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かつて世界の破滅を願った魔王は転生世界で何を願う?  作者: 零珠音
特別クエスト『熱血王子を護衛せよ』 編
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81話_役者は揃った

 ようやく辿り着いた〝応接の間〟は、意外にも一切の装飾を省いた簡素なものだった。あの玄関を見た後のせいか、どうも物足りなさを感じる。

 明らかに、自分の感覚が麻痺してきているのが分かる。

 この調子じゃ、寮の部屋に帰ってきた時、どうなる事やら……

 部屋の中央には、大きな窓から差し込む日の光に照らされた真っ白な長方形型のテーブルが置かれ、そのテーブルを囲うように4脚の椅子が置かれている。

 それ以外には、部屋の隅で縮こまりながら来客者の様子を窺うように立っている本棚があるだけの、実にシンプルな部屋だった。

 部屋の広さも先ほどの玄関と比べると、本当に同じ建物の中にある部屋なのかと疑ってしまうほどに、恐ろしく狭く感じる。

 正直、〝応接の間〟なんて洒落た名前よりも〝会議室〟という平凡的な名前の方が性に合っている。


「あ、やっと来た!」


 既に椅子に座っていたビィザァーナが緩く手を振って迎えてくれた。

 ちなみにリュウは、隅にある本棚に(もた)れ掛かり、何やら分厚い本を黙読している。

 ……俺がいなかった間、どこかで頭でも打ったのだろうか?


「リュウ君、ライ君達が来たわよ!」


 ビィザァーナがリュウに声をかけたが、リュウに視線を落としたままだ。

 結構、大きな声だったが、今の彼には全く耳に入っていないようだ。


「……凄い集中力ですね」


 感心したように声を漏らしたローウェンに、ビィザァーナは笑いながら首を振った。


「違うわ。私も、初めて気付いた時は驚いたけど…………彼、()()()のよ」


「……はい?」


 ローウェンが訝しげな表情で首を捻り、アンドレアスが言葉が理解出来ないとばかりに口を開け、そして俺は、予想を遥かに上回った現実に絶句した。


「……冗談、ですよね?」


 俺の問いかけに、ビィザァーナは薄っすらと笑みを浮かべた。


「彼の所まで行ってみなさい。そうすれば、すぐに分かるわ」


 〝さぁ、どうぞ〟と、ビィザァーナの手が俺を誘導するように、リュウの方へと向けられた。

 俺達が、こうして会話を続けていた間も、彼は顔を上げることも、本のページを捲ることもしなかった。

 まさか、本当に……


(寝ている、のか……?)


 よりにもよって、王族の住む城(この場所)で?

 初めはビィザァーナを疑っていたが、彼に歩み寄る度に、その気持ちは薄れていった。

 僅かに前後に揺れる身体、ゆっくりと上下する肩。力尽きたように本に添えられた手。そして……


「……すぅ……すぅ……」


 規則正しい寝息。

 最早、疑うまでも無かった。彼は眠っていた。

 王族の者達が生活している、この場所で。

 ぐっすりと、気持ちよさそうに。


「ね? 本当だったでしょ?」


 背後から聞こえたビィザァーナの声に、頷くしか無かった。


 リュウが起きるまで、それほど時間はかからなかった。

 俺が軽く肩を揺すれば、彼は閉じていた目を薄く開け、ゆっくりと俺の方を見た。


「ん……あれ……ライ?」


「よぉ、寝坊助(ねぼすけ)


 無防備な額にデコピンを1発喰らわせると、リュウは小さな悲鳴を上げて額を押さえた。


「おま……っ、寝起きの人間に、何てことを……っ!」


「お前に暇な時間を与えてしまった待たせた俺も悪いが、こんな場所で寝るお前も、どうかと思うぞ」


 立ち上がってリュウに手を差し出せば、彼は俺の手を取って立ち上がった。


「ふぁ……あー、眠い」


 まだ寝足りないとばかりに大きな欠伸をしたリュウを、俺は呆れた表情で見た。

 今回の事といい、昨日の寝坊といい、最近のリュウは睡眠に勝てない身体になっているような気がする。

 まるで彼自身も気付いていない負担を、身体が上手く調整して回復させているかのようだ。


「さて、リュウ君も目覚めたことだし、少し〝真面目な話〟をしましょう。アンドレアス王子」


 ビィザァーナの申し出に、アンドレアスは頷いた。


「あぁ、そうさせてもらおう。リュウ殿にライ殿、空いている椅子に、ご着席願えるだろうか?」


 4脚の椅子の内、既に2脚の椅子がビィザァーナとアンドレアスによって埋められていた。

 残るは隣り合うように並んだ2脚のみだ。

 つまり俺達は、アンドレアスとビィザァーナの2人と向かい合う形で座ることになる。


「あれ、ローウェンさんの分は?」


 椅子には座らず、アンドレアスの傍で立っているローウェンに、リュウが問いかけるとローウェンは意外そうに目を丸くした後、クツクツと控えめに笑った。


執事()に、そのような気遣いは不要ですよ。……リュウ様は、お優しい方なのですね」


 同じような場面が、これまであった中でローウェンの席の存在に疑問を抱いたのは、リュウが初めてだったのだろう。

 彼の肩が、未だに小刻みに震えていた。

 ローウェンの言葉に、釈然としないような表情を浮かべたものの、リュウは空いている椅子へと腰を下ろした。

 そんなリュウに続いて、俺も着席した。


「早速だけど質問させてもらうわよ、アンドレアス王子。貴方は何故、彼らに、()()()()()手紙を送ったの?」


 初っ端から主軸の疑問を投げかけたビィザァーナに、思わず息を飲んだ。


「うむ……あの手紙にも書いたが、我は、どうしても自分の目で確かめたい物があるのだ」


 アンドレアスの言葉に耳を傾けながら、俺は彼から貰った手紙の内容を思い出していた。

 じっくりとは目を通さなかったため、詳細は把握出来ていないが、大まかな事は分かる。


「……竜の腰掛け(ドラゴンズ・レスト)、でしたよね? 確かめたい物というのは……」


 俺の言葉に、アンドレアスは大きく頷いた。


「その通り! 我も、詳しくは知らないのだが、鬼人(オーガ)達が何百年もかけて守り続けているという伝説の〝宝玉〟らしい」


 ……鬼人(オーガ)

 その聞き馴染みのある言葉に反応したのは俺だけでは無かったらしく、リュウと互いに顔を見合わせた。


 ────コン、コン。


 控えめに、応接の間の扉が2回ノックされた。


「アンドレアス王子、お客様がお見えになっておられるのですが……」


 扉越しに聞こえたのは、若い女性の声だった。


「む、来たか」


 アンドレアスは、誰が来たのか既に分かっているかのような言葉を漏らし、立ち上がった。


「良い。その者達を、ここまで通せ」


「かしこまりました」


 扉越しにいた女性が遠ざかっていくのを足音で確認すると、皆がアンドレアスに視線を向けた。


「……もしかして、今日は誰かとご予定が? それなら私達は1度、お(いとま)した方が良いかしら」


 そう言って立ち上がろうとしたビィザァーナを、ローウェンが止めた。


「その必要は、御座いません」


「……どういう事?」


 ビィザァーナの問いに答えたのはローウェンではなく、タイミング良く開けられた扉だった。


「し、失礼します……」


「……失礼します」


 恐る恐るといった感じで入室してきたのは、見覚えのある2人だった。


「アラン?!」


「え、ヒューマまで……何で、ここに?」


 なんと、扉から現れたのはアランとヒューマだった。

 部屋に入ってきた彼らも驚いた表情で俺達を見つめていた。


「あの、アンドレアス王子……これは、一体……?」


 呆然としたまま俺が問いかけると、アンドレアスはアランとヒューマ、そしてリュウと俺を見ると、一寸の迷いもなく深々と頭を下げた。


「アラン・ボールドウィン、ヒューマ・クルス、ライ・サナタス、リュウ・フローレス。今、改めて我は、貴殿等に〝特別クエスト〟を申し込む! どうか、我の願いを聞き届けて頂きたい!!」


 誰もが目の前の光景と内容に言葉を失い、戸惑ったように互いの顔を見た。

 そんな俺達とアンドレアスを見たローウェンは、小さく息を吐いた。


「王子、彼らが困惑しています。依頼を申し込むよりも、先に説明をした方がよろしいのでは? 手紙に書き記せていない事もあるでしょう」


「む、そうであったな……」


 アンドレアスは顔を上げ、困ったように頭を掻いた。


「ローウェン、あと2脚分の椅子を、ここに」


「かしこまりました」


 ローウェンは軽くお辞儀をすると、即座に部屋を出ていった。

 アンドレアスは、ビィザァーナの方を見て、申し訳なさそうに眉を下げた。


「……ビィザァーナ殿、申し訳ない。ここから先は、我等だけで話をさせて貰えないだろうか?」


「それだけ内密な話ってことね……分かったわ」


 意外にも、すんなりとアンドレアスの言葉を受け取ったビィザァーナは、俺とリュウに軽く手を振った。


「それじゃ、私は帰るわね」


「え、でも……ビィザァーナ先生だって、ついさっきまで一緒に話を聞いてたじゃないですか。それを今更、追い出すなんて……」


「それは違うわ、リュウ君」


 ビィザァーナの扱いに眉を顰めたリュウだったが、そんな彼に対し、彼女はアンドレアスを庇うように首を振った。


「あの時は、まだ()()()()()()()()()()()()()よ。元々、さっきの話だって、私の耳に入って良い情報までしか話すつもりは無かった筈よ……そうでしょう?」


 ビィザァーナの問いかけにアンドレアスは顔を歪ませた。


「……本当に、申し訳ない」


「いいのよ。王子として、正しい選択だと思うわ」


 アンドレアスを咎めるわけでも無く彼女はニコリと笑うと、俺とリュウを見た。


「これから、色々と大変だと思うけど、貴方達なら大丈夫。自分が出来る範囲で頑張りなさい」


 まるで、これから俺達に待ち受けている未来を知っているかのような言葉を残し、彼女は部屋を後にした。

 その直後、入れ違うように椅子を持ったローウェンが戻ってきた。


「椅子2脚、お持ちしました」


「ありがとう、ローウェン。……手紙にも、大まかな事は記したが、改めて話をさせてもらおう。我が貴殿等に手紙を送った経緯と依頼内容のについて、な」


 穏やかな外の景色とは裏腹に、この狭い空間は、張られた弦のような緊迫感に満ちていた。

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