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かつて世界の破滅を願った魔王は転生世界で何を願う?  作者: 零珠音
特別クエスト『熱血王子を護衛せよ』 編
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83話_再交渉

 アンドレアスから話を聞いた俺達は、互いの反応を窺うように顔を見合わせた。俺も含め、全員が戸惑った表情を浮かべている。

 当然の反応だ。

 彼の言うことが本当ならば俺達は、実技試験という些細なきっかけで、この城に招かれたことになる。

 そんな馬鹿げた話があるかと鼻で笑いたいところだが、事実、俺自身が、こうして城に招かれているのだから笑えない。


「あの、王子が僕達に手紙を送った経緯は分かったのですが……具体的に、僕達は何をすれば良いのですか? 事情を聞く限り、少なくとも僕がお力になれるような事は何も……」


「そんな事は無いぞ、アラン殿!」


 アンドレアスは何故か自信満々な表情でアランを見つめながら、そう言った。


「我は見ていた。貴殿の戦いにおいての、聖女の如く慈悲深い姿を! 本来ならば、蹴落とすべき相手に対しても手を差し伸べる、その寛大さ! 実に、感動した!! 戦場において、敵味方関係なく慈悲を向けるのは命取りだという者もいるが、我としては、その心は時にして何よりも強い力になると思っている」


「強い、力……?」


 アランがアンドレアスの言葉を復唱すると、彼は力強く頷いた。


「物理的な力による抑制は誰にでも出来る。しかし、我が目指すのは互いを尊重し、理解し合える世界。〝強制〟では意味が無いのだ。きちんと話し合い、納得した上で成り立った関係を築きあげたい! それには圧倒的な力よりもアラン殿のような皆を包み込む慈悲深さが必要不可欠なのだ!」


 正直、アンドレアスの言葉は、アレになりたいコレになりたいと無限に夢を広げる子どもの妄言と同じものにしか感じられない。

 そんな理想論が通用するほど、現実は甘くない。


「勿論、それを実現させることの難しさは重々承知している。だが、どんなに無理な事でも、僅かでも理想へと近付ける()()()を見い出してしまったら……人とは欲深い生き物だな。その僅かな可能性に賭けてみたいと思ってしまった」


 そう言うと、アンドレアスは期待を込めた瞳で、見渡すように俺達を見た。


「貴殿等からすれば、貴重な時間を、こんな利己的な考えを持つ者に潰されたことを憤怒している者もいるかも知れない……だが、頼む! どうか我に力を貸してほしい……っ!」」


 深々と頭を下げた一国の王子を見るのは、これで何度目だろう?

 最早、そんな場違いな思考を持ち合わせていなければ、この状況を前に意識を留めておけなかった。

 案の定、アンドレアスの言葉に返す者はいない。いくら王子からの依頼とはいえ、これは……


(俺達には、荷が重すぎる……)


 能力云々とか、そういう問題では無く、単純に立場的な話だ。

 俺達は、各々学校に入学して1年にも満たない学生。経験や知識だって、まだまだ浅い。

 これは、そう易々と受けて良い依頼じゃない。

 仮に、彼からの依頼を受けたとして、何か失態を演じてしまった時、誰が責任を取る?

 場合によっては、謝って済む話では無くなる。

 ……ここは、断るのが賢明だろう。

 俺達を信頼して頼ってくれたアンドレアスや背中を押してくれたビィザァーナには悪いが、今回のような案件は、俺達には早過ぎる。


「……(わたくし)からも、お願いします」


 そう言って、頭を下げたのはローウェンだった。


「王子は脳内が、お花畑と妖精(フェアリー)に埋め尽くされた残ね……コホン、失礼。純粋な御方です。時に、このように現実離れした言葉を吐いてしまう事もあります」


 おい。この執事、何か不敬な発言をしようとしていなかったか? 今、明らかに何か誤魔化したよな?

 この時、俺の気持ちとシンクロしていたのはヒューマだけのようだった。

 リュウやアラン、そして、アンドレアスは何故か感動した表情でローウェンを見つめている。

 この単純&純粋トリオは、少しだけ現れたローウェンの本性に気付かなかったようだ。


「ですが、彼の想いは本気です。例え、それが、どんなに幻想的なものだったとしても。真面目が服を着て歩いているような方ですから……それだけは(わたくし)が保証します」


 出来れば、もっと別のものを保証してもらいたかった。だが、逆を言えば、アンドレアスという王子もまた、その程度の保証しか出来ないほどに、発展途上と呼ぶことすらも程遠い位置にいるという事だ。

 手紙の書き方を教わっていたくらいだ、王である父親に同行していたものの政治的なものや外交的なものには、まだ直接、関わってはいないのだろう。

 ならば尚更、この案件から手を引くべきだ。関わったところで、絶対に(ろく)なことが無い。

 よし、断ろう。意を決して口を開こうとしたが、俺よりも先に決意を固めて口を開いた者がいた。


「分かりました。僕なんかで良ければ……協力させて下さい!」


(アラァァァァァアン?!)


 思いもよらないアランの言葉に、内なる俺は彼の名を叫んだ。

 ヒューマも、あからさまに頭を抱えている。

 アランの言葉を耳にしたアンドレアスは、瞬きしている間に、アランとの距離を詰めて彼の両手を掴んだ。


「ほ、本当か、アラン殿?! 我に……我に、協力してくれるか?! ありがとう! ……っ、ありがとう!!」


 興奮した様子で再度問いかけたアンドレアスに、アランは笑顔で頷いた。


「あ、あの、オレも! オレも、王子の依頼、受けます!」


 リュウ、お前もか……

 2人が既に協力の意思を示している。

 ヒューマをチラリと見ると、彼は困ったように眉を下げながら、何かを諦めたように息を漏らした。


「あー、俺も協力します……って言っても、何か力になれそうな事は、今のところ皆無ですけど……」


 ヒューマも結局、折れてしまった。彼の場合、アランがアンドレアスの側に付いた時点で、本心をねじ伏せてしまったのだろうが……

 何の返答もしていないのは、俺だけ。全員が、俺の答えを待っている。

 こんな流れで、こんな空気で、自分だけ断れるわけが無い。


「………………俺も、協力します」


 やはり、あの時、二度寝をしておくべきだったと、改めて心底後悔した。

やはり、こうなる運命……←

次回は、閑話になります。

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