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8話_また、平穏が戻る

※途中、少し残酷な描写があります。

※最後の方だけ、アラン視点になります。

 其奴(そいつ)は、(てのひら)の上で数回跳ね続けてから飛び降り、森の奥へと進み出した。

 進み出したと言っても身体が小さいせいか進める距離が小さく、俺との距離が中々開かない。

 見ていられなくなった俺は頑張って飛び跳ねながら前へ進むスライムを捕まえた。


「どこか行きたい所があるのか?」


 掌に乗せたスライムにそう問うと、スライムは身体をウネウネと動かしながは変形していく。

 変形していく様を見守っていると、それは森の奥の方向を指す矢印へと変化した。


「……向こうに行きたいのか?」


 俺の問いに矢印の先が頷いた……ように見えた。恐らく、いつの間にか撤退していった触手達の所へ行きたいのだろう。

 このまま放っておく事も出来るが、それよりコイツへの興味の方が勝った。


「俺が連れて行く。その方が早いだろう」


 そう言うと嬉しかったのか、今度は身体でハートらしき形を作り出した。赤黒いハートか……なんか嫌だな。

 こうして俺は、スライムと共に森の奥へと足を踏み入れた。数分後、俺のいた場所に辿り着いたビィザァーナが俺の気配を辿りながら追って来ているのも知らずに。


「……洞窟?」


 あれから、どのくらい歩いただろう?

 少しずつ身体に疲労が見え始めた頃、行く道の先に洞窟が見えた。どうやら、ここから先は森ではなく、洞窟の道になっているようだ。

 洞窟の入り口まで来たは良いものの、入ろうかと悩んでいると手の中で大人しくしていたスライムが突然、洞窟に吸い込まれるように跳び込んだ。


「あ、おい……っ!」


 ここまで来て追いかけない訳にもいかず、俺も洞窟へと入って行く。洞窟の中は意外と明るいようで先を行くスライムの姿を見失う事が無いのは有り難い。

 少し奥まで進むとスライムは進むのを止め、辺りを見渡すような動作をし始めた。


(……この辺りにいるのか?)


 辺りを見渡していると、ペタペタと足音らしい音が聞こえた。スライムにもその音が聞こえたのか、音のする方へと飛び跳ねて行く。

 少し遅れて、スライムの後を追う。この先にある気配が、あの触手と全く同じものだったからだ。

 同じな筈、なのだが……


「……は?」


 目の前に現れたのは自分より明らかに年下の少女。少女は虚ろな瞳を俺に向けている。スライムは少女の周りでピョンピョン飛び跳ね続けている。

 ……まさか、この少女が、あの触手の正体だとでも言うのか?


「君は……」


 俺が口を開いた時だった。


「いたぞ!!」


 野太い男の声が洞窟内に響き渡る。

 振り返ると重苦しい武装を背負った男の集団が、こちらに銃を向けていた。そして、その男の後ろの方にもまた同じ格好の数人の男が。


「なっ、二体?! おい、逃げたスライムは一体じゃなかったのか?!」


「はい。こちらが受けた報告では1体だと聞いています」


「逃げたスライムには擬態能力が備わっていると聞いたので……恐らく、食べた人間に擬態しているものと思われます」


「成る程。しかし、食べられた人間のリストまでは情報としてあがってきていないぞ」


 よく分からないが、今、俺はスライムではないかと疑われているらしい……いやいや、冗談じゃない!


「そもそも、あの二人の内のどちらかとも言い切れませんよ」


「あれから、〝この森にいる〟という情報しか貰っていませんからね」


「森の動物に擬態している可能性もあるしな」


 なにやら不安を駆り立てる会話に、男達には気付かれないように頭を抱えた。

 詳しい事は分からないが、恐らく彼らが探しているスライムとやらは、この少女だ。

 当の本人……いや、本スライムであろう少女は、男達のやり取りを無表情で見つめていた。


(……一体、今は何の時間なんだ?)


 そんな疑問さえ生まれ始めた頃、事態は急変した。


枯渇(ディプリーション)


 洞窟の中で静かに呟かれた()()は洞窟の中で木霊した。それから数秒の沈黙があった後。


 ────ボンッ!!


 何かが爆発したような音と共に、少女の身体が弾け飛んだ。

 少女の身体だったモノは洞窟の壁や近くにいた俺の身体にも付着した。


(一体、誰が……しかも、今の魔法は……)


「ほんと、相変わらず使えないわね。これだから魔法の使えない脳筋ゴリラは嫌なのよ」


 そう言ったのは、洞窟の入り口の壁に寄りかかっているビィザァーナだった。


「ビィザァーナ……」


 リーダー格の男の心底憎らしいという感情が表情にも声にも現れている。


「特殊部隊が動いたって聞いた時は、まさかと思ったけど……やっぱり貴方達だったのね」


「お偉い魔女様が、こんな森まで何しに来た?」


「尻拭いに決まってるでしょ。どっかの誰かさん達が余計なお仕事を増やしてくれちゃったから」


「あ、あれは、俺達のせいじゃ……」


 男の言葉を聞いたビィザァーナは、途端に人が変わったかのように冷酷な目で男を見つめた。


「あぁ? 元々はお前らの仕事だったんだろうが。それを慣れない素人に任せっきりにしたのが原因だろう? もう調べはついてんだ。今回の犠牲者の事も含め、ちゃんと償いな」


 今、目の前にいるのは明らかに、俺の知っているビィザァーナではなかった。

 彼女が指をパチンと鳴らすと、サングラスをかけたスーツ姿の男達が現れ、あっという間に軍服の男達を捕らえた。


「連れて行きなさい」


「はっ!」


 ビィザァーナの言葉に1人の男が返事をすると、男達は皆、消えた。

 今、目の前にいるのは、俺の知っているビィザァーナではない。いや、もしかしたら、これが彼女の本性なのかも知れない。

 こちらに近付いてくるビィザァーナに思わず警戒したが、もう彼女は俺の知る彼女に戻っていた。


「ごめんなさい、ライ君。怖かったでしょう?」


 いや、アンタの方が怖か……いえ、何でもありません。妙な寒気を感じた俺は大人しく頷いておく。


「あの、さっきの女の子は……」


「あれはスライムよ。食べた人間の子に擬態していたのよ」


「……食べた?」


 スライムって人間を食べるのか?前世でも、そんな話は聞いた事がない。

 そんな疑問が湧いたと同時に俺が気になったのはスライムの色だ。スライムの身体の色は一般的に水色や黄色などといった一色の絵の具を垂らしたような淡い色をしている。あんな禍々しい色をしたスライムは前世でも見た事が無い。


「ええ。と言っても全てのスライムがそうってわけじゃないわ。あのスライムが別格だっただけ。()()()()を知ってしまったから、ああいう色になったの」


(人間の味を知って、あんな色に? それって、つまり……)


 そこまで考えた後、わざわざ言葉に出す必要も無いと判断した俺は、その先の言葉を飲み込んだ。

 ひとまず納得した所で、ようやく俺は服や身体に付着しているモノの存在に意識を向けた。

 ビィザァーナも俺に付着している存在に気付き、苦笑した。


「私のせいで汚れちゃったわね。……少しだけじっとしてて」


 そう言ってビィザァーナは俺の肩に手を置いた。


浄化(ベーレイニガン)


 彼女が、そう口ずさむと、俺の身体に付着していたモノは、一瞬にして消え去った。


「よし、綺麗になった」


 満足気に頷いたと同時にピピピッと電子音が鳴り響く。その瞬間、ビィザァーナは気まずそうな表情を見せながら腕輪を顔に近付けた。


「……はい」


 彼女の声に応えるように腕輪から3Dホログラムの男性が現れる。


『やぁ、ビィザァーナ。今、君はどこにいるのかな?』


「え? あー、えっと、そのー……」


 彼女は目を泳がせながら、男性の問いに場つなぎの言葉を並べていた。


『森の入り口で合流しようと私は言った筈だが?』


「あ、あのですね! これには深い訳が……っ!」


『ほぉー。それで深い訳というのは』


 それまで電子的な音で聞こえていた男性の声が……


「彼が関係しているのかな?」


 突然クリアなものになったと同時にビィザァーナの背後に長身の男が現れるとギギギッと錆びた機械のような音を出しながら彼女が振り返る。


「せ、先生……」


「やぁ、ビィザァーナ」


 先生と呼ばれた男はビィザァーナから俺に視線を移す。何だか品定めをされているみたいで落ち着かない。


「ふむ。どうやら顔だけで選んだわけでは無さそうだ」


「あ、当たり前でしょ!」


「初めまして、私はアルステッド。王都にある魔法学校の理事をしている者だ」


 ニコリと人の良さそうな笑みを浮かべながら手を差し出すアルステッドに思わず寒気がした。


(……俺が、苦手なタイプだ)


 一見、紳士っぽい奴ほど敵に回すと厄介だという事を、俺は嫌というほど理解している。

 しかし、差し出された手を取らない訳にはいかず、アルステッドの手を取った。


「ライです」


「君の噂は聞いているよ。何でも凄い才能の持ち主だとか……」


(まぁ、前世(魔王)の能力を引き継いでいるだけなんだけどな)


 謙遜も何も無い。ただの真実を心の中で呟く。


「今回、君を巻き込んでしまったのは我々の落ち度だ。本当に申し訳なかった」


「いえ……俺は、この通り、大丈夫ですから」


 この時、俺は思い出した。

 俺とここまで一緒に来た、あのスライムの存在を。


(アイツは、無事なのか?)


 汚れてしまった辺りを見渡すと微かに何かが動いているのが見えた。

 汚れてしまっているが、あれは間違いなく、あのスライムだ。


(……頼むから、じっとしてろよ)


 スライムに伝わらないのは分かっていたが、それでも言葉にしないと気が済まなかった。

 俺は既に、コイツには並ならぬ情を抱いてしまっているのかも知らない。


(コイツが、あのスライムのように殺されるのは……嫌だ)


 そう、思ってしまった。


(アルステッド達に気付かれる前に、この場を離れないと……)


 報告を続けるビィザァーナの名前を呼び、頭を下げる。


「ビィザァーナさん、先ほどはありがとうございました。助けて頂いた上に、綺麗にまでして頂いて……」


「良いのよ。寧ろ、ここまで巻き込んじゃったんだから、お詫びとして、これくらいさせて頂戴」


 ヒラヒラと手を振りながら、そう言った彼女。アルステッドも、そんな俺達を見て微笑んでいた。


「本当はお詫びついでに君を村まで送るのが礼儀なのだろうが、私もビィザァーナもこの件について早急に報告しろと既に上の方から何度も連絡が来ていてね。今すぐに向かわなければならないんだ」


 心底申し訳なさそうに言うアルステッドに首を横に振る。


「元々、そこまでお世話になるつもりはありません。もう危険では無いんですよね? それなら1人でも大丈夫です」


 正直、その方が好都合だ。


「そうか。あ、そうだ」


 アルステッドは何かを思い出したように懐に手を伸ばした。

 取り出したのは一通の封筒。しかも、そこらの店で売られているような安物ではなく特別な時に使う高価なものだと見ただけで分かる。


「ライ君。君は今、年はいくつかな?」


「10歳です」


 訝しげな表情で彼を見つめると口元に手を添えて何やら考え込むような仕草で彼も俺を見つめ返す。


「ふむ、それなら中等部からの入学という事になるな」


 全く話が見えない俺に彼は持っていた封筒を手渡す。


「もし君が少しでも魔法に興味があるなら12歳になった時、この封筒を持って王都まで来ると良い」


「え、うそ!? それじゃ先生、それって……」


 ビィザァーナは何故か信じられないとばかりにアルステッドを見るが、彼はどこ吹く風といった感じで彼女を見ようともしなかった。


「さて、私達もそろそろ戻ろう。先ほどから私の分身が帰って来いと騒がしいのでね」


「また分身に仕事を押し付けて来たんですか……」


 呆れたように言い放ったビィザァーナは軽く息を吐くと俺に軽く手を振った。


「それじゃあね、ライ君」


「出来れば、次は王都で会える事を祈っているよ」


 そう言って、アルステッド達は姿を消した。気配も無い。此処にいる()()は俺だけだ。


「……もう出てきても大丈夫だぞ」


 結局、彼らは小さなスライムの存在に最後まで気付かなかった。


 あれから村へと無事に帰り着いた俺は、マリアからの熱い抱擁で迎えられた。

 アランは泣きながら服を掴んで離さないし、サラは少し離れた所で、その光景を涙ぐみながら見ていた。

 村の人達も俺の心配をしてくれていたようで、中には今から武器を片手に森へ行こうとしていた者達もいたらしい。

 俺は経緯を話し、皆は良かった良かったと心から俺の無事を喜んでくれた。

 こうして人喰いスライム騒動は幕を下ろしたのだった。




 いつもの平穏な時間に戻った村は日常を取り戻し、アランとサラは家で一緒に夕食を食べていた。


「じゃあ……あれは人喰いスライムだったんだね」


「めったに現れる事は無いって聞いたけど、まさか村の近くに現れるなんて……本当、二人とも無事で良かったわ」


「あの女の人が退治してくれたんでしょ? ほら、この前村に来た魔法使い!」


「まぁ、そうだったの」


 そんな話に花を咲かせた彼女達を見ていたら、いつの間にか窓の外の世界が闇に包まれていた。


「あら、もうこんな時間。長居しちゃったわ、ごめんなさいね」


「折角だし、泊まっていきなさいよ。旦那さん、今は王都なんでしょ?」


 サラは、提案に嬉しそうな表情は見せながらも眉を下げた。


「え、でも……」


「貴女とアラン君の服は前に泊まっていった時の物があるし。何より、遠慮なんて今更じゃない」


 マリアが見るからに加減なしにサラの背中を叩くと驚いたような声が彼女の口から漏れる。

 自分の背中をさすりながらも、サラが彼女に見せたのは怒った顔ではなく穏やかな笑み。


「……それもそうね」


 提案を受け入れたサラは、アランと共に家に泊まる事になった。


「ライの部屋で寝るのは久し振りだね」


「そうですね」


 並べられた二つの布団に横たわり、部屋の明かりを消す。


「そう言えば、あの時の鹿(ケルウス)や結界の時も思ったけど……いつの間に、あんな魔法が使えるようになったの?」


「本で読んだのを何度か練習したからですよ。特別な事はしていません」


 嘘だ。本なんて読まなくても、あの程度の魔法を扱う事など俺には造作も無い。

 俺にとっては知っている魔法を使ったな過ぎないのだから。


「ライは凄いなぁ。昔から、色々と凄かったけど……最近は特にそう思うよ」


「……馬鹿な事、言ってないで寝ますよ」


「はいはい」


 アランの言葉になんだか照れ臭くなって一蹴すると、そんな俺の反応を予想していたかのように軽くあしらわれた。


「じゃ、おやすみ」


「おやすみなさい」


 そして、アランが眠りにつくのを待ちながら、俺は布団の中に潜った。暫くして、アランの寝息が聞こえ始めると、俺はずっと隠していたものを出した。


「……出てこい。もう大丈夫だ」


 小声でそう言うと、俺の机からピョンと何かが飛び降りて来た。

 あのスライムだ。結局、俺は、あのスライムを連れて帰ってきた。

 本当は、そのまま放置しておく予定だったのだが、森を出ようと歩き出した俺の後ろを一生懸命付いて来る姿を見て、思わず家まで連れて帰ってしまった。

 普通のスライムなら兎も角、人喰いスライムだ。連れて帰ったなんて知られたら、どうなる事か……

 しかし、このスライムは、もう人間を食べないような気がした。現に、村に着いてからコイツが人に襲いかかる事は一度も無かった。


(まぁ、これだけ小さければ仮に襲いかかったとしても返り討ちにあうのがオチだろうが)


 そんな事を思いながら、枕元までやって来たスライムを指で軽くつつくと抵抗する事なくフルフルと震えた。

 こうして見ると、中々可愛い奴だ。相変わらず、赤黒い色は気になるが……

 アルステッドから渡された封筒の件も、とりあえず後回しで良いだろう。今日は色々とあり過ぎて疲れた。


「お前も、ここで寝るか?」


 そう言うと、スライムは枕の横に来てベチャッと潰れたような形になった。

 え、もしかして、それが寝る体勢なのか?


 ◇


 横で、ライの寝息が聞こえる。

 辺りは、窓から漏れる月明かりが無ければ室内を満足に見渡すことすら出来ないほどに暗い。

 どうやら僕は、微妙な時間に目が覚めてしまったようだ。

 二度寝をするにも妙に目が冴えて眠れないし、なんだか喉も渇いた。


(水を一杯、貰おうかな……)


 ライを起こさないように立ち上がった僕は、出来るだけ音を立てないように部屋を出た。

 部屋を出ると、食事場所へと続く扉から光が漏れているのが見えた。


「母さん達、こんな時間まで起きてるのかな…?」


 こんな時間と言っても時間を確認していない為、今が何時なのかは分からない。

 ギシリギシリと床が軋む音を最小限に抑えながら、光の漏れている扉へと近付いていく。

 わずかに開かれた扉の隙間から中の様子を伺った。

 何やら話しをしている。こんな時間まで、まだ盛り上がっているのだろうか?

 しかし、心なしか母さん達の表情に明るさは無い。

 静かな空間のせいか、思ったより聞こえる会話に耳の全神経を集中させた。


「それでね。ライに聞かれちゃったの」


「聞かれたって……何を?」


「〝父さんもそうだったのですか?〟って……」


「っ……そうなの」


(ライのお父さん……?)


 思えば、今までライの父親に会うどころか、話すら聞いたことが無かった。


「マリアがライ君を拾ってきて、もう10年が経つのね」


「ぇ……っ、」


 母の言葉に、思わず飛び出した声を押し込んだ。


「あの時のライ君は泥だらけで、痩せ細っていて……いつ死んでもおかしくなかった」


 母は、何の話をしているのだろう?

 混乱する頭を何とか稼動させ、母さん達の話を聞く事に専念する。


「マリアの気持ちは分かるわ。でもね、いつかは言わなきゃいけないと思うの。ライ君は何も言わないだけで、きっと……ずっと気にしている筈よ」


「でも……」


「もし、貴女が1人では打ち明けられないって言うなら、私も一緒に打ち明ける……だから、1人だけで抱え込んじゃ駄目よ」


「……ありがとう、サラ」


「その時はちゃんと真実を話しましょう。マリアはライ君の本当の母親じゃないって事も、ライ君の本当の両親は行方も生きているのかすらも分からないって事も、全て……」


 それから、僕はいつ、どうやって布団まで戻ったのか憶えていない。

 ただ、次に目が覚めた時は、外は既に明るかった。

 横に視線を向けると、綺麗に畳まれた布団だけがあった。


(ライ……もう起きたんだ)


 それなら僕も起こしてくれれば良かったのに、とぼやきながら、僕は布団を畳んだ。

 台所まで行くと、いつもの笑顔で母さん達が迎えてくれた。

 そんな、いつもと変わらない風景を目の当たりにした僕は、昨日の事は実は夢だったのではないかと思い始めていた。


(そう……あれは、きっと悪い夢だったんだ)


 自分に言い聞かせるように呟いた独り言は、誰に聞かれる事もなく、消滅した。

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