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かつて世界の破滅を願った魔王は転生世界で何を願う?  作者: 零珠音
特別クエスト『熱血王子を護衛せよ』 編
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80話_長い前座を終えて

 昔、アランに尋ねたことがあった。

 〝父親は、何をしている人なのか〟と。

 その問いに彼は、嬉々とした表情で〝父は、王都に住む人達を守る騎士だ〟と答えた。

 てっきり父親も勇者だと思っていただけに、彼の答えは予想外ではあったが、当時は特に深くは気にしていなかった。

 だから、まさか彼の父親が騎士は騎士でも聖騎士(パラディン)で、騎士団長を務めるほどの人物だとは思いもしなかった。


「おぉ! 見てみよ、ローウェン。今日のレオン殿は、いつもより生き生きとしておられる!! いつだったか、レオン殿のことをロボットのようだと言っていた者がいたが、ちゃんと人間のようではないか!」


「……王子、とりあえず貴方は口を閉じて下さい」


 アンドレアスとローウェンの、そんなやり取りが聞こえ、俺は、自分とレオンの関係性について話した。

 すると2人は各々で、驚いたような声を漏らした。

 

「なんと! レオン殿の御子息は、ライ殿の友人であったか!!」


「〝世間は広いようで狭い〟とは言いますが……」


 ローウェンも、まだ夢から覚めていないかのような声で、俺とレオンを交互に見た。


「アランやサラから、君のことは何度も聞いていた……会えて、嬉しい」


 先ほどまで、容赦なく剣で斬りつけようとしてきた相手とは思えないほどに、優しく、温かみのある声だった。


「……俺も、会えて嬉しいです」


 これまで間接的にだけ知っていた彼に、ようやく会えた嬉しさに、思わず頬を緩ませて返すと、彼もまた、穏やかな笑みで返してくれた。

 その笑みは、なんとなくアランに似ている気がした。


「ところで……何故、君は此処に?」


 レオンからの問いかけに、俺はローウェンを見た。王様ですら知らない手紙の存在のことをレオンに話しても問題無いか、確認する為だ。

 俺の視線の意図を汲み取ったローウェンは、小さく首を左右に振った。

 つまり彼にも、俺が城に来た理由を〝話してはいけない〟という事だ。

 ……ならば、どうする?

 何か適当な理由をつけて彼を騙すか?


(そう簡単に騙せる相手とは、思えないが……)


 なんたって、相手は騎士団長だ。

 子供騙しのような嘘は、かえって墓穴を掘るだけだろう。

 だが、このまま黙っているのも不審に思われる。


(何か……何か、使い勝手の良い理由は無いか?)


 思いあぐねていると、ローウェンが自分に任せろとばかりに俺とレオンの間に立った。


「彼は、ビィザァーナ様の付き添いとして、この城に来たのですよ」


 全く身に覚えのない情報に思わず問いかけそうになったが、これは彼の作戦なのだと気付き、慌てて口を閉じた。

 まさか、ここでビィザァーナの名前を出すとは思わなかったが、レオンが納得したように頷いた姿を見る限り、考え無しに彼女の名前を出したわけでは無かったようだ。


「……また、例の件か?」


「いいえ、今回は違います」


 ……一体、何の話をしているのだろう?

 当人達にしか分からないように、曖昧に言葉を濁しながら会話を続けていく2人に、蚊帳の外に出された気分だった。


「王が不在だからといって、城の警護を怠らないで下さいね」


「そう言うお前も……客人に粗相の無いようにな」


 レオンはチラリと俺を見ながら、そう言った。

 結局、話の内容は分からなかったが、2人が互いに軽口を叩けるほどの仲である事は分かった。

 レオンは慣れた手つきで俺の頭を一撫ですると、踵を返し、颯爽と薔薇庭園を後にした。

 マリアとは違う、骨張った力強い手だった。

 頭に置かれた手の感触の余韻に浸っていると、アンドレアスがコホンと咳払いをした。


「さて、随分と時間をロスしてしまったが、これで漸く本題に入れるな!」


 この短時間で、正直、アンドレアスからの手紙の存在を、ほとんど忘れかけていたことは秘密だ。


「ここで話すおつもりですか、王子?」


 気合が充分過ぎるほど伝わる王子に、ローウェンは冷静に言葉を放った。

 ローウェンの言葉に、アンドレアスは首を傾げた。


「薔薇の花と香りが舞う、この場所で話すのも悪くないと思うが?」


「王子が、それで良いというのなら(わたくし)は構いませんが……()()()()は、ご内密進めるつもりだったのでは? それに、まだビィザァーナ様とリュウ様にも話されていないでしょう?」


 ローウェンの言葉に、アンドレアスは大袈裟に頷きながら〝そうであったな〟と笑った。


「よし! それではライ殿、応接の間へ案内しよう!!」


 改めて確認するが、彼も、王子という立ち位置の人間であるという認識で間違ってないんだよな……?


 そう言って彼は、ちょっとやそっと振り払った程度では解けないほどに強い力で俺の腕を掴み、歩き出した。

 遠慮も配慮も感じられない、乱暴な誘導だ。

 ローウェンが呆れたように大きな溜息を吐きながら、ゆっくりと俺達の後を追った。

 世話係も呆れるほどに接待マナーが身に付いていない王子だが、不思議なことに彼に掴まれた腕が痛みを訴えることは無かった。

こうして俺はアンドレアスに引かれるまま、再び城の中へ入ったのだった。

あっという間に、80話到達です!

そして、ようやく話が本格的に動き出す……←

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