これどこの国の文字だ?
異様な文字が石碑に刻まれているけど、如何せん俺は馬鹿だからなぁ。わからん。
勉強はしてないし、っつかしてたところでこんな文字は、絶対義務教育で習わないだろ。」
愁はそのまま石碑を指でなぞりブツブツとまた独り言を語っていた。
そして愁は違和感を感じながら、頭の中で整理をした。
窓が無い遺跡のような空間
「もしかして俺...入れ替わ...ちゃう!
拉致られた?」
自分が何者かに拉致されたと思い恐怖を覚え始めた頃
日差しの影になっている奥から、人の歩く音がした。
コツ...コツ...と少しずつ近づいてきている。
そして恐る恐る音のする方へ目を配るとそこには
黒いローブを着用し、そのローブに付いているフードを被る人物がいた。
薄暗い中少々日差しの漏れている箇所に照らされたその時「彼女」と目が合った。
到底日本人とは思えない綺麗な青色の瞳。
そして胸の膨らみを見る限り女性だと愁は確信した。
「お...まえは...だ..れだ?」
(俺は今からどういう目に遭うんだ?ここは一体何処なんだ?
俺...この人に何かしたか?)
恐怖と驚愕と戸惑いで声が思うように出ていない。
誰だが分からない。顔もわからない。
愁は過去のトラウマでまた恐怖を覚え、ガタガタと身体を震えさせた。
その時目の前にいる女性が聞いたことのない言語で言葉を発した。
「જાગવું મારો નોકર」
(目覚めよ。我が僕)
気の強い華やかな声で聞きなれない言語を発している。
「કૃપા કરીને તે જલ્દી મારા માટે પાવર બતાવો」
(我にその力をすぐ見せてみろ)
聞き取ろうにもまったくわからない。
その時、疲れとストレスからか激しい眩暈に襲われ
愁はそのまま、後ろに倒れまた眠りについた。
「શું ખોટું છે? શું થયું?」
(チッ 何故だ。何があった?)
舌打ちと共に、黒いローブの女性はそのまま愁を置いてその場を後にした。
ただフードの裾からかすかに見えたその顔は哀愁を漂っていた。
そして何時間経ったのかわからないが愁は目を覚ました。
少し暖かいと思い自分の身体に目を向けた。
すると毛布のような薄い灰色の布生地が全身に覆い被さっていた。
そして愁は石碑がある部屋の中心で横たわっていた。
「ん...?いっつ...」
眩暈がで倒れた際に、衝撃で頭を軽く打っていたのだ。
愁は後頭部を右手で覆うように抱えながら重たい身体を起こした。
そして被さっていた布を身体に巻き歩き始めた。
「そもそもここは何処だよ。あの女の人は...誰だよ。
つかさみぃし。道民でもこりゃキツイぞ。」
そして窓が射す光を頼りに周りを散策していると
ゴツゴツしたストーンヘッジのような石碑を何個も見つけた。
石碑の後ろに大柄の成人男性二人分が通れる程の大きな石の扉があった。
その上人の気配がまったくない。
(外を出るにはここを通るしかないな。
周りを散策したが、他に通れそうな道や扉も無いし...)
ギィィーーギギ...
愁は周囲を警戒しつつ重たい扉を両手で開け、扉の開いた方へ足を進める。
そして目の前には、綺麗な石階段で出来た、上の階層へ繋がる螺旋状の階段があった。
周りは薄暗いが、無数の松明が上に繋がっているため歩くことには問題が無い様だ。
愁は周りを見渡し再度警戒しつつ上へと登っていった。
何故足を進めたのかはわからない。
好奇心なのか、ただ何故か今は警戒だけで留まりその足で上の階層へ向かうことを選んだ。
情報を少しでも手に入れる為に、愁は色々試した。
壁をなぞると湿っているのが伝わってくる。
(上と下で温度の差でもあるのか?
ということは、かなり地上から離れているのか...?)
次に、ジャンプをしてみたが元々自分のいた場所と同じ重力なのがわかる。
他にも色々試し、約15分程登ると大きな扉があった。
たださっきの扉と明らかに違う。
右には左翼が折れた悪魔がステンドグラスに描かれている。
左には右翼が折れた天使がステンドグラスに描かれている。
恐る恐る愁はその扉をあけようと手で触れた瞬間
扉はひとりでに開き愁は部屋の中に引き寄せられ、扉がしまった。
眩しい。 ものすごく眩しい。
それは愁が最初にいた場所とはかなり異なる強い光を感じた。
まさしく太陽の光だ。
その眩しさから愁は目の前を左腕で覆い前に進もうとした瞬間
「તમે ઉઠ્યા છો? કીમોનો ઢીંગલી」
(起きたのか?木偶人形よ。)
また聞きなれない言語で話しをしている女性と会った。
声は前方から聞こえ、眩い光の中声のする方へ目を細く見ると
先ほど出会ったと思われる女性が大きな窓の近くにある2つある内手前の木の椅子に座っていた。
ただ愁はまったく言葉を理解できず、首を横に傾けながらその場で立ち尽くした。
「હું જોઉં છું. શું આ ભાષણ વાંચી શકાય તેવું નથી?」
(そうか。こちらの言語が通じないのか?)
(...何を言ってるんだ。まっっっったくわからん。)
「ચાલો તેને સ્પષ્ટ કરીએ.」
(では、わかるようにしよう。)
椅子に座っていた女性は、椅子から立ち上がり愁の少し前まで歩いてきた。
愁は少し後ずさったが、女性はお構いなく徐に左手を愁に向かってあげた。
咄嗟に目をつぶった。
ただ何も起きなかった。
気になって少し目を開くと女性は何もない空間から、
自分の背丈とさほど変わらない大きさの杖を出した。
いや召還したのだ。
そして杖の先に光が一点に集まり、杖の先が半透明になっていった。
謎な女性は大きく息を吸い込みまた聞きなれない言語を発した。
「તાકાત આપો」
(スピーリーディング)
愁達のいる部屋にこだまするその言語に呼応したかの様に
杖から奈那を連れ去った無数の白い手が出てきた時に見た光と同じ青白い光が放たれた。
その光は愁の耳と喉を包み込むように覆いかぶさった。
耳と喉に何かが入ってくる違和感を感じた。
「な、なんだ!?何をしたんだ!?」
愁は驚きそのまま女性の方を向き、後ずさった。
驚いた衝撃で愁は持っていた布を落としてしまった。
「ようやく、会話ができるな。木偶人形。」
目の前にいる女性は自身のフードを脱ぎ、愁に笑顔を見せ布を渡した。
雪のような真っ白な肌 髪は光にあたり、黄金に輝く金色の髪
それに、人間とは思えない長く尖がった耳 この世の人間とは思えない。
ただ美しい。ただただ美しい。
愁は目の前にいる元々いた世界の人間とは思えぬ程美しい女性に
言葉を無くしそのままだんまりと立ち尽くし口を開いた。
照れながら一言だけ
「...人のイチモツ見たんだから少しは反応して?」
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